後編
ドッペルは、アカーシアンについてできるだけ情報を集めていた。
今までは、アカーシアンが婚約者であることも、そもそもその存在すらも知らなかったが、この先、関わらないわけがない人物だ。
ボロを出さないためにも、できるだけ情報を集めなければならない。
バレないように、集めた情報では、イザベラの婚約者であるアカーシアンは、護衛も担当していたらしい。
幸いなことに、ドッペルがこの国に来る前から、遠征に出ていたため、ドッペルは未だに会ったことはなかった。
「これもあの魔女が手を回してたのかよ」
「いや、灰被りの君ではないと思うよ。君が現れた時、灰被りの君も驚いていたし」
クリミナの表情や考えに詳しいシエルがそう口にするのだから、おそらくアカーシアンの遠征については、偶然だったのだろう。
その後、魔獣で足止めをしていたのは、故意だとしても、少なくとも最初は偶然だった。
「忠義の君も、高名な聖騎士だからね。当時は、依頼も多かったこともある」
巡礼の旅の最中にも、聖騎士たちと顔を合わせたことはある。
さすがに、イザベラの姿を真似ているドッペルは、姿を隠していたが、確かに魔獣たちを倒すために、聖騎士は派遣されていた。
今でこそ、聖騎士たちも落ち着いてきているが、本来シエルも忙しい立場のはずだ。
おそらく、あの性悪魔女から離れたくないという理由で、長期的な遠征になる場所には、あまり行かないのだろうが。
「しかし、もし忠義の君が戻るならば、気を付けた方がいい」
「四六時中、監視がつくようもんだしな」
正直、今と同じように、必要な時だけシエルが護衛としてついてくれる方がいいのだが、こればかりは”婚約者”という肩書が大きい。
「それもあるが、聖女の婚約者というのは、少々厄介でね」
セント・バルシャナ聖国において、聖女の存在は、国王よりも上だ。
決して、途絶えさせてはいけない。
それ故に、聖女には、次の聖女となりえる子を産ませる。
その相手となる存在は、素養などを確認し、教会が聖騎士より選ぶ。
「あまり口にしたくないが、選ばれるものは、聖騎士の中でも”狂信者”と呼ばれる類の人物だ」
聖女や神への信仰が厚いのではない。
妄信している。
これが、聖女の婚約者となる条件だった。




