196.チェンハーザ平原会戦
帝国皇帝は2万人の兵を引いてアリルヌリア王国へ行ったのだが、これを見た国王と第一王子は、約束の半分ではないか。これでチャルクス族とブルガシェル族に勝てるのかと詰め寄った。アリルヌリア王国は3万の兵を率いてチャルクス族に攻め入って敗れたのだと伝えた。
これを聞いて皇帝は「3万人の兵で敗れたのは、貴殿の国の兵が弱いからで、帝国軍は強い。だからこれで十分なのだ」といきがった。そして、「チャルクス族が強い」と聞いて、まずブルガシェル族を攻撃することにした。ブルガシェル族は、チャルクス族と違って、王都があり、王宮もあるそうである。そこで、ブルガシェル族の王都へ攻め入ることにした。
帝国軍が、ブルガシェル族の領地に侵攻して1日目、帝国軍は斥候よりブルガシェル族が王都の手前1日ほどのところのチェンハーザ平原に陣を敷いているという情報を入手した。
皇帝は
「敵国に入ってすぐに敵軍の位置がつかめるなんで何という幸運。神に感謝だな」
とつぶやいた。
そして、チェンハーザ平原に向けて軍を進めたのだが、途中カルランポ山脈を越える必要がある。あまり険しい山脈ではないが、当然待ち伏せできる箇所も多い。そこを真っ直ぐ向って行くのである。少し無謀であり、普通では考えられない。しかし相手を蛮族と侮っている皇帝としては途中襲撃されるなんて考えもしていないのである。
はたして、山脈に入ってその日から襲撃に見舞われた。それもこちらが休憩しようとすると攻めてくる。そして反撃しようとすると山の中に逃げ込んで出てこない。追っていった者はそのまま帰ってこない。森が深くて彼らの姿をすぐに見失う。とにかく彼らは早いのである。そして神出鬼没、どこに現れるかわからないのである。そして夜になると必ずと言っていいぐらいに襲ってくる、とにかく寝不足で休憩も十分に取れない。それでも4日ほどすると平原を見下ろせる開けた場所に出た。
そして彼らは見たのである。平原の出口をずらっと取り囲むブルガシェル族の軽騎兵を、そう、ここがチェンハーザ平原の入り口、そして帝国軍の墓場だったのである。
皇帝が「やっと山を抜けた」と思った瞬間、彼が見たものは帝国兵が近づく軽騎兵に矢を射かけられて倒れていく姿であった。隊の指揮官が「盾を構え」と言っているが、間に合わない。とにかく帝国兵は寝不足で動きが緩慢なのである。
そして2万人もの軍隊である。それが狭い山道を1列になって行軍してくるのである。隊の最前列で起こっていることを隊の後ろの方にいる者は知る由もない。ただ前に進むだけである。そして前に進む。そしてブルガシェル族の軽騎兵に矢を射かけられて倒れていく。まさに地獄絵図である。
それでも、軍の指揮官が、行軍を止め、平原の入り口に防御の陣形を整えた時には、かなりの帝国兵が死傷していた。そして、防御の陣形を整えると、ブルガシェル族の攻撃はピタリとやんだ。その後はやっと休憩をとることが出来た。
ここで皇帝は軍を引くことも考えたが、大見えを切って出てきただけに、ろくに戦闘もせずに軍を引くわけにもいかない。将軍とも協議したが、まだ死傷者は2000人ほどのことなので軍を進めることにした。
次の日、帝国軍が進軍していくと、平原の中にブルガシェル族が見える。ここで、帝国軍は重騎兵を突撃させた。すると、ブルガシェル族の軽騎兵は馬上から重騎兵に矢を射かけたが、矢が鎧にあたって跳ね返されると一目散に逃げだした。
皇帝は
「『ブルガシェル族の軽騎兵がどんなものか』と思っていたが、我軍の重騎兵には手も足も出ないではないか。ブルガシェル族おそるるにたらず」
そう思うのであった。
そして帝国軍の重騎兵はブルガシェル族を追っていった。それにつられて、歩兵も追撃を始めた。昨日までの沈んだ空気がうそのようである。
一人将軍が
「深追いはするな。隊を崩すな」
と叫んでいるが、あまり聞こえていないようである。
追撃を始めて3日目、今日もブルガシェル族は逃げるようである。それを追って帝国軍は進んでいく。もう、チェンハーザ平原も終わりである。もうすぐにブルガシェル族の王都である。
そこで皇帝は最初に斥候から聞いた
「ブルガシェル族が王都の手前1日のところに陣を敷いている」
という言葉を思い出した。そしてもうすぐ王都である。
何となく嫌な予感がしたとき、帝国軍に無数の矢が降りかかった。周りを囲まれていたようである。無理な追撃戦で帝国軍の軍列は乱れに乱れている。長く伸びた幾つもの集団があるだけである。まともな抵抗は出来ない。その集団に向けて無数の矢が降り注ぐ。
皇帝はすぐに逃げ出した。わき目も降らずにである。帝国軍、そんなのどうでもよい。わが身の命大事である。こんな矢の雨の降る中では捕虜を願い出ても捕虜になる前に射殺されて終わりである。将軍をちらっと見たがあきれているようである。将軍はまだ戦う気があると思ったが、そんなことをしていると間に合わない。とにかく逃げた。途中馬が疲れてくると部下の馬を奪って逃げた。
それからはどうしたのかよく覚えていない。途中カルランポ山脈を越え、アリルヌリア王国の境界を越えた時は付き従う騎兵はわずか10数騎となっていた。
王国歴350年10月、帝国軍はブルガシェル族に大敗したのである。ハルト40歳、チェンハーザ平原は血に染まった。




