186.糾弾
俺は南の都市同盟が東の王国に金を貸した借用書を手に入れた。まず、これを北の都市同盟に見せた。すると、
「これは北の交易路を破壊しようとするものだ。南の都市同盟の商人は帝国で営業できなくするべきだ。また、金のために1つの国を亡ぼすということは神に対する冒涜だ」という話になった。
北の都市同盟のお歴々は、すぐにブルヘンハイム公爵のところへ行った。そして、公爵と北の都市同盟のお歴々は皇帝のいる帝都へ陳情に行った。この話はすぐに、皇帝のところにも伝わった。
なお、帝国の帝都には決まった帝都というのはない、皇帝が変わるたびに、その皇帝の住むところが帝都となり皇宮となる。今はフェルバーベルク公爵が皇帝なので、彼が住む公都フェルバーベルクが帝都となる。
俺も同行を求められたが、「今は戦闘をしてないとはいえ、帝国はかつては戦闘を繰り広げていた間柄、入国した段階で拘束されてもかなわない」ということで丁重にお断りした。
皇帝のいる帝都フェルバーベルクの宮殿で、ブルヘンハイム公爵が
「南の都市同盟は東の王国に金を貸して、壊滅した王国の軍隊を復活させた。そして、その金を返すためと称して、リチ王国を滅亡させた。リチ王国は北の都市同盟が交易路としている重要な国だ。実際、この国が滅んだことで、北の交易路は途絶え、東方の産物が入らなくなった」
これに対して皇帝は
「リチ王国が滅亡し、北の交易路が寸断されたとは聞いている。しかし、それは遠い異国のこと、帝国が関与すべきではない」
これに対し、公爵は
「その異国の滅亡に関与したのが、帝国で広く商売をしている南の都市同盟の商人であることが問題である。これらの商人が、もし帝国で暗躍したら、帝国にも重大な影響が出る。すぐにこれらの商人の活動を禁止すべきだ」
皇帝は、内心、
「これはまずい。俺が南の都市同盟に膨大な借金をして、それを返すために南の商人に都合のいい政策をとろうとしていることがばれると、下手する反乱がおきる」
と思った。そこで、
「これについては、こちらでも調査して、事実が明らかになった時点で適切な対応をする。しばらく調査する時間をくれ」
その後もいくつかのやり取りがあったが、結局、根負けして公爵は引き下がった。
皇帝としては、「とにかく事を荒立てたくない。とにかく早くもみ消したい」と思ったが、「皇帝選挙にも積極的に関与するやつらだ。これぐらいのことは平気でするだろう」と思った。
ほっておくわけにもいかず、皇帝は南の都市同盟の代表を呼んだ。
都市同盟の代表は
「我々が関与したという証拠でもあるのですか。あるのなら見せてほしいものである」
あくまで白を切るつもりのようである。そこで皇帝は
「南の都市同盟は関与していないのだな」
「我々が関与したとは私は聞いていません」
「しかし北の都市同盟はその借用書を入手したと聞いている」
「果たして、その借用者が本物だという証拠でもあるのですかな」
タヌキとキツネの騙し合いである。
そこで皇帝は、この機会に自分の借金をチャラにするいい方法を思いついた。
「公爵は、南の商人は帝国で活動禁止にすべきと言っている。皇帝としても公爵の意見を無視する訳にもいかない。若し南の都市同盟が余に貸した金を返済不要とするなら、南の商人が困らないような対応をとれるのだが、このままだと南の商人は帝国で営業禁止にするしかなくなる」
これには南の都市同盟もあわてた。
「わかりました、こちらでももう一度調査して再度お伺いします」
このように言って帰って行った。
南の都市同盟の代表は、その後、帰って協議を重ねたが、結局「皇帝の言うことを聞かざるをない」という結論に達した。今の南の都市同盟としては帝国は重要な市場である。人口も多いし、最近は、フラ王国の農産物が入ることにより食料問題も解決し、徐々に商品の売れ行きも改善してきている。ここで営業停止にされると、多くの商人が破滅する。
再び皇帝のもとを訪れた南の都市同盟の代表は
「再度調査したのですが、東の王国へ金を貸したという記録はございませんでした。その借用書なるものは偽物でないかと思われます。我々の名を語った誰かの差し金かもしれません」
これに対し、皇帝は
「あくまで、金を貸した事実はないと」
「はい」
「それで、俺に対する借金を帳消しにすることについてはどうなった」
「はい、陛下の政策を見て判断したいと」
「しかし、口約束では信用できないので、書面で提出するように。これを見て判断する」
これも狐とタヌキの騙し合いである。
何度か皇帝と都市同盟の代表の間で書面のやり取りがなされた後、やっと
「皇帝は、南の都市同盟が東の王国に金を貸したという借用書の真偽を確かめる公聴会を開催する。この公聴会で借用書が偽物と判断されれば、南の都市同盟の商人の帝国内での営業はこれまでどおりとする。公聴会の開催をもって南の都市同盟が皇帝に貸した金は返済不要とする」
というものであった。
これに、皇帝は大満足であった。しかし南の都市同盟は大問題をかかえた。まず、借用書にあった人物はその後密か姿をくらまし、いないことになった。また、公聴会の判事への買収工作である。しかし、これが難問であった。前回の皇帝選挙で苦杯をなめたブルヘンハイム公爵やバイエルベルク公爵の目が光っており、判事が中々金を受け取らないのである。金を受け取った判事もあいまいな回答しかしないので、当日どのような判断を下すかわからないのである。
その様にしているうちに公聴会の日がやってきた。




