169.東方からの脅威
俺の認識は、
「そこに住んでいる住民が他国を侵略さえしなければ王国の存在は保証される」
そういうものであった。
しかし、現実はそう単純な物ではないようだ。そう言ってくれたのはアリルヌリア王国だけであったようだ。確かにアリルヌリア王国はそういった認識でよかったのだが、周りの国々はそうでもなかったようだ。北の海の北の諸国は海を挟んでいるため静観といった感じであった。これは俺が強力な艦隊を有し、北の海の制海権を握っているため、何も言えなかったというのが正解である。
これに対して東の諸国は、これまでのマエズラ族がおとなしくして、さらに交易により俺が利益を得ているのは看過できない様子であった。ある時、東の王国の使者と名乗る者が来て「税金を払え」と言ってきたとの知らせを受けた。その際、現地の代官は
「今王が不在のため、即答は出来ない、国王と協議して後日返事をする」
と回答したそうである。
この知らせを受けて俺はすぐにマエズラ王国の王都マエズラ市に転移した。そして、マエズラ族にこれまで税を払ってきたかと問うと「税?それ何?」と聞かれた。どうも税を払っていなかったというか、税金という概念がなかったようである。森の中で自給自足、時折訪れる商人に毛皮を売って食料を買う。というか物々交換をする、そんな生活では税金の取り用がなかったようである。無理やり税をとろうとすれば戦争になったようである。
彼らの頓珍漢な回答をまとめるとこのようになった。言語理解のスキルがなかったら理解できなかった。たぶん東の王国も税をとるのを諦めていたのであろう。
それをなぜ、今になって税を取ろうとするのか。たぶん俺が曲がりなりにも国としての体裁を整え、ヤマユリ商会が商館を設置し組織的に交易を始めた。それに俺が南へ抜ける街道を整備し拠点となる都市を整備した。そして、魔道馬車で巡回しているため、この地域の治安が保たれている。俺は商人から通行税は取っていない。そのため、ヤマユリ商会以外の商人もこの街道を通ることが多くなっている。逆に、東の王国を通る商人が減ってきている。このようなことが背景にあるようだ。
これは言いがかりだとして無視することにした。時間稼ぎのため、一応
「これまでの住民に、これまで税を払っていたか聞いているが、何分こちらの言葉を十分理解していないので聞き取りに時間がかかっている。回答は保留したい」
と回答した。
そして本国から3000人の陸軍を呼び寄せることにした。
陸軍が来るまでの間に、マエズラ族から勇敢な戦士を選抜してもらった。「東の国が攻めてくるかもしれない」というと1000人ほどが志願してきた。マエズラ市のマエズラ族は現在5000人、そのうち戦える人間といったらもっと少ないはずである。それが1000人である。血の気が多いと言うか脳筋と言うか血気盛んな種族である。周りの国々から蛮族としておそれられるはずである。
そのうち、俺は鑑定で弓矢の才能のある者、魔法の適性のある者を600人ほど選抜した。残りの人には「またの機会に」と丁重にお断りした。鑑定の結果、気づいたのだが、ここの種族は魔法適性のある人が多い。鍛えればいい戦士になると思った。
そして弓矢の適性のある人間にはクロスボウとロングボウの練習をさせた。ロングボウは扱いづらいのだが、ここの種族は器用にロングボウを扱う。まるでイングブリオ王国の兵士を見ているようである。そして魔法適性のある人間に手っ取り早くということで、いきなり攻撃魔法それも魔力弾を教えた。そしたら普通は苦労するのだが、これもすんなり魔力弾を放った。これには驚きである。やはり周りの国々から恐れられるはずである。
そうしていたら応援部隊3000人の兵士がやってきた。軍の指揮官はバルトカイである。彼はネイメー伯爵領からついてきた古参の兵士である。魔道馬車は俺の収納空間ボックスにある魔道馬車300台を出した。そしたら、レンもやってきた。嫌な予感しかしない。
「旦那様の窮地に不祥このレン、真っ先に馳せ参じました」
何となく言葉が芝居がかっている。レンはやるそのものである。
そしたら、レンを見たマエズラ族は「我らの女神」と言って崇め始めた。彼らの美的感覚は狂っているようである。そしてすぐに意気投合したようである。さすが脳筋同志、打ち解けるのも早いようである。
こうして俺の戦争準備は整ったのであった。
王国歴344年7月、脳筋種族と脳筋妻の扱いに頭を悩ますハルト34歳、植民都市マエズラはまさに戦争前夜である。




