助けたはずなのに
「梨奈、新しい持物使って女の人助けたんだって? 凄いじゃん!!」
「昨日あかねちゃんがめっちゃ興奮してメッセージしてきて。『やっぱ梨奈ねーちゃんは史上最強だ!』って」
「もう、なんでわたしが居ない時に限ってそういう重要シーンが起き……」
友梨奈の一見感情が無い無機質な表情を見て咄嗟に口をつぐむ麻由。
いつも能力を進んで使っていないのは理解しているし、教室で暗いというか無表情なのも友梨奈の通常運行だ。
でも今の彼女が醸し出す雰囲気には、まるで結果的に人を助けられなかった後のようなテンションの低さを感じる。
「どうしたの、梨奈。なんか悩みごと?」
「う……ん……。悩みっていうか……。なんで人は好きな人に暴力を振るったり、脅したりなんて酷いことが出来るんだろう、って……」
友梨奈が他人の心を考えて理解しようとするのは普通化に向けて良い傾向だと麻由
は思う。だが今回は人の業が深すぎる案件で友梨奈じゃなくても理解が難しい。
「……ストーカー事件のことね。前ニュース番組で説明してたけど、それってDV心理って言うらしくて、加害者は子供の頃親の暴力を見て育ったり、自分が暴力を受けてたりすることも多いんだって。被害者は暴力を頻繁に受けることで、正常な判断が出来なくなっちゃうらしいよ」
「それって……両方救われない……」
麻由には友梨奈が『自分の能力では』と言ってるようにも聞こえた。
「じゃあ、わたし何のために助けたんだろう……」
確かに一度助けたからと言ってそんな負の感情の連鎖は止められないだろう。
(せっかくディフェンス系の能力を身につけて、梨奈が自ら積極的に人助けしたのに……。救われない結果に終わっちゃったら、もう次は無いかも……)
悲しげな眼差しで友梨奈を見つめる麻由。
「梨奈ねーちゃん、大変、あのストーカー、またあの女の人を狙ってるの」
「また出た……」
黄色のリュックを担いだあかねがいつものように校門の外で待ち構えていた。
それを迎える友梨奈はいつもの限度を超えた嫌な顔ではなく、さっき教室で見せた無表情な顔であかねを見つめている。
あかねの持つ天眼通(通称千里眼)と天耳通の能力は偵察や監視にも優れている。
だがあかねが視えるだけでは友梨奈には何も出来ない。
「ねぇ、麻由……」
自分の右手を見つめながら、隣の麻由の方を見ずに話しかける友梨奈。
「……わたし余計なことをしたかもしれない。見えないわたしの防御であの男が本気で殺そうとしていないように、女の人には伝わっちゃってるんだよ。そのせいで自分の命の危険を感じていないのかも」
麻由はハッとして友梨奈の顔を見る。その可能性は確かにある……けれども……。
「でも! 梨奈が助けてなかったら、きっとその女の人もう殺されちゃってたんだよ。それを余計なことなんて絶対言えない!」
友梨奈が能力を使うことを後悔なんてして欲しくない。
そのお蔭で今も人生を続けられている人が自分を含めてたくさんいるのだから。
「あかねちゃん、なにか守る手は無いの?」
小学生に無茶振りだとは思う。でも能力関係で一番知識と経験があるのはあかねだ。
「この女の人がいる場所、そんなに遠く無いから直接行ってみる?」
「え?!」
直接対峙したら意生身という友梨奈のメリットが無くなり、殺人未遂犯に顔を見られるし、普通の人と同じで直ダメージを受けてしまう。
持物は生身でも同じように使えるんだろうか。
デメリットだらけの上に、不確定要素も大きくて、とても選択出来ない手段だ。
「そうね。直接行ってあいつぶっ飛ばすか」
「えぇ?!」
想定外のアグレッシブな返事に唖然として友梨奈の顔を見つめる麻由。




