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180.皇帝選挙

 王国歴348年10月帝国の選挙が行われた。選挙のやり方は、帝国の7大貴族と呼ばれる貴族の推薦を受けた候補者が、皇帝選出会議の場で抱負を述べて、それに帝国内の貴族が投票して決めるのである。


 この場合貴族の大きさ地位などにより保有する選挙権の数も変わっている。大貴族は多くの投票権を持ち、小貴族は少ない投票権しか持たない。


 今回は前回の反省を踏まえ外国の貴族の立候補者は推薦人が集まらず、いなかった。立候補したのは、領内に北の都市同盟の自由都市を多く抱え税収が豊かなブルヘンハイム公爵と南の都市同盟から多くの資金を得たフェルバーベルク公爵それに帝国の銀の産地で税収が豊かなバイエルベルク公爵の3人であった。


 当初の見込みでは北部の2つの大貴族の推薦を受けたブルヘンハイム公爵が勝つと思われていた。それは北の都市同盟からの安価な東方の産物の流入によって経済が活性化して、帝国の北部一帯の貴族がその恩恵にあずかっており、人気が高かったからである。また、残りの2つの公爵家はともに帝国の南部にあり票の取り合いになり票が割れると思われていたためである。


 しかし結果はなりふり構わず買収攻勢をかけたフェルバーベルク公爵が勝利した。この結果は他の2人の候補者にとっては青天の霹靂であった。不正が行われたのではないかということで、再度、票の確認が行われたが、投票された票自体には問題がなかったので、フェルバーベルク公爵の皇帝就任が認められた。ただし、北部貴族に不利な政策を行わないこと。また、また死亡した前皇帝が帝国に入国する際に交わした「全貴族に大幅な領主権を認める。この領主権には司法、立法、徴税、軍事、外交を含む」という条項を順守するという条件付きであった。


 この条件をのむということは各貴族があたかも1つの国家としてふるまえるということを意味している。まさに帝国は分裂の危険を抱えているのであった。


 このようにして、皇帝に就任したフェルバーベルク公爵は大きな問題をかかえた。まず、南の都市同盟に選挙の際にした借金を返済しなければならないということである。また、各貴族家の権利の遵守という条項を飲まされたため、北部貴族に多くの税を課すことができなくなった。


 自分の領地を通行する商人に税を課すことはできるが、そうすると、主に南部を交易路としている南の都市同盟の商人の反発を招く。結局、皇帝が出来るのは外国と関係することだけである。


 対外戦争をするには膨大な費用を要する。今の帝国の国庫にそんな余裕はない。各貴族は独自の徴税権を持っており、帝国の国庫に上納されるのはその一部である。対外戦争となれば各貴族家の協力を取り付けなければならない。今の状況では理由のない対外戦争は無理である。


 それに、ユルノギ王国やアムスム王国それにイングブリオ王国やフラ王国が友好関係を構築している状況で、どれか1つの国に攻め込めば、これらの国すべてを相手にすることになり。とても勝てない。それに戦争になれば北の海の交易に支障が出るとして北部貴族の反発を招く。


 そこで目を付けたのが、フラ王国のサウスブニューデン侯爵が運航している定期連絡船である。定期連絡船が帝国の港に入港する際、港湾使用料の名目で重税を課すことにした。


 そうしたら、サウスブニューデン侯爵は帝国の港に入港せずに、マエズラ市から直接アムスム王国のフグ町まで行くようにして、途中の寄港地をなしにしてしまった。


 そうしたら慌てたのはこれまで、この定期連絡船が寄港していた北の都市同盟の諸都市である。経済の中心がアムスム王国のフグ町に移ってしまう。これは皇帝就任時の約束の重大な違反であるとの抗議が殺到した。それで、この命令はすぐに取り消さざるを得なかった。皇帝の権威の失墜である。


 命令が取り消されると、サウスブニューデン侯爵は帝国の港にも入港するように定期連絡船の航路を元に戻した。なぜかこうなるのが分かっていたようで腹立たしい。なんとかサウスブニューデン侯爵の鼻を明かしてやりたいと思うが、今のところいい案が浮かばない。


 それよりも問題なのは、南の都市同盟が「早く借金を返せ」とせっついてくることである。頭の痛い問題である。だいたい「南部で二人の候補者が出たら票が割れる」と言ったのに、「そこはうまくやるから」と湯水のように金を突っ込んだのは南の都市同盟なのだから、向こうで解決策を考えてくれればいいのに。解決策のない問題に頭を悩ます新皇帝であった。

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