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異世界から来た侯爵令嬢  作者: ビルボ
第一話 「婚礼の宴」
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4/12

婚礼の宴 4






 イベントが終わると、15世紀は少しずつ消えていった。


 紋章旗が外され、白い卓布が畳まれる。銀食器(実際にはステンレスだったが)が箱へ戻され、皇帝は上着を脱ぎ、選帝侯は眼鏡をかけた。


 久良羅も頭布を外した。


 鏡に映ったのは、いつもの二十三歳の自分だった。


 高校を出て就職し、すぐに辞めた。今はホームセンターでパートをしている。


 それが久世久良羅だった。


 けれど今日、自分はクララに戻っていた。


「久世さん」


 振り向くと、岩崎が畳んだ布を抱えていた。


「今度、うちに遊びに来ない? 新しいリネンを織ったの」


「私が? ですか」


「織り方とか、縫い方は結構調べられるんだけど、実際の着こなしって、なかなかピンとこなくて」


 向こうから樋口も声をかけてきた。


「次も裏方、頼むよ。席に座る役は誰でもできるけどさ、宴(うたげ)を回せる人は少ないから」


 どうしてそんなことを知ってるのかと、誰も言わなかった。


 ただ、次も久良羅がいる前提で話している。


 それが、たまらなくう(・)れ(・)しかった。


 幼い頃、前世のことを口にして両親を困らせた。


 学校へ行くようになると、言わない方が良いのだと覚えた。


「久世さん」


 片付けがほぼ終わった頃、榊原が調理場から出てきた。


 手には皿が一枚。


「これ、食べてよ。ほとんど今日、食べてないでしょう」


 細かくばらしたローストポークを挟んだサンドイッチが載っている。


「いただいてよろしいのですか?」


「見てたら、お昼取ってるように見えなかったから」


「お客様をお招きすると、どうしてもそうなってしまうんですよね」


「はぁ。まるで本当のお姫様みたいだな」


「……いえ。ありふれた、侯爵家の娘です」


 ぷっと榊原が吹き出した。


 失敗したかなと思いつつ、久良羅はサンドイッチを一口食べた。


 香辛料の香りが広がる。肉の味を消さず、その後ろに甘さと酸味が残った。


「美味(おい)しいです」


「本当に?」


「はい、とても」


「……そっか」


 料理を褒められた男が、すごくう(・)れ(・)しそうな顔をした。


「次も来る?」


「よろしいのですか?」


「もちろん」


「でしたら、喜んで」


 久良羅が笑う。


 榊原は視線をそらして、後頭部をかいた。


「あの、次もまた何か作って来るよ。それじゃ」


 榊原はそう言って、そそくさと立ち去った。


 妙に慌ただしい様子に、久良羅は首をかしげた。


 もう一口、サンドイッチを食べる。


 幼い頃から、自分の中には二人の人間がいるような気がしていた。


 現代を生きる久世久良羅。


 そして、遠い世界で十九年を生きたクララ・フォン・アイヒベルク。


 そんな事を信じてもらえるはずがない。


 けれど今日。


 クララの知っていることを話せば、人が喜んだ。


 クララのように振る舞えば、仲間に入れてもらえた。


 ここなら、もう少しだけクララでいてもいいのかもしれない。








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