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3年間、聖女を偽ることになりました。ドッペルゲンガーです。  作者: 廿楽 亜久
第14話 御心のままに

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前編


「これは……」


 瘴気に侵された魔獣を討伐したアカーシアン達の前に現れた、緑豊かな光景。


 イザベラにより精霊樹の瘴気が祓われたとはいえ、各地に散らばった瘴気がすぐに消え去るというわけではない。

 この土地には、討伐した魔獣が瘴気に侵されたように、未だに瘴気が残っており、草木は少ない。


 だが、この小さな村には、清らかな水も緑も存在していた。


「――では、イザベラ様の奇跡が?」


 アカーシアンが村長から話を聞けば、村長も村人も皆、口を揃えて、イザベラへの感謝を口にした。


 かつて、巡礼の旅の途中に、この村に立ち寄ったイザベラは、この村にひとつの奇跡をもたらしたという。

 その奇跡によって、この村の水は瘴気に侵されることなく、清らかな水は生き物を育み、魔獣を退けた。


「聖女様からは、もし他の村が助けを求めに来たのなら、この水を与えよと。そう言われております」


 その約束通り、村人は、この村に逃げてきた人々に分け隔てなく、対価も受け取らず、この水を分け与えた。


 精霊樹が浄化された今ですら、負傷した騎士団たちのことも、手当てをしてくれていた。


「そうでしたか。イザベラ様がそのようなことを……」


 イザベラからの報告では、この村の奇跡については書かれていなかった。

 それ故、アカーシアンを含めた教会は、この村のことも、奇跡も知らなかった。


 あえて報告しなかったのだろう。

 時折、ひどく冷たい目をするイザベラ様の事だ。

 報告した後のことを憂い、口を閉ざしていたのだろう。


「では、イザベラ様との約束を決して違えぬよう。もし、慈悲深き奇跡を穢すようなことがあれば、我が剣は罪を裁くものと変わるでしょう」


 膝をつき、村長に頭を垂れるアカーシアンに、村長は少しだけ息を飲んだが、すぐに柔らかく微笑み、膝を折った。


「もちろんです。聖女様の慈悲深き心に感謝致します。どうか、国に戻られましたら、聖女様に私たちが感謝している旨をお伝えください」

「承知致しました」


 村長との会話を終え、アカーシアンも部下たちのところに戻れば、部下たちはイザベラの残した奇跡の樽の元にいた。

 どうやら、樽の中に沈むグラスの回収について考えていたらしい。


「それはこの村に置いていく」

「なっ……!?」


 アカーシアンの予想外の言葉に、部下たちが慌てたように声を上げる。


「これは聖杯とも呼べる代物ですよ!? 教会が管理すべきです!」

「しかし、この水によって、命が救われている者が存在している。我らが持ち帰れば、それらの命はどうなる」

「しかし――」


 イザベラが憂いていたことは、部下たちのこの反応だろう。

 どれだけ、奇跡で人を救ったとして、教会はその奇跡を利用しようとする。


 こうして、救いを求める弱者を見捨てる結果となったとしても。


「この村の者は、イザベラ様のお言葉通り、救いを求める者に、この水を分け与えている。それは、我らと同じく聖女の代行である」


 アカーシアンの酷く冷め切った表情に、部下たちも小さく肩を震わせる。


「この奇跡に、イザベラ様に許可なく触れるならば、それ即ち聖女へ冒涜である」


 静かに部下を見つめるアカーシアンの手は、剣に触れていた。


「聖女 イザベラ様のご意向に背く背教者がここにいるのならば、名乗り出よ」


 今にも剣を抜きかねないアカーシアンの様子に、部下も固唾を飲み、首を横に振った。


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