191.ペテン師は駆ける2
(前章の続き、ペテン師の視点です)
メイドや執事が退室していくと、ヨハンは
「今回ランド王国がサウス王国に攻められたことで、教会も本部を移転する必要に迫れております」
「なぜだ、別にサウス王国は民にはひどいことをしないと言っているのだし、本部が移転する必要はないと思うだが、サウス王国の元ポルイスト王国領でも、民は人頭税を払いさえすれば、それまでの宗教を信仰しているし、教会も残っていると聞いている」
これを聞いてヨハンは
「ハルト侯爵は帝国の皇帝より多くの情報を持っている。中々だますのは難しい。しかしこれが最後のチャンスこれであきらめるわけにはいかない」
そう思ってもうひと踏ん張りすることにした。
「そう思っているのはハルト侯爵がサウス王国の人とも親交があるからで、いきなり知らない異国人が現れたら、人は驚愕するものですよ」
「確かに、初めて会う人はサウス王国人のあの風貌は脅威に映るかもしれないな」
「そうです、だから教会の上の者は、本部を移転するという結論に達したようです。
そして、この私がその資金を得るように密命を受けた次第です。
ただ、教会本部が移転するとなると、信者を裏切ることになりますので、内密に資金を確保するようにとのことで、このことを知っているのは教会の上位のほんの一握りの者だけでございます。それでどうかご内密にお願いします」
「しかして、その資金を得る方とはどのようなものなのだ」
「はい、教会では司祭を任命しております。これまでは現場の教会から推薦が上がってきて本部がそれを承認するという流れで司祭が決まっていました。
しかし、今回これを任命制にして、この任命権を国王あるいは領主にゆだねるというものです。教会の関与を嫌う帝国皇帝は一早くその任命権の譲渡書を買ってくれました」
「しかし、俺はここフラ王国だけでなくアムスム王国やポルイスト王国にも領地もあるし、今は教会はないがマエズラ王国にも領地があるが、それはどうなるのだ」
「はい、今回、閣下にお売りするのは、帝国を除く北大陸すべての司祭および司祭長の任命権の譲渡書でございます。これなら閣下も有効活用できると思います。もしこれが、他の者にわたると閣下の領地経営に支障が出ると思います」
「確かに、勝手に教会の司祭を替えられては領主だけでなく民も困るな」
「はいそうで、ございます」
「それでいくらなのだ、帝国はいくらで買ってくれたのだ」
「はい、今回は金貨10万枚です。帝国は帝国内だけということで金貨3万枚でした」
「金貨10万枚か、かなりの金額だな。それでその譲渡書は本物なのか」
「はい本物です。ここに印章もありますので調べてもらえればその印章が本物と分かるでしょう、何ならこの印章もつけて、この際ですから金額は金貨10万枚で変わらずということお譲りします」
しばらくハルト侯爵は譲渡書と印章を眺めていた。そして、
「言っていることは信じがたいが、帝国皇帝が金を払ったのならこの譲渡書と印章は本物なのだろう。
しかし、このことは教会のほんの一部の者しか知らないのであろう。もし後で教会から何か言われたらどうするのだ」
「はいそれは問題ありません。ここに教会からの指令書もありますし」
「わかった。それなら、事の経緯を書いた書面とその指令書、それにあとで教会の者が異論を唱えてもすべて無効で譲渡書は有効と記載した契約を作成し、その契約書にその印章を押してほしい。それで譲渡契約の成就としたい」
ヨハンは
「皇帝はすんなり金をくれたが、ハルト侯爵は契約書を作るという。さすが商人といったところか」
と思った。
その後契約書が作成され、譲渡書と印章がハルト侯爵に渡った。金を手にするとヨハンは一目散で侯爵邸を出てどこかへ消えていった。契約日は12月10日。サウス王国とランド王国それに南の都市同盟と講和条約が締結されたる1週間前のことであった。
つまり、ヨハンはサウス王国とランド王国の戦争中に印章を持ち出し、戦争が終わる前にこれをネタに金をせしめたのである。したがって、教会本部は印章を盗まれたことを知らず、それに気づいたのは戦争が終わって、帝国でこの問題が提起された後であった。したがってこの譲渡書も契約書も有効である。形式的にはそうなる。
王国歴349年12月、司祭の任命権を得たハルト39歳、ペテン師の住む北大陸は平和である。




