62 由宇喜一、頭を抱える
「熊に腐った物を喰わせやがってっ!」
熊殿がそう言って斯波家の家臣達を木刀で倒していく
清州城の本丸御殿に向かう廊下には叩きのめされて家臣達で溢れていた
ソレを見て斯波義銀の側近である由宇喜一は額に手を当てて天を仰いだ
一体どうしたものか
織田家の熊殿と言えば三郎信長殿が当主に就任する際に弟の信勝殿を手にかけたことで有名だ
「殿が手を下すのはいけません」
そう言って自ら弟御を手に掛けたとか
農民の出ながらアッパレだと言いたい
昨今の武士の若者でもココまでできる奴はいない
織田家に雇われていなけらば家臣に加えたいとまで思った
噂では
身の丈6尺(約180cm)の大男
熊の毛皮を被ったうつけ者
山の獣の肉を好んで食べる野蛮人
気にくわない者は木刀で殴り殺す
信長殿と一緒になって野盗どもを潰しまくった
枚挙に暇がないほどであった
あまりの酷い噂にまさに尾張の大うつけの家臣に相応しいとさえ言われていた
まあ噂と言うのは話半分に聞いておくのが正解だ
そのうち会った時にでも真実が判るだろうと思っていた
そんな機会は意外に早くやってきた
織田家からの謝罪と手が足りないということで織田信実殿が清州城に入った折の随身だったのだ
噂通りのまさに天を突くと言って良い大男であった
木刀の一太刀で人を屠るのが真実だと実感できる大きさだった
こいつは合戦では役立ちそうだ
第一印象はそんな感じだった
しばらくすると噂と違って温和な性格なのが判ってきた
自ら下働きを買って出る
しどんな汚れ仕事も厭わない
そして以外なことに常に身綺麗にするという繊細さ
噂とは当てにならないものだとしみじみ感じた
この分なら信長殿の大うつけの噂も間違いに違いないとさえ思った
・・・大きな勘違いだったの言うのが今回わかったがな
今回の一件は熊殿を料理人達が冷遇したことから起った
さすがに織田家の信実殿とその側近には手を出せなかったようだ
だったら小者をいたぶれば良いと考えた小者が起こした不祥事
誰もそんなことは頼んでいないし望んでいないと言いたい
大体、斯波義銀殿は父親から叔父達を含む肉親を失ったせいでいまだに放心状態だ
目の前で手を振っても全然目に入っていない
医師を呼んでも気鬱なので時薬(時間が解決する)としか言わない
そんな現状では織田家と事を構えるとか、先代を殺された復讐だとかをしている暇なぞない
いや復讐とか考えていない
なにせ信長殿は本件の清州織田家の所業を怒っていたからな
「これから織田家が全力で斯波家を支えまする!」
と清州城まで来て平伏していた
斯波義銀の前で床に頭をつけることまでされた
挙句の果てに、なんなら熱田神宮で誓っても良いとまで言う始末
・・・これのどこがうつけなのか噂を流している織田家の家臣どもに問いただしたい
正直、殿の回復まで時間がかかりそうなのだ
どっちらかというと回復の見込みは皆無だ
今通り織田家が尾張を牛耳ってくれないかとさえ思う
まあそんな恥ずかしいことは守護の立場からは言えない
だが予想に反して信長殿は雰囲気で察してくれていた
斯波家家臣一同は正直感謝しかない
・・・それなのに台所の小者がわざわざちょっかいを出すなと言いたい
大体、お礼まいりを受ける身になってくれ
家臣一同皆廊下に叩きのめされているのだ
やるならば責任をもって自分達の身体を差し出して熊殿に殺されろと言いたい
なんならよろこんで料理人の身柄を引きずり渡してもいいんだぞ?
そう言いたい
・・・案外イイ手かもしれないな




