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182.リチ王国の悲劇

 マエズラ王国から南に行ったところに、リチ王国がある。この王国は周辺国からは南の王国と呼ばれている。草原の中の国である。NO.21の横を流れる川を下っていくと王都リチに至る。さらに、この王都リチから西から流れてくる支流を上っていくとアリルヌリア王国に行ける。また、南に下っていくと海に行くことが出来る。その海を渡って行くと東の帝国に行ける。この一連の交易路の中間点にある国で。まさに交通の要衝である。さらに最近はこの交易路をハルトが北の海と繋げたことにより、行きかう商人が増えて、まさに繁栄の真っただ中にあると言っていい状態になっていた。


 王国歴349年8月、その日、リチ王国は突如北から現れた軍団に襲われていた。北から現れた軍団はとにかく早いのである。兵が弓矢を構えても、狙いをつける前にすぐに敵が迫ってくるので、兵も恐れをなして逃げ惑うばかりである。


 結局、国の境にある砦はすぐに落とされ、近くにある北の町は占領されたようである。そこから逃げた住民が言うには「男はすべて殺され、女は奴隷として連れ去られて、金目の物を奪うと兵が町に火をつけて回っている」というのである。


 リチ国王アウノンは、この軍団と戦うため自ら兵を率いて戦うことを決めた。そして王都の守りを固めた。また、念のため3人の娘を呼んでマエズラ王国に支援を要請に行かせることにした。若し国が滅んでも王族が生き残っていれば国を再興できると考えたのである。


 しばらくすると、3人の王女が現れた。

「おまえたち、3人はマエズラ王国に行って、何としても支援を要請してマエズラ王国の援軍を連れてきたほしい。もし、援軍を出してもらえなくて、このリチ王国が滅んでいたら、その時はマエズラ王国で暮らせ」

「お父様、私たちも一緒に戦います。民を見捨てて私たちだけ生き延びるなんてできません」

「それはならぬ、多分襲ってきたのは東の王国の兵だ。彼らは強い。このリチ王国の兵では歯が立たない。彼らは野蛮で、王族は根絶やしにされる。おまえたちだけでも生き延びてくれば、わしは喜んで死ねる」

「そんなお父様」

「早くいけ。時間がない。王都の民にも、女子供には逃げるように言ってある」

「わかりました。お父様のご無事を神に祈っています」

そう言って3人の王女は出て行った。


 王都リチは東に大河が流れ、その大河の支流が西に向かっている。その川の北側に小高い丘があり、その丘の上に王城がある。王城の北側に市街が広がっている。都市は城壁で囲まれ、その城壁の北側には川から水を引入れた堀がある。


 東と南に対してはこの本川と支川が天然の要害となっていた。また、北に住むマエズラ族もこのあたりは草原で、彼らは基本、森の民である。草原は苦手なようで、ここまで略奪に来ることはなかった。また、東の王国も、ここまでは距離があるため、ここを襲うことは滅多になかった。そういう意味では、遊牧民が跋扈する中にあっては割と安全な都市であった。


 国王は、急に現れた東の王国の軍団について、

「昨年マエズラ王国との戦争で、大敗し軍団はほぼ壊滅したと聞いていたのに、急に軍団が復活するなんて不思議である。また、今まで襲ったことのなかったこのリチ王国を襲うのは不思議でならない。まるで誰かに操られているようである」

そう思った。


 王女たちが王都を出て行ってから、3日もすると王都郊外に東の王国の軽騎兵の軍団が現れた。その数約2万人。彼らは王都の北西の丘陵に陣を敷いた。


 城壁の上から彼らの陣地を見ると攻城兵器はないようである。国王アウノンは

「彼らは攻城兵器を持っていない。絶対に城門を開けてはならぬ。たとえ何があっても耐えるのだ。1か月もすれはマエズラ王国の援軍が来る」

そう部下を鼓舞した。


 次の日、東の王国兵士が城門の前に来た。弓矢の届かない距離である。そして

「すぐに降伏しろ。速やかに降伏すれば命だけは助けてやる。若し抵抗するなら、男は皆殺し、女子供は全員奴隷にする。1日だけ時間やる。明日の朝までに返事をしろ」

そう言って兵士は戻っていった。


 次の日、兵士がまた城門の前に来た。


 リチ国の軍を預かる将軍が

「我々な絶対に降伏しない。お前たちもあきらめて軍を引け」

そう答えた。


 すると東の王国の兵士はリチ国の民を連れてきた。そして

「これからいいものを見せてやる。これがお前たちの将来の姿だ」

そう言って、連れてきた民を殺した。そして

「よく見ておくのだな、これがお前たちの姿だ」

そう言って戻っていった。


 これを見ていた城内の兵士は

「打って出ましょう」

と言い出した。

「そんなことをしたら敵の思うつぼだ。今は耐えるしかない」

部下をなだめるのが大変だった。


 それからしばらくした夜半に、急に城内が騒がしくなった。敵襲かと思い武器をとったら、すでに敵が城内なだれ込んでいるとのこと。しばらくして敵の兵士が王宮になだれ込んできた。


 その夜、リチ王国の王都リチは落ちた。密かに城内に潜入させた兵士により城門を開けさせ、そこに東の王国の軽騎兵が突入したのである。男はすべて殺され、女子供は奴隷にされ連れ去られた。金目のものは奪われ、王都は火に包まれた。


 王国歴349年8月、こうしてリチ王国は滅んだ。

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