醜いドラゴンの子
「兄様は、醜いドラゴンの子という話を知ってる?」
――ふいに、リサがそう問いかけてくる。
「知らね、それって俺にとってタメになる話?」
「それは分からないけど……ある、ドラゴンの子供がね。親とはぐれてガチョウの子として育てられるの。でもドラゴンはガチョウの子供たちに『鱗があって魚みたいな奴、醜い』ってバカにされるんだ。」
「はん、そんなん大きくなってから食ってやりゃーいいのよ!」
関心なく言い放つ。リサはこういう、何でもないような話が好きな女だった。
空が青いとか、今日の兄様は楽しそうだとか、そんな生産性のない話ばかりする。
「ふふ、そんなこと……しないよ。ドラゴンはね、他と違うことに悩んでた。自分は誰からも必要とされてない存在なんだって。」
そこで気付いた。これはきっとリサから俺に向けられた哀れみ混じりの励ましなんだと。
俺は魔力が極端に大きい子供で、何も知らない人間が聞けば長所と思われるかもしれないが……皮の袋に水を入れた状態を想像してみてほしい。
しかも、中の水は日に日に増えていく。そこに小さな穴が空いていても、少しずつしか出ていかないのでどんどん膨張し、破裂すれば――
以前、自分がぶち抜いてしまったタヤおばさんの家の壁を見やり、ため息をついた。
「でも、最後はガチョウの天敵を追い返せる強い子になって、みんなから感謝されるの!……素敵な話でしょ?」
リサは「だからきっと将来、兄様もそうなるよ。」なんて言わない。
なんとなく無邪気に語った物語で、俺の心が救われると本気で思っていたのだろう。
何も考えてない振りをしながら、どこか言葉に裏がある、それがリサという女。
――なあリサ、俺は……ドラゴンになれたんだろうか。
……
「ファイアブレス!」
火魔法を口から吐き出し、薪に火をつける。焚き火に群がり、勇者どもは「いいねー……」「あたたかい。」などと呟いた。
「アッシュー……お前の固有スキル、まじ便利だなー……魔力がどんどん補充されてくって冷静にやばくない?」
「まさに魔力の泉ですねえ……冬は特に助かります。ジョブが剣士なの勿体ないですよ〜……」
俺たちが締め出されたのは2月、当然火や温かい食べ物が必須だ。俺の固有スキル「魔力の泉」は休まなくても定期的に魔力が回復していき、なんなら上限を食い破って爆発しそうになるので、定期的に魔法を使う必要がある。
それを利用した愚か者たちは、俺の魔力を利用し贅沢三昧。食料の調達すら自分でやろうとしなかった。
「おい!お前らもなんか働けよ!昨日も温存とか言って怠けてたろ!」
言うと、アンは渋々皮のリュックから魔導書らしきものを取り出し「何したらいいですか〜?他パーティから金でもぶん取ります?」などとおよそ勇者とは思えないセリフを吐く。
「んなの、指示出されるまでもなく自分で考えろ!3人で話し合った時リーダーは全員って話になったんだから、指示を待つなよ。」
アンはペラペラと魔導書のページを捲ったあとに「あ」と小さく声を上げた。
「これいいじゃないですか!オハナハエール!」
言いながら、アンは俺に魔法をかける。……頭の上に痒みが出たかと思えば、アンとシュルクは腹を抱えながら俺を見てケラケラ笑っていた。
頭皮から生えた「何か」を抜き取ると、それが白いチューリップの花だということがわかる。
「おい!なんちゅうキショい魔法使ってんだ!」
声を荒らげる俺に、「えーもー可愛かったのにー!抜いちゃだめですよぉ!」と答えになっていない言葉を返すアン。
そして隣でケラケラ笑っていたシュルクにも魔法をかけた。
次の瞬間、シュルクの頭からにょきにょきとネギが生えてくる。
「ぎゃははははは!ネギ!ネギ生えてる!シュルクお前花ですらねーじゃん!」
「あはははは!ドラゴン肉と一緒に炒めますぅ!?あはははは!」
シュルクは真っ赤な顔をしながら無言でネギを引き抜き、それを凝視した後「これ……毒だよ。毒ネギっていうネギの仲間。」と小さな声で解説してみせた。
「まじかよ!俺チューリップなだけマシだったわ!」
「食べれもしないとか……!お腹痛い!」
笑い転げる俺たちを冷静に見下ろしながら、シュルクは「こんなよく分からん宴会魔法が載ってるとか、しょうもない魔法書だな。」と吐き捨てる。
「……ああ、これは自作ですよ。私の固有スキルは『見た魔法の呪文を生成できる』能力。固有スキル以外は全部適用できます!もちろん、上級魔法とかはレベルが合わないと使えませんが。」
魔導書を見せびらかしながら、アンは淡々と自分のスキルについて説明してみせた。
軽く話しているが、彼女のスキルはかなり強力だ。
「あと使えるのはー……口から旗を出す魔法に?静電気で体がくっついちゃう魔法とか〜……」
使う人間がこの女だったせいで宴会芸辞典と化しているのが勿体ない。やろうと思えば魔法書販売で荒稼ぎできてもおかしくないんだが……
アンは「私は働きましたよ。」と言ってシュルクを見る。シュルクはバツが悪そうに「水汲んでくる」と言ってとぼとぼ川へ歩いていった。
「……ねえ、妙だと思いません?シュルクさん。」
アンがシュルクの背中を見送りながら呟く。
「おいやめろよ陰口なんて。」
そう諌める俺に、アンは「え、良くないですか?だって冷静に考えて私たち裏でも表でも悪口しか言いませんし。」と反論してくる。
納得した俺は、「それもそうだな、続けて。」と促した。
「煽る時だけ元気だけど、戦闘の時は『お腹痛いから』とか言って遠くから見てるだけだし……魔法使ってるとこ見たことないです。あんな状態でどうやって勇者をやってきたんでしょうか?」
アンの疑問は案外的を射ている。別に必要以上に貶したいわけではないが、シュルクはあまりにも集団行動に向いていないし、戦闘力も冒険者として疑わしい。
「あのレベッカとかいう婚約者が関わってそうだな……ちょっと気になる。」
「後で聞いてみません?案外面白いこと教えてくれるかもしれませんよ!」
アンは楽しそうにそう提案すると、水汲みから戻ってきたシュルクに駆け寄り「お疲れ様」と声をかけてからまた頭にネギを生やす。
(シュルクも確かに気になるけど……アン、お前の僧侶も俺は気になってるんだぜ?油断してるみたいだが、お前にも話してもらうからな……!)
俺は騒ぐ2人の様子を見ながら、どうやって話を引き出そうかを考えていた。




