176.マリアの侯爵邸での生活
わたしはマリア。サウスブニューテン侯爵家のメイド。もとはシフエルブルグ港の父の経営する居酒屋で給仕をしていた。そしたらハルト様がお客としてやってきたの。一目見て貴族だとわかった。平民の服を着ていたけど振る舞いが上品だし何より顔がいい。
「こんな人の下で働けたらいいな。そして妻は無理でも愛人ぐらいになれたらいいな」
と思った。それで必死にアピールした。
戦争が終わって
「もうハルト様は国に帰ったのかな」
と思ったらちょっぴり寂しくなった。
それから、しばらくして、ハルト様がこの居酒屋を訪れた。見ると家来や供の人と一緒、奥様もいるとか。最初奥様を見た時、ハルト様は貴族家に婿に入ったのかなと思った。だって、奥様の容姿は平民以下だったのだもの。
ハルト様は戦争で武勲あげ、このフラ王国の貴族になるとのこと。ハルト様は以前私が「屋敷で働きたい」と言ったことを覚えていて、奥様に紹介してくれたのだけど、奥様が中々「うん」と言ってくれなくて、「無理かな」と思ったの。
そうしたらハルト様が助け舟を出してくれて、雇ってもらうことになった。条件は、ハルト様を誘惑しないこと、そして伯爵邸で働く人間の情報を奥様に伝えるとこと。父も行った先の都市でお店を出してもらえることになって、親子で来ることが出来た。
ハルト様を諦めるのはちょっぴり残念だったけど、
「貴族の屋敷ならほかに素敵な人がいっぱいいる」
と思った。
伯爵邸では、メイドの仕事とともに屋敷で働く者の情報を奥様に伝えること。最初はいろいろな情報を伝えたのだけど、そのうち、
「ハルト様の浮気調査の情報だけでいい」
と言われた。
ハルト様は屋敷ではよくメイドの姿を目で追っている。口には出さないし、手も出さない。だからハルト様の浮気調査は難しい。とにかくハルト様の目線を追って誰を見ていたか、それを奥様に伝える。すると報奨金をもらえる。
特に奥様がいないとき、ハルト様が何をしていたか。これは根ほり葉ほり聞かれるので奥様が外にいるときは、毎日のことを記録に残している。細かく報告しないと奥様の機嫌が悪い。
それからハルト様が外へ出ていた時のことも聞かれる。これが難しい。ハルト様は転移魔法が使えるので一瞬で外国からでも戻ってきてしまうので、部下がいっしょだとそれとなく部下に聞けるけど、ハルト様だけ戻ってきたときは誰にも聞けない。まさかハルト様に「外で浮気をしてこなかったか」なんて聞けない。
そういうときは正直に「分かりませんでした」と答える。すると奥様は他の人に聞いているみたい。私の他にもスパイはいるみたい。
侯爵邸、当時は伯爵邸で働いていたら、私を見初めてくれる人がいて結婚した。私は従士の妻になった。準貴族である。平民から準貴族、出世だと思った。父も喜んでくれた。仕事を辞めないといけないのかなと思ったら、仕事はやめなくていいそうだ。奥様に言わせると、
「既婚者の方がハルト様の浮気の心配がなくていい」
そううだ。
だから、侯爵邸では結婚している人も多く働いている。
それから領軍では女性も多く働いている。
奥様に言わせると
「これはハルト様の趣味だ」
そうで、
「領軍で雇う女性兵士はなるべく容姿の悪い者を率先して雇うようにハルト様に言っている」
そうだ。
侯爵邸の食事は美味しい。朝はバイキング方式と言って、好きな料理を自分で選んで食べるようになっている。それに食事は侯爵家の家族だけでなく、そこで働く者も一緒だ。これはハルト様が納豆が好きで、これを奥様が食べないので、1人だけで食べるのは嫌だということで始まったらしい。
わたしは日ごろハルト様の情報を奥様に伝えているので、ちょっぴり悪い気がして、ハルト様と同じ納豆を食べている。
最初納豆を見た時は
「こんな腐った豆なんか食べて大丈夫なのか。糸まで引いている」
と思ったが、食べてみると美味しかった。
これを見たハルト様が嬉しそうに
「マリアも納豆の良さが分かったようでうれしい」
と言われた。
それから、ハルト様の子供はすごく優秀だそうだ。全員転移魔法が使えると聞いたことがある。
それで侯爵邸で働く者の中には
「愛人になってハルト様の子供を産みたい」
と言っている者がいる。
このような情報は奥様に伝えている。すると知らないうちにこのような人は遠くに転属になっている。それを聞くと奥様は怖いと思う。
王国歴347年12月、侯爵邸の秘密が完全にレンに漏れている、ハルト37歳、領都サウスナンテンブルグは今日も平和である。




