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結界を破れ

――翌朝、魔王軍の被害に遭ったとされる村を目指す俺たち。


(頼むからレベッカだけはやめて。)

(マルコと会ったらまず何て言えばいいのかしら……ちょりっすとか?軽いか。マルコ、またここで相まみえるとはな……!よし、これで行こう。)

(別に興味ないけど、リサはちゃんと食えてんのかな。)


それぞれが物思いに耽っており、道中の会話は一切なかった。

ふと、シュルクが「村、あれじゃない?」と口にして遠くを見やる。


「お、シュルク目がいいな。地図的にもあそこで間違いないよ。」


そう口にしてから、俺とシュルクは駆け足で向かう。


その時、アンが突然「待って!止まってください!」と声を上げた。


「「え?」」


振り返る間もなく、俺の体は何かに弾かれる。突然腹部を襲った痛みに耐えきれず、俺は唸り声を漏らした。


どさりと地面に落ち、咳込んだ。どうやらシュルクも同じらしく、体から黒いもやのようなものを出しながら腹を抱えて蹲っている。


「な……んだ……今の……!」


シュルクが掠れた声で呟き、アンは何かを考えるように顎に手を当てた。

それから不思議そうに地面に目線を落とす。先刻は気にならなかったが、地面には木の枝か何かで引っ掻いたであろう線のようなものが引いてあった。


「アン……!お前、止めたってことは何か能力に心当たりがあるんだよな!?」


首を傾げ、「自信はないですが……」と呟くアン。そして「シュルクさん!その手元に引かれた線のようなものに触れてみて貰ってもいいですか?」と続ける。


シュルクが線に触れると、彼の体が宙に舞い……地面に衝突した。


「間違いない……!これはマルコの固有スキル『結界』の能力です。」


アンはシュルクが「へぶ」と情けない声を上げたのを見て、確信したように言う。


「俺に触らせる意味あった!?馬鹿なのお前!」


「結界……ってことは、線で囲んだとこに入ると吹き飛ばされるとか、そんな感じか。」


「大体合ってます!ただ吹き飛ばされるのはそういう魔法を併用しているだけで、壁になったり回復したり用途は様々です。」


要するに、線で囲ったとこに好きな魔法効果をぶち込める能力か。結構面倒なスキルだな……流石は元勇者パーティだ。


「……おい、全員で力合わせねえと突破できないぞ。再度確認するけどさ……お前らの固有スキルって何?」


「わ、私は……!見た魔法の呪文を生成できます!でも、固有スキルは対象外です。」


(改めて聞いても強いな……使い方次第でかなり戦いやすくなるぞ。)


「なんだ、クソスキルじゃん」と吐き捨てながら起き上がるシュルク。アンと俺は何かを待つように彼をじっと見つめる。

シュルクは地面に座り込んだままびくりと跳ね、顔を逸らした。


「……シュルクさん?今あなたの固有スキルを教えてくれる流れでしたよね。」


アンがそう促すと、シュルクは小さな声で「……せる、スキル……」と呟く。


「はあ??何て?蚊の羽音でももうちょっとはっきり聞こえますよ。」


「なんだ、もしかしてお前王族の癖に言えないほど恥ずかしいスキルなの?パンツが光るとか。」


アンと俺が煽ると、シュルクはため息をついてから「植物を……生やす能力だよ……」と答えた。


「……なんだ、勿体ぶるからどんな能力かと思ったら……なんか凄い可もなく不可もない感じのスキルじゃないですか。そのくらいスっと言ってくださいよ。」


アンは舌打ちした後でそう吐き捨てる。

……いや、案外捨てたものではないかもしれない。好きな場所に薬草等を生やせたりできるのであればかなり有用だ。


「シュルク、俺はお前の能力を可もなく不可もないとは思わない。」


そう言ってシュルクに手を差し伸べる。彼は目に涙を溜めて「アッシュ……!お前案外良い奴だな!」と口にした。


「どんな土地にでも好きな草を生やせるなら、種類によっては水分も賄える。」


そう言ってやると、シュルクはやけに自信満々に「いや、1種類しか生えないよ!」と言って微笑む。


「……?1種類……ああ分かった!なんか蔦とか操る系のあれだろ!?それなら移動や拘束にも便利そうだ。」


フォローを入れるも、シュルクは勢いよく首を横に振ってから地面に手をかざしてみせる。

次の瞬間、緑色の草が足元ににょきにょきと生えてきた。


俺はしゃがみこみ、その草をじっくり観察する。


「……ネギだ……」そう呟くと、アンは「いやそれ、絶対戦闘で使えないですよ……!私とアッシュさんで切り抜けるべきです。」と切り捨てた。シュルクはアンにそう言われたことで泣き出してしまう。


「そ、そんなことない!食べられるなら戦で役立つじゃんか!ネギは栄養も豊富だし……いいスキルだと思う!」そうフォローを入れると、

シュルクは小さく「ほんと……?」と呟いた後「へへ、それ……毒ネギだから食べれないけど……あ、でも無駄にデカくなるしよく増えるぜ!」と続け、はにかむ。


「クソスキルじゃねえか!」そう声を荒らげる俺。シュルクは再び泣き出してしまった。


(どうする……?足元には結界、魔力が干渉した時点で弾かれるんだろうか?)


試しに結界に炎魔法を撃ち込んでみる。予想通り魔法は弾かれ、「魔法で結界を消す」ということが困難であると悟った。


……いや、待てよ。


俺は隣でめそめそ泣いている男に「……シュルク、お前のネギってさ……魔力として干渉するのか?」と尋ねてから、ネギを1本引き抜き結界に投げてみる。


すると、ネギは弾かれずポトリと結界の傍に落ちた。


「魔法でできたネギだけど、ネギ自体は魔法判定を受けないみたいですね。」


キョトンとした顔で言うアンに、俺は「それ!使えるぞ!」と言い放つ。


「シュルクごめん、俺とアンが間違ってた。結界の周りにわんさかネギ生やせるか?」


シュルクは晴れやかな笑顔で顔を上げ、ネギを結界の周りに生やしてみせる。ネギはどんどん伸びて増殖し、結界の内側にまで生えてきていた。


「た、食べられないネギをこんなに生やしてどうするんですか!?」


戸惑うアンに、俺は「バフ魔法使えるか?アン!無理なら今から俺が使って見せるから見て真似ろ!」と指示を出す。


2人でシュルクを強化すると、ネギは細い木の幹ほどの太さに成長し、根を張った。そして、周りの地面が隆起し――結界の引かれた地面が裂ける。


「よっし!お手柄だシュルク!これで村に入れんぞ!」


シュルクとハイタッチを決めた後、アンが「でもこれ、どうやって通ります?ネギの壁ができちゃいましたけど……」と尋ねてきた。


「切りゃいいでしょ、所詮ネギだし。」


言いながら剣を抜く俺に、シュルクは「成長したネギを切ると毒ガスで目がやられるよ。」と説明する。


「……焼き払いながら進もう……」


……


ほんのり焼きネギのような香りを発しながら、俺たちはなんとか村に入ることに成功した。


入り口付近には水の張られた桶などがあり、人の住んでいる形跡が見られる。

しかし、奥に進むほど静かになり……村というよりは廃墟といった雰囲気だ。


「なんか、気味悪いですね……」


アンが言うやいなや、どこからともなく「君たち、よくこの村に入ることができたね。」と声が響く。

振り向くと、白髪の物憂げな顔をした少年がこちらに歩いて来るのが見えた。


アンが「マルコ……!」と名を口にしたことで身構える俺たち。

マルコは動揺するアンを見て顔色ひとつ変えずに「久しぶり、アン。」と悠長に挨拶してみせた。


(何考えてるか分からねえ奴……!どうして結界が破られてこんな冷静でいられるんだ?何か秘策があるに違いない。)


どう仕掛けるべきかを慎重に探っていた時、突然シュルクが俺たちの前に出てきて「なあ、お前の結界は俺の毒ネギが破っちゃったよ?もっと焦らなくていいの?」と威勢よく言い放ち、毒ネギをマルコに向ける。


マルコは数秒それを眺めると、ネギをシュルクから奪い取り――勢いよく齧り付いたのだった。

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