162.北の海中央海戦
王国歴342年5月、レンは40隻の軍艦とともにサウスナンテンブルグを出港した。副官はサウスブニューデン侯爵家のニコラウス従士である。また、艦隊の水兵は1隻当たり50人、40隻で2000人である。途中ネイメー伯爵領のフグ町に寄港し、そこで北の都市同盟の軍艦2隻と合流する予定である。そして、その2隻の案内で、ドレーン王国を目指すことになっている。
次の日の夕刻、無事フグ町に着くとすでに、北の都市同盟の軍艦2隻は来ていた。軍艦は帝国北部の都市ブレーフェンブルグ市の軍艦であった。軍艦の指揮官はオスヴィン提督であった。帝国の人間に会うということで緊張したが、会ってみると、それなりに気さくな人であった。
「初めまして、私が、レン・サウスブニューデン、サウスブニューデン侯爵の妻です。今回はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。私は貴族ではないので、気楽にオスヴィンと呼んでもらえればいいです。レン様は、もっと怖い人かと思っていました。顔は好みがありますが、こんな華奢な人とは思いませんでした。なんせ『爆裂のブヒ』という2つ名は有名ですから。それにレム様のお母さんですよね。『爆裂の子ヤギ』は我国でも有名ですよ。1人で5000人の帝国兵を蹴散らしたと。彼女がいる限り帝国はアムスム王国に手が出せないと言われていますから」
オスヴィン提督が
「我々の軍艦が先導しますので、侯爵家の艦隊はそのあとについてきてください。ドレーン王国の艦隊はいつもは王都ドレーンの港にいます。我々が北の海に入れば、多分ドレーン港を出来てくると思います。そうすると北の海の中央付近での海戦となると思います。北風が吹けば北から向かってくるドレーン王国の艦隊の方が有利となりますが、南風が吹けばこちらの方が有利となります。どちらの風が吹くかは神のみが知ると言ったところです」
というと、レンが
「今の季節はどちらの風が吹くことが多いのですか」
というとオスヴィン提督が
「今は微妙なところです。もう少しすれば断然南風が多くなります」
「それなら、もう少し待った方がいいのではないですか」
「そうすると、デレーン王国の艦隊にここフグ町が襲われます。港内にいる状態では、動けませんから、襲われると不利です」
「明日の出航は仕方ないというところか」
ということで明日の出航が決まった。
次の日の朝42隻の軍艦はフグ町を出港した。レンはニコラウス従士を呼び寄せると
「我軍の軍艦は風向きにかかわらず進めるので、今は帆を上げているが、戦闘時は帆をたたんで魔道エンジン全開で進む。私の勘では戦闘時はたぶん北風が吹くと思う。そうすると敵の軍艦はこちらにまっすぐ進んでくると思うので、私の爆裂魔法の餌食にする。私は海戦にあまりなれていないので、私の魔力弾はあまり敵艦にあたらないかもしれない。それで風魔法を使える魔法士に補助を願いしたい」
こう言うと、ニコラウス従士は
「ハルト様からも『レンの魔法を補助してやってくれ』と言われていますので、今回は風魔法を使える魔法士を多く連れてきています。その点はご安心ください、心置きなく魔力弾を放ってください」
するとレンは
「ほんと。うれしい。明一杯、魔力弾を打つね」
この言葉が、後でとんでもない結果を招くとことを知らないニコラウス従士であった。
次の日の朝42隻の艦隊はフグ町を出港した。南風に乗って順調に航海を続け、次の日の昼頃に北の海の中央付近に到達した。すると、前方にドレーン王国の艦隊が見えた。ニコラウス従士が近くにやってきて。
「さすが、北の海ではすべて帆船なのですね。今までポルイスト王国の軍艦と対戦したときは、ほとんどがガレー船だったので新鮮に映ります」
するとレンが
「帆船とガレー船でどう違うの」
これに対してしてニコラウス従士が
「ガレー船は手でこぎますので、30分も追い回してやると疲れて動きが悪くなります。そうしたら近づいて火矢を打ち込んでやれば燃え上がります。
しかし、帆船は風で進みますので、追い風だと、スピードが乗ります。逆に向かい風だと斜めにしか進めないので極端にスピードが落ちます」
するとレンが、
「風向きで勝敗が決まるということね」
「しかし、こちらは魔道船、スピードは敵の約6倍、追い風に乗って突っ込んでくる敵艦も目じゃないということね」
「そういうことです」
「今は南風だから帆を上げて進んでいるけど、どこで魔道エンジン切り替えるかは、ニコラウス従士の判断に任せるわ。私は魔力弾さえ打てればそれでいいの。」
「部下の軍艦には、風向きが切り替わったら魔道エンジンに切り替えるように指示してあります」
「敵艦で注意することは何かしら」
「多分追い風で突き進んでくるので、敵にどれくらい強い魔法士がいるかということです。それと弓矢も追い風なのでこちらの弓矢よりも射程が長くなります」
「つまり、やってみないとわからないということね」
それからしばらくして、南風に乗って、レンたちの軍艦はデレーン王国の艦隊に突っ込んでいった。レンは魔力弾を作っては投げ、作っては投げした。そのたびに同じ艦に乗る魔法士は風魔法で魔力弾を誘導していった。レンがいっこうに魔力弾を作るのをやめないので、だんだん補助する魔法士がへばってきた。それを見たニコラウス従士がレンに「もうやめて」と言ったが聞こえないレンであった。そうしてレンの活躍もあり敵艦が6隻ほど木っ端みじんになった。
そうしていると風向きが変わった。
するとドレーン王国の艦隊は一気にこちらの艦隊に突っ込んできた。ニコラウス従士は、ここで魔道エンジンへの切り替えを指示した。すると、突っ込んできたドレーン王国の艦隊をこちらの艦隊が一気に突き抜けた。
そしてしばらく進むと反転して、今度は北側からドレーン王国の艦隊の背後をついた。これにはドレーン王国の艦隊は大混乱に落ちいった。
その艦隊に、レンがこれでもかと魔力弾を撃ち込んでいった。このころにはこちらの艦の魔法士はほとんど魔力切れで補助魔法が期待できないことから敵艦への接近を指示した。そのため、レンの魔力弾も多くが敵艦にあたった。そして敵艦の多くが木っ端みじんになった。レンの独壇場である。『爆裂のブヒ』はここでも健在であった。
昼過ぎから始まった海戦であったが、夕やみが迫るころにはほぼ決着がついた。こちらの被害は、ブレーフェンブルグ市の軍艦が1隻が大破、乗り込み員はサウスブニューデン侯爵家の軍艦に救助された。サウスブニューデン侯爵家の軍艦には被害がなかった。ドレーン王国の軍艦は20隻が木っ端みじん、15隻が大破、そのほとんどがレンの魔力弾によるものだった。そして、15隻が降伏して拿捕された。そして捕縛された水兵の中には『爆裂のブヒ』『爆裂のブヒ』とうわごとのようにつぶやく水兵が多数いたとのことである。
後にこの海戦は北の海中央海戦と呼ばれ、この海戦でドレーン王国の艦隊は壊滅した。




