重なる面影
「な……!?おい、聞いてなかったのか!?そのネギには毒があるんだって!」
シュルクが声を荒らげているにも関わらず、マルコは落ち着き払った様子でムシャムシャとネギを食べ進める。
なぜ毒ネギを食べたんだ?わざわざシュルクが「毒」と申告してくれたというのに……
毒なんて効かないというアピールか、はたまた毒を摂取することで発動する魔法でもあるのか……
身構えていると、マルコは「毒って……君は知らないの?普通、ネギには毒なんかないんだ。僕は田舎の出だから心得えてる。」と余裕たっぷりに言い放つ。
(……ん?)
程なくして、マルコの顔はみるみる青ざめていった。
「まって……お腹痛い……!」
「言わんこっちゃない。」と言い捨てるシュルク。マルコは蹲り、「待って……!ちょっと毒浄化魔法使うから……!」と懇願する。
(なん……だ?え?本当に考えなしで食べただけ……?いやいや、成長しないな俺も!言葉の裏が……!どこかにこの行動の狙いがあるはず!)
どうする?と言わんばかりにこちらに振り返るシュルクに、俺は「ちょっと待ってやろうぜ」の意味を込めてタイムのジェスチャーをした。
その時、アンが突然「マルコ!また相まみえるとはな!うおおおおおお!」と叫び、大きな杖をマルコに振り下ろした。
――絶句。シュルクも俺も信じられないものを見てしまい、真っ青な顔で固まってしまう。
「お……ま……それ元仲間でしょ……?弱ってる時に不意打ちって……」少し間を開けてからやっとシュルクが意見し、
「勇者の肩書きが泣いてるぞ」と俺が続けた。
「え!?いやだってほら!あんまり手段とか選んでたら私たち一生国外追放されたままですよ!?」
アンの言葉を聞いて、一理あるかと思った俺は「「確かに」」と呟く。シュルクもたまたま同じタイミングで納得したのか、俺と声が揃ってしまった。
確実に仕留めたと思われたが、マルコは自分の周りに二重線を引き、小さなカプセル状の結界に閉じこもり自身を回復してみせる。
なるほど――奥の結界は回復に、手前の結界は壁に。そんな使い方もできるようだ。
「……そっか!分かった!いつでも回復できるから毒なんて怖くない、マルコはそう伝える為に毒ネギを食べたんだ!」
結界で回復したマルコを見て、シュルクは閃いたように言う。確かにそれでも道理は通るのだが、何かが引っかかる。
マルコは「セクシーなお姉さんがいない」という理由でアンのパーティを脱退した。
本来ならばこういう時、「実はアンが魔王軍に襲われてて、それを助ける為にスパイ役を買って出たけど脱退理由を考えるのが致命的に下手だった」とか……そういう事情を疑いたくなるものだ。
実際、リサならきっと馬鹿らしい理由をつけて離れる時はきっと何か事情が隠れている時だろう。
でもどうしてか、このマルコという男からはそれが一切見えない。
マルコは元気になると、安全な結界の中から「君たち、僕と戦いに来たの?」と尋ねてくる。
「そ、そうよマルコ!闇堕ちなんてそんなことやめて!」
必死に訴えるアンを見て、マルコは「くっ」と唸りながら俯いた。
(いや、やっぱりあの表情……!何かがある……!あるはず……!)
「やめてくれアン、頼むから帰ってくれ……!できないなら……戦うしか、ない。」
マルコは腰に据えたワンドを取り出し、その先を地面に押し付けながらアンとの距離を縮めていく。
ワンドの先は広くなっていて、地面に丸い跡が残っていた。
嫌な予感がして地面を見る。すると、地面に点々と丸い跡があることに気がついた。
入り口付近には人が住んでいる形跡があったが、奥側には人気もない。
不覚にも俺たちは地雷原に誘導されてしまったんだ。
(――まずい!)
「アン!無闇に動くな!足元見ろ!」
言うのが遅かったか、アンは向かってくるマルコに怖気付き、地面の丸い跡を踏んでしまう。
「うっ……!」
瞬間、アンは痺れたように震え、動けなくなってしまった。
その隙にマルコのワンドが彼女のみぞおちにヒットする。
「アン!」
駆け寄ろうにも、この丸い跡が邪魔だ――
そう思っていた時、地面からぬるぬると緑色の植物が生えてきた。
「アッシュ、ネギがあればあのちっこい結界、無効にならないかな!?」
シュルクの機転のおかげで、結界を踏まずにアンの元まで駆け付けることに成功する。
「アン、大丈夫か!?」
マルコは俺が動き辛そうにしている間も、ただ心配そうにアンを見つめているだけだった。
「……甘いんだな、魔王軍!今留め刺せば勝てたんじゃねえの。」
剣を抜き、マルコを挑発する俺。彼は目を伏せながら「アンと戦いたくなんか、ないよ。」と呟く。
「そんな大事な相手なら……!どうして裏切った!」
俺の気迫に驚いたのか、マルコは目を見開き「凄いね、他人のことでそこまで怒れるなんて。」と無感情に口にした。
確かに今、無駄に感情が乗ってしまったような気がする。
「他人のことでもないし!?お……お前らが裏切ったせいでこっちは国外追放されてんだよ!そりゃ怒りもすんだろ……なあ!?」
アンに話を振ると、彼女はキョトンとした顔で「ま、まあ……はい。」とだけ返事をした。
「それより話逸らすなよ、何で裏切った!?事情があったならパーティ抜けて別のとこ行ったってよかったろ。……どうしてわざわざ……魔王軍、なんだよ……!」
俺は目の前の男に、縋るように問い詰める。マルコに尋ねているようで、その言葉はどこか別の人間に向いているような気がした。




