107. イングブリオ王国とフラ王国の戦争、応援部隊の派遣
王国歴331年7月、イングブリオ王国とフラ王国の戦争が始まったとの情報が入ってきた。
原因はフラ王国の国王が後継者を決めずに亡くなったことだそうだ。そこで親戚の貴族が国王になったのだそうだ。そうしたらイングブリオ王国の国王が「俺にも王位継承権がある」と言ってフラ王国に攻め込んだそうだ。
イングブリオ王国は島国なのでフラ王国に行こうとすると海を越えなければならない。制海権をフラ王国に握られるといけないということで、まずフラ王国の海軍基地を襲い、そこの艦隊を全滅させたそうだ。これにより、イングブリオ王国は海峡の制海権を握り、続々とフラ王国に軍隊を送り込んでいるそうだ。
海軍のいなくなった海では、やりたい放題ということで、海賊が大挙してフラ王国の沿岸を荒らしまわっているそうだ。その結果、これまで海賊の被害に頭を悩ませていた我がアムスム王国には海賊が来なくなったそうだ。
どちらが勝っても俺としてはどうでもいいのだけれど、王様や王宮の高官としては、そうもいかないようだ。
以前海賊の取り締まりのために、ランドル王国から依頼を出したので、ランドル王国を通じて軍の派遣の要請が来ると無下に断るわけにもいかないようだ。
また、現時点で優勢なイングブリオ王国に協力しておくと後で有利という思惑もあるようだ。
王国は帝国の侵攻に備える必要があることから陸軍は出せない。それで軍艦を派遣してはどうかという話になった。
その結果、軍艦を保有する貴族を王宮に集めることになった。王国西部の貴族はテー公爵家やシャタイン侯爵家とは派閥が違うので、俺としては行きたくないのだが、国王からの会議の出席要請が来ると行かざるを得ない。
会議を主導したのは西部の大貴族シュレダ侯爵であった。
会議の結果、王国海軍から軍艦5隻、シュレダ侯爵が軍艦3隻、ハルトのネイメー伯爵家が軍艦2隻、他の貴族から軍艦2隻の計12隻の派遣が決まった。そして7月末までに王国西部の海軍基地に集結することになった。
現地での作戦内容はイングブリオ王国からフラ王国へ物資を運ぶ商船の護衛ということだが、果たしてそれだけで済むのか。
特に、今回この遠征軍を率いるのは王国の海軍提督ヤンス提督だが、彼はシュレダ侯爵の弟である。無理難題はすべてこちらにきそうである。
俺はフグ町へ行き、派遣する船についてはフグ町の5隻から2隻を派遣することにした。
イングブリオ王国の救援に行くのに、イングブリオ王国と繋がりのある海賊がここを襲うことはないだろうと判断したので、当面は巡視の航海は1隻で行うこととした。あと2か月もすれば建造中の2隻の軍艦が出来上がるので、それまでの辛抱である。
それから、砲塔付の船を派遣すると目立ちすぎるので、砲塔は撤去した。砲塔を撤去すると攻撃方法が限られてくるので、兵士にはロングボウとクロスボウを装備してもらった。また攻撃魔法の使える従士を領軍の中から選別し水軍に加えたが、いきなり船に乗せられると船酔いで役に立ちそうにない。でもそのうち慣れるだろうということで連れて行くことにした。
この結果これまでは1隻につき30人の兵士であったが50人になった。軍艦2隻と水兵100人で7月末に指定された軍港に行った。
軍港に行くとすでに他の船は集結していた。司令部のある建物に行くと今回の遠征軍の指揮を執るヤンス提督より、少し嫌味を言われた。
こちらも
「初めてのことなので準備に手間取った」
と釈明した。
俺の軍艦はこの時代としてはかなり大きい。これも嫌味を言われた理由の一つであるようだ。しかしこの船は他の貴族家にも販売しており、ごまかせない。
「元が商船なので」
と言ってごまかした。
針の筵のような打ち合わせが終わり、8月1日に応援部隊は軍港を出港した。俺の船は最後尾である。
アムスム王国の応援の艦隊は8月1日に王国の軍港を出港したのであるが、俺の軍艦2隻と、フグ町で建造しヤマユリ商会が販売した1隻の計3隻を除いて他は帆船である。当然速度が遅い。ゆったりとした時間が流れていく。結局、応援部隊が指定されたフラ王国のシフエルブルグ港まで行くのに10日もかかってしまった。
ここシフエルブルグ港はフラ王国にありながら、イングブリオ王国の国王の領地とのこと。よくわからん。まあ、フラ王国の王位継承権を持っているのだから領地があってもおかしくないか。そう考えることにした。
今回の応援軍の指揮官はヤンス提督、俺は雑魚、イングブリオ王国との打ち合わせはすべてヤンス提督がする、俺たちはただ結果を聞くだけである。
当面はここシフエルブルグ港とイングブリオ王国の間を行き来する商船の護衛だそうだ。12隻の軍艦を4つに分けて3隻ずつで護衛に付くそうだ。俺の2隻ともう1隻はヤマユリ商会が納品した軍艦だった。当然相手の軍艦の水兵も初心者、うろたえるばかりである。
制海権はイングブリオ王国が握っているとのことなので、当面は問題ないだろう。ゆったりとした時間が流れていく。このまま、時間を過ごし、あとはイングブリオ王国の軍がフラ王国軍を破れば、めでたし、めでたし、俺たちの仕事は終わり。
そう思っていたのだけど、なかなかイングブリオ王国軍が勝ったという知らせが届かない。最初は勢い勇んで上陸したイングブリオ王国軍だったが、フラ王国軍に時間稼ぎをされたみたいで、結局、冬になってしまったとのこと。
このままフラ王国で冬を越すそうだ。アムスム王国よりは南にあるとはいえ、フラ王国でも冬は寒さがきつい。雪も降る。そんな中で戦争は出来ない。そこで冬を越すそうだ。
一時休戦ではないけど、戦争がないなら領地に帰してもらえるかなと思ったら、俺たちは居残り。引き続き商船の護衛にあたれとのこと。こんな冬の嵐が吹く中、海峡を行き来する商船もいないのだけど。
ヤンス提督たちは一旦本国へ帰るそうだ。11月の終わりに、ヤンス提督たち9隻の応援軍は帰って行った。
俺たち3隻はここシフエルブルグ港で居残りである。やはり、ろくなものではない。港の居酒屋で同じ居残り組のマンネリズム子爵と愚痴を言っていたのだが、ふと思った。
「ここでフラ王国に襲われたら、補給路を断たれたイングブリオ王国軍は終わりではないの」
そしたら急に怖くなってきた。
ここシフエルブルグ港にはイングブリオ王国軍の軍艦もいるがすべてではない。ほとんどは本国へ帰っていった。それに、最初にフラ王国の軍艦を叩いたといっても、フラ王国の軍艦すべてが全滅したわけではない。他の港の軍艦を集めれば、ここシフエルブルグ港の軍艦を攻撃するぐらいはできるだろう。
マンネリズム子爵にそのことを話すと、一緒にイングブリオ王国軍の指揮官のところに行って話をすることになった。
指揮官のところに行って話をしたのだけど、
「一応聞いておく」
とのことで、まともに取り合ってくれない。
こちらも生死がかかっているので
「それなら、港の外を哨戒だけさせてくれ。もし、異変があれば知らせるので、その時は対応してほしい」
と言った。
これには相手の指揮官も
「お前たちが勝手に哨戒するなら問題ない」
とのことであった。




