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接触と空気  作者: アズキ


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第6話「人影」

コテージの中に戻った4人はそれぞれのベットにドサッと腰掛けて大きく息を吐いた。

石田の話は飛び抜けて恐ろしかった。

授業で聞いていれば、そこまで怖い思いはしなかっただろう。

しかし、キャンプファイヤーの僅かな光の中で話される暗い事実。

事実であることが4人の頭の中を悩ませる。

Fラン大学生といっても人の心がある人間であることに変わりはない。

そこに人情を問う問題が現れると深く考えてしまうのだ。


「お風呂、先に入ってもいい?」


岡本がそう聞き、3人は承諾。

広瀬は何を想像したのか、風呂に行く岡本を横目でチラチラと最後まで見ていたし、樺島も同じコテージの中で女が風呂に入るという状況にニヤニヤが止まらないようだった。

そんなことは気にせずに、岡本は風呂に行った。

そのうち、シャワーの音が聞こえ始める。

広瀬と樺島は妄想にふけっているのだろう。

覗こうなんて気は更々ないだろうが、妄想するだけならタダ。

同級生の風呂場を想像して、頬を赤らめ、下半身を反応させる。

考えるとちょっと笑えてくるなと土谷は思った。


けれども、土谷は今、そんなことはどうでもよかった。

この島の全貌が気になりだしていたのだ。

何か腑に落ちない部分がある。

最初は広瀬の考えすぎだと、船の上で嘲笑ったが、今となっては自分が疑問を持ちかけていることに驚いた。


気になる要因はかなりある。

その中には考えすぎなのでは?と思われる部分もたくさんあって、どれが真実なのか全くわからない。


1つ目はこのバカンスの話しができすぎているということ。

普通の新薬のバイトでここまで大掛かりなことをしてくれるところなんて普通はあるはずがない。

しかもタダで。

2つ目は土谷以外の3人に気にする必要があるのかないのかで言えば、ないと言える症状が出ていること。

それも、それぞれ全く違う症状。

樺島は肩が痛い。広瀬は船酔い。岡本は目の痙攣。

土谷はこの部分から何かを推理するのは難しいと考えた。

3つ目はこの島に来た時に、青アザのようなものが出始めたこと。

痛みもない、触っても何も感じない青アザなんて聞いこともない。

この島には何かがあるのか?


それとも、飲んだ薬…


それはないと思った。

全員が同じ薬を飲んでいるはずだし、そうしたら違う症状が出るのも説明がつかない。

血液型が全員違う訳でもないし、その他、やっていることが全く違うこともないのだ。


そういえば、石田を含めたスタッフたちは試験管のような入れ物で何かを適宜接触していたっけ。

あれは何なのか…

キャンプファイヤーの時に聞いておけばよかったなと少し後悔した。

これ以上深く考えても何も出ないと思い、一旦分かっていることだけをメモ帳に書いておいた。


「おいおい、こんなところにまで来てお勉強かい?」


「違ぇよ、ちょっとメモっときたいことがあっただけ。今は勉強なんかしたくないし。」


「なぁ、次誰が風呂に入るか決めようぜ。」


樺島の方を向くと、かなりワクワクしている様子だった。

これはアレだ。

同級生が入った風呂の余韻を誰が取るか、的な感じだと直感した。

広瀬の方を向いても、顔を赤らめて、腰を後ろに引いているのが分かる。

こいつら…完全に変態1歩手前か、もう踏み込んでる領域だも土谷は思った。


「あぁ、いいよ、俺最後で。」


別に興味などなかったし、その提案をすると、ライバルが1人減ったと言わんばかりに、2人は文句1つ言わなかった。

結局、口論では決着は着きそうにないので、ジャンケンで決めることになった。


「いくぞ、ジャンケンポン。」


樺島がグー、広瀬がチョキを出した。

樺島は勝ち誇っているような、煽っているような顔をしだす。

勝ち誇っているのか煽っているのかなすぐに分かった。


「じゃ、俺がお先にいただいてくるわ。」


完全に広瀬のことを煽っている。

広瀬が岡本に好意を持っていることを知っていての発言なのだろうか?

脳筋で察しの悪い樺島がそんなことを考えているとは思えないが、案外そういう奴ほど恋愛にだけは詳しいものだ。

広瀬は悔しそうな顔をして自分のベットへと戻って行った。


にしても、「いただいてくるわ」って。

今から1戦おっぱじめるみたいな言い方で、土谷は鼻で笑う。

そんなに大事みたいに言う必要ないのに、見栄を貼りたがるのは樺島らしいと思った。


ある程度すると岡本が風呂から出てきて「次の人どうぞ」と声をかける。

樺島が颯爽と風呂の用意をして、風呂場へ向かう。

その時、広瀬の方を振り返って煽っていた。

やめてやれよと土谷は思ったが注意しても、やめる気がなさそうだからと諦めていた。


樺島が風呂に入り、シャワーの音が聞こえ始める。

「なんでジャンケンしてたの?」と岡本が聞いてきたので、土谷が「風呂の順番」と答えた。

なるほどねと理解した様子でこの会話は終わったが、彼女は自分の風呂の余韻を男2人が狙っていたなんて夢にも思わないだろう。

そういうことは気にしないタチだった。

質問に答えた時、広瀬がこちらをチラッと見ていたが、恐らくはそのことをバラされるかもしれないと思ったのだろう。

このに残っていたのが樺島だったらふざけ半分って言っていたかもしれない。

土谷はそんなことはしない、というより興味がなかっただけだ。


「風呂…どうだったの?」


広瀬が岡本に聞いた。


「めっちゃ綺麗だったよ。

ホテルみたいにトイレとお風呂が一緒じゃない時点で神だったし。」


「そ、そうなんだ。」


広瀬は顔が赤いままだった。

岡本はなぜそれに気がつかないんだろうと、土谷は疑問に思っていた。

鈍感にも程があるよな、と思えるのだ。


広瀬も広瀬で、余韻に浸れなかったからと言って、本人から風呂の情報を聞き出して、恐らくは妄想しているのだろう。

今回は妄想の中の人物が目の前にいる訳だし、風呂に入って綺麗さっぱりした状態でいるから妄想がしやすいと言ったところか?

あまりにも土谷目線では気持ち悪く写った。

勝手な偏見をしていた訳だが、広瀬の座る姿勢を見ると一概にそれがハズレというわけでもなさそうなのが面白い。

もう立派な変態を名乗れるんじゃないかと。

変態を全面に出しているやつよりも、隠していてあとからそれが判明する方がよっぽど気持ちが悪い気がしていた。


ある程度すると樺島が風呂から上がってきた。

行く時と変わらず、まーだ勝ち誇った煽り顔をしている。

出てくる時ですら広瀬のことを煽っているようだ。

「じゃ、次どうぞ」と言い放ち、広瀬は渋々だが風呂の準備をして風呂場へと向かっていった。


この時には既にメモは終わっており、考えることもなくなっていた。

「ハァー」とため息をつく。


「そんなため息ついてどうしたの?」


「いやぁ、船の上で広瀬がこのバカンスのこと心配してたじゃん?

なんか今になって考えてみたらそうかもなって。」


岡本に聞かれてそう答えた。

それを嘲笑うかのように樺島が割り込んでくる。


「お前も気にしてんのかよ。

全く、2人とも心配性がすぎるぜ。

大丈夫だって、今だってこんなに楽しめてんだから。

例えば今日が人生最後の日でも楽しいまま死ねるなら本望ってやつなんじゃねぇかな。

ま、最後はいい女抱いてたいけど。」


「いい女って何よ。」


「やっぱりボンキュッボンのナイスバディだろ。」


くだらない会話のおかげで、少し笑う元気が土谷に出てきた。

1度全て忘れて脳をスッキリさせる必要があるかもしれない。

風呂を最後にしたのは正解かもしれない。

どれだけ長く入っていようが、文句は言われないからだ。

この時ばかりは広瀬が早く風呂から上がってこないかなと思っていた。

広瀬がまだ出ていないのに、風呂に入る準備をするぐらいだ。


スマホをいじって時間を潰し、風呂セットを抱えたまま待つ。

スマホをいじっていても、WiFiもなければ、ここは圏外になっているらしい。

この時ばかりは不便だなと思っていた。

広瀬が出た瞬間に風呂場に向かった。


「なぁ、先に電気消して寝ててもいいか?」


「いいよ。」


ゆっくりするから時間はかかるので、起きていろとも言えない。

さすがの樺島も疲れたらしく、眠るようだ。

土谷以外の3人はベットで横になり、スマホ片手に寝る準備をしていた。

電気が消され、土谷はそのまま風呂場へと向かう。

服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

髪、体、顔の順に洗い、髭も剃った。

あとは湯船に浸かるだけ。


少しぬるくはなっているものの、体が温まるのを感じる。

自然と喉の奥から息が吐き出された。

気持ちが良く、そのまま眠ってしまいそうになった。

「いかんいかん」と少し体制を起こし、意識を保つ。

時間を忘れて癒されていたが、これ以上浸かっているとのぼせてしまいそうだと思い、立ち上がる。

だが、既に遅く、フラフラして目の前が万華鏡のようになってしまった。

軽く冷たい水で顔をゆすぎ、風呂場の外へと出る。


バスタオルで体についた水を拭き取り、スキンケアをした後にドライヤーで髪を乾かす。

一通り済ませるとやっと落ち着く。

出たあとは以下に素早くスキンケアやドライヤーを終わらせるかが美容のためなのだ。

もうみんな寝たかなと、ベットがある部屋へと戻る。

樺島はいびきを書いて寝ていた。

広瀬と岡本も寝息を立てて気持ちよさそうにねている。


自分もそろそろ寝ようとした時、ふと窓に何者かの人影を発見した。

しかも、確実にこのコテージの中を覗いている。

土谷と目が合うと、その人物はサッと窓からいなくなってしまった。

土谷は急いでコテージの外に出る。

3人を起こさないようにソッと出た。


コテージの周りを歩いて回ったが、何もいない。

他のコテージの周りも一応見ておくかと、歩いていく。

風呂上がりというのもあり、少しの風でも体は寒いと感じ取る。

いつも使っている部屋着のまま出てしまったが、半袖短パンなので余計寒いのだ。


全てのコテージの周りを調べてみたが、特に誰かがいる様子はない。

見た違いにしてはかなりハッキリとその姿を見た気がしたのだが、と頭を抱えながら自分たちの泊まっているコテージへと戻ることにした。

その時、近くで話し声が聞こえ、土谷は咄嗟にその場の影に身を潜める。

その声の主の1人は分かった。

キャンプファイヤーで聞いた声、石田だ。

もう片方は恐らくはここのスタッフをしている人の声だろう。

物陰からバレぬようにソッと除く。


「もうやめましょう。こんなこと。

罪悪感が…」


「今更もう遅い。彼らは希望なんだ、我々のための。そうやって見捨てるのか?」


「ですが…こんなやり方…」


「では他にいい意見があるとでも?」


石田は声を少し荒らげてしまったことを反省しているようで、その後、声を荒らげることはなかった。


「とにかくだ、やってしまったことは仕方ない。

最後までやるんだ。

全てが終わって、何も変わらなければ、その時はまた考えよう。」


その話の内容が気になり、もう少し見ようと前に出た時「バキッ」と足元にあった小さな枝を踏んでしまった。

それに気がついて石田とスタッフが近ずいて来る。

はぁ…はぁ…と呼吸が荒くなり、近ずいて来る2人をギリギリのところで交わす。

そのまま、自分のコテージのところまで来れた。

しかし、ドアを開けたところで2人に見つかってしまう。

万事休すか…


「うーん、どうしたんですか?

何かありました?」


「あぁ、すいません。起こしてしまいましたか?

なんでもありません。その…虫に驚いてしまって、声を荒らげてしまったんです。」


「そうですか、では、おやすみなさい。」


「おやすみなさい。」


寝ていたところを起きてしまったというふうを装った。作戦は成功した。

ドアを閉めたあと、土谷はドアに背中をつけてその場に座り込んだ。

まだ呼吸が乱れたまま。

あの時、見つかっていたら、誤魔化すことができていなかったらと考えると恐ろしくて、腰が抜けたのだ。

あの2人の会話の意味を考えながらベットに入る。

考えるよりもさっきの恐怖が忘れられずに、何も考えられないまま、気がつけば眠りについていたのだった。

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