190.ペテン師は駆ける1
(今回はペテン師の視点です)
元ランド王国の司祭は、帝国の皇帝から金貨3万枚を巻き上げたが、次はどこにしようかと考えた。そしてユルノギ王国に行ったのだが、こんな眉唾物の話を信用するような人間はユルノギ王国にはなかった。危うく捕まりかけて、逃げ出した。
この司祭、非常に手癖が悪かった。この司祭のスキルは窃盗である。そのスキルを活かして、司祭になる前はいろいろな盗みをしてきたのであるが、ある時つかまって、断罪されそうになった。教会の司祭のとりなしで己の罪を悔い改め神に仕えるなら許してもらえることになった。
その司祭が生きている間はおとなしくしていたが、その司祭が亡くなると、後を継いで司祭になったのだが、その後は好き放題である。司祭という肩書からいろいろ献金を受けることがあったが、本部に報告する時は少し抜き取って報告していたし、懺悔などで相手の弱みを知ると、それをネタにゆすったりしていた。
そして、サウス王国軍がランド王国に迫った時は本部へ行くと言って逃げ出したのである。そして本部に行くと、本部はサウス王国軍の侵攻で上を下への騒ぎであった。「ここも長くない」と思い本部の印章をかねてから用意していた偽物とすり替えたのである。
だから、この印章の押された書類は形上は有効となるわけで、これをネタに帝国から金貨3万枚をせしめたのであるが、これが教会に知られると破門どころか命の危険があるといってよい。時間的には潮時と思っているのだが、金になると思うとやめられない。
次にベー王国やランドル王国、フラ王国に行くことも考えたが、「そろそろ教会本部も印章がすり替えられていることに気づく頃だ」と思って、王国に行くことはやめて金を持っていそうな商人のところへ行くことにした。
次にこの司祭が狙いをつけたのは、サウスブニューデン侯爵家である。当主のハルトは中々の切れ者との評判であるが、教会のことには疎いようである。だからうまく騙せると踏んだのである。
侯爵邸に行くと侯爵が会ってくれるそうである。なんでもランド王国の状況が知りたいとのことであった。
「はじめてお目にかかります私はランド王国で司祭をしているヨハンという者です。この度は時間をとっていただき感謝します」
「私もランド王国のことは気にしているのですよ。サウス王国とはうちの商会とも取引がありまして、ランド王国がひどい状況なら、対応を検討する必要があると思いまして。
一応サウス王国からは人道的にひどいことはしないから、うちの艦隊は動かすなと通告を受けたのですが、情報というのは一方からだけ聞くというのは、正確でない場合もありますので」
そこでヨハンは「サウスブニューデン侯爵家が占領された都市の状況を把握している」と思い帝国でしたような嘘八百はしないことにした。
「私もサウス王国軍が来る前に、同盟都市から本部に行ったので正確な状況は知らないのですよ。ただ、その後帝国で聞いた話では占領された都市もその後落ち着きを取り戻し、市民も平穏に暮らしていると聞いています」
「それはよかった、私は今は貴族ですが、元は農家の次男でして、民の暮らしはとても気になるのですよ。民が平穏に暮らせる。これが一番だと思っているのですよ」
「侯爵様はずいぶんとおやさいのですね」
「まあ、詭弁ですけどね」
こんな世間話をするために来たわけではないのだが、この侯爵、割と自分のような身分の下の者にも気楽に話をするので、とりとめのない話が続いて行く、しまいにヨハンは焦ってきた。早く本題を切り出さないと時間がない。
「侯爵様、本日折り入って頼みたいことがあり、寄せてもらいました」
「なんだ、内密の話か」
「はい、人払いをお願いします」
「わかった、後ろの者は退室するように」




