139.帝国軍の侵攻(フェルトスター平原会戦)
その様な狩りを続けていたら、伝書バトが飛んできた。なんでも帝国軍が国境を越えて辺境伯領へ侵攻したとのこと。それで狩りをやめて領主館へ戻った。
領主館に戻ると状況がひっ迫しているようで、ピリピリした空気が伝わってくる。ロタ様は
「父上に状況の確認をする」
と言うので私たち姉妹も付いて行った。
そして、会議室の扉を開けた。するとちょうど軍議が開かれているようであった。ロタ様が
「父上今戻りました」
と言うと御領主様が
「よかった。無事戻ってきてくれた」
と言って、御領主様がロタ様を抱きしめた。
その後、御領主様の説明では、3日ほど前から帝国の隣の領主が兵を集めているという情報が入ってきたので、警戒していたのだが、今日その兵が国境を越えた。
兵の規模は5000人、昨年のトゥール公爵領への侵攻と同じ規模とのこと。敵の目的は限定動員による我辺境伯領の対応能力の把握と考えられる。
現在帝国軍は国境の平原を進行中で、多分今日の夕方には、私たちが狩りをしていた平原に達するだろうとのこと。そこで私たちが捕虜にでもなったらどうしようと思っていたとのこと。間一髪自分たちの帰還は間に合ったようである。
辺境伯としては領軍の集結はすでに完了しており、部隊ごと順次魔道馬車で、ここから東のフェルトスター平原に輸送しているとのこと。そこに陣を構築中とのこと。決戦は明後日とのこと。たぶん明後日には帝国軍もフェルトスター平原に達するだろうとのこと。現在寄子の貴族にも援軍を要請しているが、これは間に合わないだろうとのこと。
これを聞いた私は
「私はこの辺境伯家の嫡男ロタ様の婚約者、私も是非戦闘に参加させてほしい」
と言った。すると辺境伯様は
「いいのか、戦争だぞ、魔獣狩りとは違うぞ」
とおっしゃられたが
「大丈夫いざとなったら結界を張るし、もし危なくなったら転移で逃げる」
すると領主様が
「結界とは」
と言われたので、
「盾の強力な様な物。私の結界は強力で、弓も魔法も防ぐ」
と言って目の前に色付きの結界を張って、
「これを剣でたたいてみて」
と言った。
そしたらロタ様が剣でたたいてみたが、びくともしなかった。すると辺境伯様が
「これはどれくらいの範囲に張れるのか」
とおっしゃられたので
「魔力さえ込めれば多分陣を張った辺境伯軍の前面すべてに張れる」
と答えた。
すると御領主様は
「さすがハルト殿とレン殿の娘。『爆裂の子ヤギ』の異名は伊達ではないのだな」
とおっしゃられた。
その後、結局姉たちも戦闘に参加することになった。明日の朝、魔道馬車でフェルトスター平原に向かうことになった。ロタ様も一緒である。
次の日の朝、魔道馬車で領主館を出た。昼前にフェルトスター平原に着くと、軍の配置はおおむね完了しているようである。
中央に本陣を構え、その前面に魔法士500人、その両翼に魔道馬車100台に乗った兵1000人ずつを配置しており、その前面に歩兵2000人を配置している。後は遊撃部隊としての騎兵500人が来れば配置完了とのことである。
私たちは本陣の横で魔道馬車で待機となった。
私たちがつくと、御領主様が、全軍に向けて檄を飛ばした。
「我々は無謀な領地侵犯を犯した帝国軍に神の鉄槌を加える。
我々には急遽駆けつけてくれた『爆裂の子ヤギ』殿も参加してくれた。
彼女がいれば我々は勝ったも同然である」
すると平原を突き破るような歓声が沸き起こった。
何となく恥ずかしい。
「『爆裂の子ヤギ』の二つ名はあまり言われたくないのだが、これで勝てるのなら仕方ないかな」
と思った。
その日の夕方帝国軍が到着して陣を張った。敵軍の配置は本陣の前に魔法士1000人、その北側に騎士1000人、その前面に歩兵3000人である。さすが満を持して出陣しただけあり、魔法士も騎士もこちらの2倍である。通常なら機動力に勝る帝国軍が勝つであろうが、こちらには魔道馬車200台がある。これがこれまで帝国が苦杯をなめた元凶である。今回もこれが勝敗を決することになると誰もが思った。
その夜の軍議では、敵軍の配置を見て、魔道馬車の運用をどうするか、これが問題となった。
敵は魔道士を多く連れてきており、この魔法士に攻撃されると魔道馬車は壊れる。そこを騎兵に突撃されたら防げない。かといって魔道馬車の投入が遅れると歩兵はこちらの1.5倍すぐに本陣に迫られる。
結局魔道馬車は損壊覚悟で投入することが決まった。どの時点で魔道馬車を投入するか。その判断は騎士団長にゆだねられることになった。
そこで私は
「戦闘の開始の最初に景気づけに私の爆裂魔法を放ちたい」
と言った。
「敵本陣は離れており、そこまで魔法は届くのか」
と聞かれたが、
「私の魔法はかなり遠くまで届くのでやらせてほしい」
と言うと、
「わかった」
と了解された。
次の日の朝、朝靄が晴れるころ、魔道馬車の上に出ると、拡声魔法で敵軍にも声が届くようにして
「私はレム・サウスブニューデン、これより、無謀な国境侵犯を犯した帝国軍に鉄槌を加える。
私の魔法に恐怖する者はすぐに帝国領に帰るように」
そう言って魔力を練り始めた。
狙うは敵本陣辺りの魔法士、距離3000m鉛直角45度方向角右5度、そして、風魔法を併用して、敵軍に向けて魔力弾を放った。
さらに転移魔法でその飛距離を伸ばした。そして索敵と連動してその魔力弾を誘導していった。頭がキリキリする。能力の限界だ。やはり一度に幾つもの魔法を同時並行で行使するのは疲れる。
私の放った魔力弾は、一瞬消えたかと思うと敵軍上空に現れ、そのままゆっくりと下降していった。そして、敵陣の魔法士が多くいるあたりに着弾した。
大音響が響き渡るとともに敵陣の魔法士の多くが吹き飛んだ。これを見た帝国軍の兵士は浮足立って震えが止まらない様である。
そこで私は再度拡声魔法で呼びかけた
「早く逃げないと、第2弾を放つわよ」
これを聞いた敵軍は一斉に逃げ出した。
この日行われた帝国軍と辺境伯軍の戦争はフェルトスター平原会戦と呼ばれるようになった。この戦争で帝国軍は貴重な魔法士の多くを1人の魔法士の放った1発の魔力弾で失い敗退した。
この戦闘で『爆裂の子ヤギ』の名は帝国軍に深く刻み込まれるのであった。




