言葉の裏
ドラゴン肉を暖炉の中に入れ、焼く。肉はこんがり狐色に焼き上がり、肉汁を滴らせていた。
「美味しそー!」と言ってシュルクが肉に手を伸ばした時、俺の目が光る。今こそ情報を引き出す好機だ。
「シュルク、戦闘にも参加せず肉にありつけると思ったか?もうお前を王族扱いしねーぞクズ野郎め。この肉を食べたかったらよ、お前の婚約破棄した……なんだっけ、レベッカ?について教えろ。」
ニヤつきながら要求を口にすると、アンも「あ、私も興味あります!どんな方だったんですか〜?」と茶化すように尋ねた。
シュルクはため息ひとつ吐いたあと「美人で……国立高校で首席。武術にも長け、魔術の幅も広い。……そして何より、一途に俺を慕ってくれてた。」と語る。
「ひゅーひゅー!面白そう!で?なんでそんな完璧な女性を振っちゃったんですか!?」
アンは高揚した様子でシュルクに詰め寄った。あれ、シラフだよな……?女子は恋の話が好きだと聞くが、本当らしい。
「……なんか……慕ってた……?と、いうか……『見られてた』って感じで……こ、怖くて……」
口ごもりながら言うシュルクを見て、俺とアンは顔を見合わせた。
「どういうこと……?見られてたって何。恋バナ系で初めて聞いたんだけど。」
「お前らは分からないだろうけどさ!?レベッカはこう……俺を好きは好きなんだけど、恋人として好きというか、馬鹿な飼い犬を愛でるあまり管理が行き過ぎるというか……!と、とにかく怖い女なんだよ!」
やけに必死に訴えるシュルク。「具体的に、ヤバいとわかるエピソードはあるのか?」冷静に尋ねる俺に、彼はしどろもどろで「……黒魔術……」と呟く。
「はい?」
「黒魔術って言った?」
「く、黒魔術で操られて……!勇者にさせられたんだ、俺!あの女にさ、糸みたいなので操られて魔王軍幹部を倒しちゃって……!何か英雄に仕立て上げられた結果が今っていうか……!」
震えるシュルクを見て不憫になった俺は、彼の肩に手を置く。
「アッシュ……俺の恐怖を分かってくれたの?」そう言って安堵の表情を浮かべるシュルクに、俺は優しく微笑みかけると
「……シュルク君、頭大丈夫ぅ?」と言い放った。
「ちょっ……ふふ、だめですよアッシュさん〜。自分のやらかしを正当化しないとシュルクさんも苦しいんですってぇ!」
アンは笑いを堪えながら、フォローの皮を被った皮肉を吐き捨てる。
「シュルク君そういうのなんて言うか知ってる??ふふ……酸っぱいぶどうって言うんだよ〜!」
「ははははは!やめましょうよもぉ〜」
俺たちがここまで笑うのには理由があった。黒魔術は古代魔法とも呼ばれ、習得が難しく、20年魔導を極めた者がやっと履修できるとされる。
シュルクの歳からして、婚約者も恐らく若い。およそ10代、20代の小娘が扱えるものでは到底ないのだ。
「も、もういい!お前らに話した俺が馬鹿だった!……でも、ちゃんと話したから肉は貰うぞ。」
シュルクは淡々と肉を切り分ける。アンも「あー、面白かった!」と言いながら肉に手を伸ばした。
「――待て、なんで自分は何もないと思ったんだアン?お前も話せよ、よく分からん僧侶の話が1番聞きてーわ。」
アンの手を掴み言うと、彼女は目を泳がせてから「……僧侶……『マルコ』は、昔から不思議な子でした。」と語り出す。
「|ふひひにゃほ(不思議な子)?」シュルクはドラゴンの肉を食みながら反復する。
(おい、こいつ本当に王族かよ……)
「出会った時、彼は網を持って森に佇んでいて……何やら真剣な顔をして立ち尽くしていたんです。」
「へえ、森には魔力が充満してるって言うし、瞑想でもしてたのかね。」
シュルクが言うと、アンは「分かりません」と首を横に振ってから「どうにもその姿が気になって、『何をなさっているんですか』声をかけると――『別に、何も。』と返すのみでした。」と続けた。
「確かに不思議だな……なんか、僧侶でそれって神秘的じゃん?案外『セクシーなお姉さんがいない』ってのも、なんかの暗喩だったりして。」
俺の言葉に、シュルクは「お、それありそう!だって普通、そんな理由でパーティ抜けるバカいないもんね。」と肯定してくれる。
……そういえば、リサもなんでもないような言葉に意味を混ぜる奴だった。
意外と……人の言葉の裏には、SOSのサインが潜んでいるのかもしれない。
「……そうだ、明日は魔王軍幹部の目撃情報があった村に向かうってことで良かったですよね?」アンが確認してくるので、俺は彼女に肉を切り分けてから差し出し「んだよ。誰かしらの身内だといいな。」と返してやった。
「ですね!こんな旅早いとこ終わりにしたいです……お二人とも、性格最悪ですし。」
アンがそう口にした瞬間、俺とシュルクの耳がピクリと動く。
「は?お前よりはまだ俺のがマシだわ!アンちゃん自覚ないの?君結構えぐいよ。女子が悪口言ってる中で『もうやめなよ〜!』とか言いながら1番笑ってるタイプ。」
と俺が切り込み、
「分かるー、自分は言わないから性格良いよね♡とか間違った認識してるやつだわ。笑ってるやつもそこそこ罪深いからね。」
シュルクもそれに続いた。
「パーティメンバー全員に逃げられてる人たちとは流石に比になりませんよ!」
「うわ!そこ突いてくる時点でもうね?」
「無自覚ってこわいわー……自分だって国王陛下に情報売られてた分際で。」
そこまで一緒に共闘していたのに、シュルクは突然「まあでもそれはアッシュもなんだっけ?」と刺してくる。
睨み合い、全員舌打ちしてから「「「クズどもが……」」」と呟く俺たち。
それからお互いに背を向けると、無言で芝生の上に寝転んだのだった。




