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第一章「接触」5

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 少年がマイケルたちの注文を聞いて奥に戻ってから、すでに十数分が経っていた。

 目の前に座っている瑞樹は、痺れを切らしているのか、落ち着きがない。

 自分の長い黒髪を弄りながら、ぶつぶつ言っている。何を言っているのかマイケルは気になったが、どうせロクなことでもないと思い、見て見ないふりに徹した。

「せんなに難しい注文をしてないのに、来るのが遅いね」

「あぁん? あの少年が、厨房で一人でやってるんだろうよ」

「なら、マイケルが行って手伝えば? 料理は意外と上手いでしょ」

 嫌な笑顔を浮かべて、瑞樹は言ってくる。それをマイケルは、片目を瞑って無視をする。

 それが面白くないのか、瑞樹の顔が見る見ると変わっていく。感情が豊かな奴だ。

「聞いてる? 一人で可哀想だから、マイケルが手伝ってきてよ」

「俺はお客様だ。なんでお金を払って、手伝わなきゃいけねぇんだよ」

「何でって……私がプリンを早く食べたいからだよ! 凄く重要なことでしょ?」

 ……やっぱり、プリンかよ。本当にプリン狂な、お嬢ちゃんだな。

 テーブルに突っ伏すマイケルを、瑞樹はなぜか胸を張って見下ろしている。

 マイケルの隣に座っているマークは、いつものようにニコニコして見物だけしている。たしかに、端から瑞樹を見ている限りでは楽しいが、巻き込まれるほうになると「面倒臭い」の一言に尽きる。とは言え、これ程からかって面白い奴も居ないのも、たしかだが。

 ふと、マイケルは顔を上げる。銀のトレーを持って、近づいてくる影が見えた。

 レストランの店員らしき少年だ。トレーを片手に、営業用の笑顔を浮かべる様子は様になっていた。だけど、マイケルには何かが引っ掛かる感じがあった。それが、何か分からない。

「お待たせしました。何せ一人なので、時間が掛かってしまいました」

 そう言いながら、少年はトレーの上の物をテーブルに置いていく。

 マークの前にはハンバーガーとコーヒー。マイケルの前には、ビールが入ったジョッキ。そして瑞樹の前には、プリンが置かれていた。何て言うか、デカイ。

「わぁお! 特盛のプリンだよ。カラメルの量も最高! 何て言っても、生クリームがどっさりと乗っかってるのは、ポイントが高いわよ」

 よくわからない褒め言葉を並べる瑞樹。その顔は、すこぶる最高な表情をしていた。それほど、プリンが食べたかったようだ。すでに涎で、口の周りがてかてかと光っている。

「そんなに喜んでいただけると、本当に嬉しいですよ。では、僕はこれで戻ります。では、お早めに、お食べください」

 少年は一礼すると、足早に厨房に戻っていく。マイケルはそれを横目で、見送っていた。

「うまー! プリン、うまーだよ!」

 早くもスプーンを握りしめながら、瑞樹は次々と口に放り込んでいく。その食べ方は、女の子とは思えない程、酷いものだった。せめて、ゆっくり味わって食べろ。

 元気よく食べていく瑞樹を見ながら、マイケルはジョッキに口をつける。ギンギンに冷えたビールが喉を通っていく。まさに生き返る美味しさ。

「く〜。この一杯の為に、俺は生きてるんだなぁ」

「くぅ〜。このいっぱいのプリンの為に、私は生きてるんだなぁ」

 スプーンをくわえながら、瑞樹は言う。マイケルの真似をするが、少しニュアンスが違う。

 ハンバーガーを口にしながら、マークはクスクスと笑っている。

「本当に二人は中が良いよね。羨ましいよ」

 仲が良いと言うか、昔から瑞樹はマイケルの真似をよくする。粗暴な感じがするのは、そのせいなんだろう。マイケルはもう少し、おしとやかになって欲しいと思っているが。

 マイケルはテーブルの上に、視線を落とす。大きな皿に、山盛りのプリン。すでに半分は食べられているが、それでも普通のプリンの三つ分は残っていた。どんだけだよ。

 未だ山盛りのプリンを平らげていく瑞樹をつまみに、マイケルはビールをあおる。

 その時、異変が起こった。外から聞きなれた音がしてきたのだ。

 銃声だった。それも一つや二つじゃない。最低でも四人が銃を撃っている。

 すぐさま、銃声は瑞樹たちのいる店内に侵入してきた。窓や壁を壊しながら。

「お嬢ちゃん、頭を下げろ! 危ないぞ!」

「くそ、ジョージ、ライアン! マークだ、応答しろ!」

「ぷ、プリンー! わ、私のプリンがぁぁぁぁ!」

 三人はそれぞれ叫びながら、テーブルの下に潜り込む。今まで居たところは、鉛の弾が大量に撃ち込まれていた。数秒遅れていたら、マイケルたちは蜂の巣にされていただろう。

 それにしても誰が狙ってきたのか、マイケルは何となく目星はついていた。

「まだ、半分残っていたのに、プリンを返してぇぇぇ」

 銃弾のせいか、テーブルの下に潜った時に落ちたのか、プリンが乗っていた皿は無惨にも地面で割れていた。その周りにプリンがぐちゃぐちゃになっている。

 瑞樹は地面を見て、本気で泣いていた。大粒の涙を流して、顔を濡らす。

 悲しいのは分かるが、泣くほどでもないとマイケルは思ったが、口にはしなかった。

 何でかと言うと、今の瑞樹は、ちょっとした爆弾状態だからだ。すでに導火線に火は点いた。

「あい、お嬢ちゃんよ。早まった行動はするなよ。せめて、敵の数がわかるまでは――」

「プリンの仇、奴らの命で償わせてやる!」

 すでに爆発していたようだ。瑞樹は完全に暴走状態になってしまった。

 隣で、外に連絡を取っているマークを見る。すでに終わったようで、マイケルと同じような顔を瑞樹に向けていた。止めるのは無理なのは、お互いにわかっていたのだ。

 だったら、尻拭いを二人ですりしかない。どうせ今のままだとじり貧だったから、瑞樹が突っ込むことで、状況を打開できる方に賭けることにした。

「おい、マーク。俺が援護をするから、お前がお嬢ちゃんをカバーしてくれ」

「わかったよ。本当にうちのお姫様は、好き勝手をやってくれるよ」

「それが、良い所でもあるがな」

 すでに入り口に走っていく瑞樹を追って、マークは後を追っていく。

 マイケルは、腰から拳銃を取り出して、弾倉を確認する。そして、一呼吸をついた。



 二人がレストランから飛び出したので、敵の攻撃がそちらに向かう。

 お陰でマイケルが頭を出しても、気づかれることは無かった。意外と、間抜けだな。

 外を見ると、黒ずくめの戦闘服を来た兵士が四人。いや、もう一人ボロボロのつなぎを着た男が、自動小銃を持っている。ガソリンスタンドの店員だった青年だ。

 思った通り、全てが罠だったんだ。もう少し早く気づけば、もっと良い手が打てたのに。

 今更遅いと分かっているが、マークがレストランに来た時に言っていた青年の言葉に、マイケルは違和感を感じていたのだ。

 あの時の直感で動いていれば、後手に回った自分に、自己嫌悪を感じる。それを振り払うように、マイケルは銃を構えた。

 背後にも意識を置いておく。あの少年も外の奴らの仲間の可能性があるからだ。

 早々と外に躍り出ていく瑞樹が、敵兵士と衝突を始める。相手は五人の中ではメタボ体型で、動きが遅い。そこを瑞樹に狙われたようだ。頭に血が上っていても、冷静に考えている。

 その後ろを、威嚇射撃しながらマークがついて来ている。他の四人の敵兵士が物陰に隠れて、攻撃の勢いが弱まっていく。

 その間にも瑞樹は、メタボに向かってパンチやキックを浴びさせていく。まさに一方的な攻撃だった。おもわずマイケルは心の中で、十字を切る。安らかに眠れ。

 マイケルもただ見ているだけではなく、ちゃんと仕事はしていた。相手が物陰から出てこれない様に、狙い撃っている。マークとマイケルの射撃で、敵は頭を出すことができない。

 本当なら頭を狙って撃ち抜くことも可能だが、お姫様がそれを許さない。出来るだけ、両方の死者を出さないようにと、言われているからだ。マイケルたちは傭兵だから、瑞樹の言うことを聞く必要が無い訳だが、トラウマを知っているだけに甘くなってしまう。

 だから、相手の動きを封じるのがマイケルとマークの役目だった。

 敵を無力化するのは瑞樹の役目。彼女の身体能力の高さが、相手を殺さずに戦闘不能にすることが出来ていた。ただ、命を奪わないだけで、相手の負傷度合いは度外視されている。

 中には死んだ方がましな奴も居たと、マイケルは記憶している。

 メタボを伸した後、瑞樹は次の標的に向かう。背がやけに高い男だった。

 マイケルは瑞樹を狙っているつなぎの青年の武器にめがけて、拳銃を撃つ。マークは、ガソリンスタンドの横に捨ててある廃車の陰に隠れていた、異常など痩せていた男を狙う。なるべく瑞樹を安全に戦わせるように、二人して敵を威嚇していく。

 十六の女の子とは思えない格闘技術で、敵を攻めていく瑞樹を見ていると、将来が不安になってくる。あんな女を嫁に貰う男が居るのかと……。

 口元を緩めると、つなぎの男の撃ち抜く。鮮血と一緒に持っていた自動小銃が、宙に飛ぶ。ナイスショットと、マイケルは心の中で呟いてみる。

 早くも瑞樹は、四人目と戦闘を始めていた。マークは援護をフルに貰えるので、初戦のメタボよりも素早く終了していく。思ったより、敵は弱い。

 残るは手から血を流している、つなぎの青年だけだった。


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