第2話
「さてと……まずは水だな。」
小川の設置を選び、俺は箱庭にカーソルを合わせた。
そのまま、クリック。
じわり、と水が現れる。
だが――
「……あれ?」
水はその場に広がるだけで、動かない。
流れない。
ただ、じっと留まっている。
「小川設置のはずだよな……?」
画面を見つめる。
説明的には“流れる水”のはずだ。
なのにこれは、ただの水たまりだ。
「……まさか。」
少し考えて、すぐに気づく。
「傾斜、か。」
山のアイコンを開く。
“盛土”。
「そりゃそうだよな……水は上から下に流れるもんだ。」
苦笑しながら、箱庭の一角をクリックする。
わずかに地面が盛り上がる。
さらに、もう一度。
何度か繰り返し、ゆるやかな高低差を作る。
「このくらいでいいか。」
再び、小川の設置を選択。
今度は、高くした場所にカーソルを合わせる。
クリック。
次の瞬間。
水が、動いた。
細い筋となって、ゆっくりと下へ流れていく。
さっきとは明らかに違う。
「おぉ……やっぱ傾斜か。」
思わず頷く。
水は途中でわずかに広がり、低い場所に溜まる。
「いいねぇ……ちゃんと“それっぽい”。」
しばらく眺めてから、俺は次に移る。
「……いや、順番だな。」
植生アイコンに手を伸ばしかけて、止める。
「これじゃまだ無理だ。」
箱庭は、岩盤の上に薄く砂が乗っているだけ。
水はある。
だが、それだけだ。
「土壌ができてねぇ。」
ススキやイタドリのアイコンを見つめる。
「さっきはいけるかと思ったけど……」
首を振る。
「いや、無理だな。あいつらでもまだ早い。」
根を張るには、土がいる。
水を保持できる層がいる。
栄養も必要だ。
「本来なら……地衣類とかコケだよな。」
岩の上でも生きられる、最初の住人。
そこから少しずつ、土ができていく。
「でも、その選択肢はねぇ。」
一覧を見ても、それらしいものはない。
「……なら、自分で作るしかないか。」
山のアイコンを開く。
“風化した岩石”。
「これだな。」
クリック。
ざらり、と。
岩盤の上に、淡い茶色の粒が広がる。
もう一度、クリック。
さらに、もう一度。
「もうちょい厚めに……」
何度か重ねると、箱庭全体に薄い茶色の層ができた。
「……うん、だいぶマシになったな。」
視線を水の方へ戻す。
流れる水の近く。
そこだけ、わずかに色が違う。
「……お?」
乾いた茶色だった地面が、じわじわと濃くなっている。
「ちゃんと湿ってんのか。」
思わず身を乗り出す。
「いいねぇ……こういうの。」
俺は植生アイコンを開く。
「全面に植えるのは違うな。」
狙うのは、水で潤った場所だけ。
「まずは、ここからだ。」
ススキを選択。
水辺に、慎重に配置する。
さらにイタドリも置く。
「先駆植物の代わりにはならんだろうけど……まぁ、近いもんだろ。」
しばらく待つ。
……何も起きない。
「まぁ、そんなすぐには――」
ふわり、と。
ススキが揺れた。
「……ん?」
目を細める。
風は設定していない。
だが、確かに揺れた。
次の瞬間。
じわり、と。
水辺の土の色が、さらに濃くなる。
それに合わせるように、ススキの色も深くなる。
「……おいおい。」
思わず笑う。
「反応、早すぎだろ。」
ステータスを開く。
【ステータス】
植生:草地(初期)
生物:無し
水源:小川
魔力:微量
「ちゃんと変わってるな……」
納得と違和感が、同時にくる。
「ゲームとしてはありがたいけど……」
こんな速度で環境が変わるはずがない。
ピシッ。
「……またか。」
画面の奥で、何かが走る。
ほんの一瞬。
水辺の上に、細い線のようなものが浮かんだ気がした。
「なんだ今の……」
だが、すぐに消える。
気づけば、
水辺の緑が、さっきよりも濃くなっていた。
「……増えてねぇか?」
置いたはずの数より、多い気がする。
「……まぁいい。」
俺は小さく笑った。
「いい感じに“生きられる場所”になってきたじゃねぇか。」
ふと、視線が横に逸れる。
亀のアイコン。
「……次は、お前だな。」
だが、まだクリックはしない。
「もうちょい整えてからだ。」




