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接触と空気  作者: アズキ


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第15話「死ななかった」

誰よりも遅くまで起きていたのは私でした。

けれど、1番早く起きたのも私。

眠りから覚めた時、波の音が耳を刺激して、鳥のさえずりなんかよりもずっと気持ちのいい目覚めだったのを覚えています。


思い返せば、その瞬間までが人生で最高の瞬間を生きていたと言えるでしょう。

空を見てボーッとしている時間がどれほど今は愛しいか。

他の場所から悲鳴が聞こえてきた。

隊員の一人が私のところまで全力疾走してきて、助けてくれと要求。

その顔は今でも忘れない。

恐怖に怯え、悲しみに喘いでいた表情。


隊員に連れられ、その場所まで行った時、私の頭の中から「楽しいバカンス」なんてものは消えてしまいました。

隊員が1人、そこで亡くなっていたんです。

しかも、見たこともない死に様を晒していた。

私は、それが人間であるという現実を受け入れるまでに体感、かなりの時間を使ったと思います。

昨日見たあの謎の物体と全く同じ色、同じような血管の浮き出た模様を体に現して死んでいた。


私はすぐに、他の隊員たちを起こし、状況を確認させることに。

残念なことに、私の嫌な予感は的中。

既に何人かが亡くなっていました。

その死体の異様さ、昨日見たあの物体と紐づけました。

あれは謎の物体ではなく、人の骨だったのだ。


私は生き残った隊員たち全員に体に痣が無いかを確認させた。

あの物体を触ったと言った隊員に痣があることから、触れたら感染するウイルスだと考えてみる。

それを覆したのは、触っておらず、昨日森の中に入っていった隊員にも痣が発言していたこと。

そして、昨日触っていたはずなのに、なぜ死ぬ人間と死なない人間がいるのか、それが分からない。


とにかく、私を含め、隊員たちは全員が死の恐怖に怯えることとなった。

私は昨日、何をしたかを考える。

森の中に入ったが、入っていない隊員も生きてはいる。

全員がすることで、左右されることといえば。

考えられるのは食事だった。

私はすぐに、昨日、物体に触った隊員たちに何を食べたかを思い出してもらうことに。

調べた結果、共通していたのは「トマトスープ」だった。


これは後から研究して分かったことだが、トマトに含まれるリコピンがウイルスの侵食を抑制することができることが分かったのだ。

しかし、あくまでそれは「抑制」。

完全にウイルスの進行を止めることはできなかった。

トマトを摂取しなければ、半日を過ぎたぐらいの時間で死に至ってしまう。

そうだと分かる前から、トマトを摂取していた。

結果、すぐに死ぬことは無くなったのだが、抑制にも限界というものがあると考え、この島を全員で研究施設にすることにしたのだ。


私の体も段々とウイルスに犯されていき、左の指から徐々に体の方へと侵食されつつある。

そして、何ヶ月もかけ、この島に研究施設、コテージを作り、研究をし始めた。

けれども、薬を隊員に試してもらった時、とあることが分かったんです。

その薬とウイルスには相性があるらしく、悪いと死ぬ時間を早めてしまう可能性があると。

それを知らないで投薬をしてしまった私は多くの仲間を失いました。


そして、やっとの事でウイルスの仕組みを解き明かした。

ウイルスは死体に付着していて、接触で感染する。

しかし、変化する時が来るのだ。

宿主が死んだ時。

そうすると、少しの期間、空気感染へと変わっていく。

空気感染の領域は広くは無いが、島にいれば感染してしまうことは確かだ。

このことを政府に報告する訳にはいかなかった。

伝えれば、私たちは殺処分されるだろうから。

土谷くんたちに話したように、鳥インフルエンザにかかった鳥のように。

このウイルスの侵食が遅く、治す方法があるのなら、そんなことは無いだろう。

しかし、このウイルスは死ぬ確率がほぼ100と言っていいし、治し方は分からないというのが現状。

そんな人たちを社会に戻すことを政府が許すとは思えなかった。


だから、最低限の人間しか、新薬のバイトの場所には行かない。

島に残って、どうにか生活をしてもらうしかなかったのだ。

1人、島に滞在している間に、死ぬかもしれないというストレスから自殺をしてしまったものがいた。

興味深いことに、このウイルスは侵食しきって死なない限り、空気感染にはならず、接触感染へと変わるということが分かったのだ。


かかってしまった人間を殺せば、空気感染を防ぐことができる。


その現実を知ったところで、実行する勇気はなかった。

なぜなら、相手が人間だから。

人間を相手にすると、動物にしていることができなくなる。

同種を殺すというのはこれほど決断出来ないものなのだろうか?

けれども、できないのは自分も同じ状況だからだと思う。

上の人で、自分に関係がなく、リスクのある人間がいると知れば、即刻始末してしまうはず。


私は苦渋の決断を迫られてしまった。

被検体がいなければ、薬の開発はできない。

だから、新薬のバイトと称して、何人かを集め、被検体になってもらったのだ。

非人道的なやり方であることは従順承知していた。

それでも、私は生き残っている隊員たちを救いたかった。

また、生きているという実感を与えてやりたかったのだ。


その思いのせいで、何人もの被験者を死に追いやることになってしまった。

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