195.アリルヌリア王国の危機
アリルヌリア王国の遠征軍は、ほうほうのていで国へ逃げ帰ったのであるが、これにより、国王の権威は地に落ちた。それに失った兵も多く、国軍の戦力も低下した。
すると今度はチャルクス族が越境して、アリルヌリア王国の町や村を襲うようになった。国軍を向かわせると彼らは逃げていく。そして国軍が帰っていくと、また襲ってくる。イタチごっこである。とにかく数が多いのである。1か所の対応をしていると、2か所3か所と違うところが襲われる。そこで国王は国軍をいくつかに分けて対応するようにした。そうしたら今度は分散した国軍が襲われるようになった。
困り果てた国王は、恥を忍んで、マエズラ王国に支援を要請した。使者を王都マエズラ市に送ったら、ハルト国王は現在本国に帰っていないとのことであった。
しかたがないので、使者は、定期連絡船に乗って領都サウスナンテンブルグに行ったが、ハルト侯爵は南の領地の視察に行っているとのこと。南へ行く船には一般の人は乗れないということで、仕方なくアリルヌリア王国へ帰るしかなかった。
その間にチャルクス族の被害は拡大するばかりであった。結局、国王はチャルクス族に金品の提供で襲撃をやめてもらうように要請した。何度かの協議の後、チャルクス族とアリルヌリア王国の間で条約が締結された。
これを聞いたハルトは
「当然の結果だな。疲弊したアリルヌリア王国軍では草原の遊牧民に勝てない。金で解決したならよかったじゃない」
と思った。
それで事態が収拾したのならよかったのだが、アリルヌリア王国を襲うと金品をもらえると聞いたアリルヌリア王国の南のブルガシェル族が襲ってくるようになった。そして、ここでも多額の金品を献上することで、襲撃をやめてもらうことになった。
そうしたら、今度は北の都市同盟がアリルヌリア王国内で新た植民都市の建設の承認を取りに来た。もう泣き面に蜂である。弱った水牛にかぶりつくハイエナのようである。
そして最後に出てきたのが、帝国の腹黒皇帝である。皇帝はアリルヌリア王国の惨状に鑑みて援助の用意のあることを伝えた。するとアリルヌリは特使として第一王子を帝国に派遣した。第一王子は皇帝に謁見して
「はじめまして、アリルヌリア王国の第一王子のエトムントです。この度は皇帝陛下にお目にかかることが出来、恐悦至極に存じます」
「余は帝国皇帝のレオンハルト・フェルバーベルクである。そんなに気を張ることはない。お互いに北大陸の大国、気楽に話してもらえればよい」
「ありがとうございます。それでは、率直に申し上げます。今我国は周辺の遊牧民に攻められて、窮地に陥っています。西からはチャリクス族に攻められ、南からはブルガシェル族に攻められ、毎年多額の金品を提供することで平穏が保たれている次第です。おまけに最近は北の都市同盟が『我国内に新たな植民都市を建設したい』と言ってきております。どうかご助力をお願いしたい」
「ご助力と言われても、ただでは出来ぬぞ。何事も金がかかるのでな」
「お金ですか。今、我国の国庫は非常に苦しくて、今すぐお金を払えと言われましても難しい状況ですので、なにとぞ陛下のご自愛にすがりたいところです」
「ご自愛と言われても、きれいごとだけでは物事は進まぬ。そうだな貴国にあるオルデッシュ鉱山の使用権を10年ほど余にくれぬか。そうすればチャルクス族とブルガシェル族を撃退し、北の都市同盟の問題も解決してみせようぞ」
「オルデッシュ鉱山の使用権を10年も渡すというのは、この鉱山は我国でも有数な鉱山の1つです。これについては一度持ち帰って協議しないとできません。それに鉱山の使用権を渡すのはあくまでチャルクス族とブルガシェル族に勝利し、遊牧民への金品の支払いが無くなったという確証が得られてから、さらに北の都市同盟も今後新たな植民都市を我国内に建設しないという確約が得られてからでないとできません」
「わかっている、貴国の問題は帝国皇帝が解決してみせる。大船に乗った気でいるがいい。いい返事を期待している」
こうして、第一王子は国へ帰っていった。そして、国内で協議したところ、これから10年間のオルデッシュ鉱山の収益の合計とチャルクス族とブルガシェル族に10年間にわたって支払う金額の合計を勘案したところ、皇帝の提案を飲んだほうがいいという結論に達した。
そしてこの結論は皇帝に伝えられて、契約書が作成された。そして契約書の内容を各貴族と北の都市同盟に伝えたのだが、北の都市同盟から「これ以上アリルヌリア王国内で新た植民都市の建設をしない」という条項は、北の都市同盟を無視するもので到底受け入れ出来ない」とい苦情が来た。
それぐらい皇帝権限で黙らせようとしたら、北の都市同盟の都市を有する北部貴族がこぞって戦争への不参加を表明した。帝国の半分の貴族が参加しないのだから、帝国として戦争するのではなく、帝国の貴族有志が参加とすべきだ。当然戦争では帝国旗は使用できないという意見が出された。
これには皇帝もあわてたが、北部貴族の意志は固いようで、アリルヌリア王国との契約書もあり、結局、南部貴族と傭兵で兵を募ることにした。
そして2万人の兵を集めた。当初の半分である。これで、アリルヌリア王国を襲撃する遊牧国家2つを叩くことにした。皇帝は「家も持たずに草を食べて暮らす蛮族ぐらいこれで十分だろう」と思っているのだが、さてどうなることやら。




