マルコの真意
「……なんだかよく分からないけど、苦しそうだから教えてあげるよ。……僕は……パーティの仲間が大好きだった。アンは可愛かったし、他の仲間も優しくて……」
そこまで言い切ってから、マルコは唇を噛み「……でも。」と掠れた声を漏らす。
「……平和な冒険生活の中で、僕の心はいつも空虚だった……あのパーティには……なかったんだよ。」
震えた声で言い放つマルコを見たアンは、立ち上がり「何が……?」とこわごわ尋ねた。
「……色気が!」
突然大声で叫ぶマルコ。場の空気は急に冷え込み、冷たい風が俺とアンを撫でる。
遠くで見ていたシュルクは、真剣な顔で何かを考え込んでいるようだった。
「……なんて……?」
静寂を裂き、やっと動いた口からそんな言葉が零れる。
「アンも……!魔法使いも顔は可愛いんだ、間違いない。……でも!露出度が本当に低かった!アンはいつもゴテゴテの鎧着てるし、魔法使いはローブで身体のラインすら見えない!……耐えられなかったんだ……!」
「まってまって、そんな悲しそうに叫ばれても困る。一旦落ち着いてくれないか。」
俺が止めようとするも、マルコは一筋の涙を流しながら「……魔王軍には、『よくその格好で外出ようと思ったね』って格好をしたお姉さんがいっぱいいるんだ……!アン……僕……!戻りたいけど……もう、戻れないよ……!」と訴える。
「いや、今の流れに泣くとこあったかな。」
ふいに、遠くで一連のやり取りを見ていたシュルクが俺のところに寄ってきて、何かに気付いたように「ねえ、あいつ……」と呟いた。俺はそれに無言で頷く。
「そ……そんな理由でパーティを抜ける人間がいるわけないでしょ!お願いよマルコ、本当のこと言って!何か他に事情があるんでしょ!?」
真相を知りたがるアンに対し、マルコは「本当のこと……?僕は本気だよ。」と返す。
「……そう、どうしてもしらばっくれる気なのね……」
そう口にして涙を流すアン。俺はシュルクに目配せしてから、彼女の名前を呼んだ。
アンはこちらを見て「ご、ごめんなさい!不甲斐ないところを見せて……!ダメですね私、仲間の隠し事1つ聞き出せない。」と涙を拭い無理に笑顔を浮かべる。
「アン、君とマルコを見てて確信したことがある。聞いてくれないか。……恐らく、これは君じゃ絶対に気付けない。」
俺は言いながらアンの両肩を掴み、真っ直ぐ顔を見つめた。
「私じゃ……気付けない……?」
アンがそう復唱したところで、シュルクも「うん。俺たちだから気付けたことだと思う。……聞きたい?」と真に迫った顔で彼女に問いかけた。
「お……しえてください……!私じゃ気付けない、マルコの真意を……!」
俺は深呼吸をひとつすると、「アン、マルコはな――何も考えてない。本当に裏とかないんだ。本気でセクシーなお姉さんを求めてパーティを抜けた。」と告げる。
アンはそれを聞いて数秒固まった後、「で、でもほら、冷静に考えて有り得ません!何か裏が……!」と反論しようとした。
俺はそれを食い気味に「ないんだ!あいつに裏はない!」と否定する。
「な……え、じゃあ初めて会った時に森でぼーっとしてたのは……」
「網を持ってたんだろ?多分虫取りにきたけど虫がいなくて立ち尽くしてただけだ。本人の申告通り本当に何もしてなかったんだよ。」
俺はアンに言い聞かせるよう、力強く言い放つ。
「なら……えっと、突然僧侶なのにガントレットを買って装備したはいいけど、重くて疲れるからって3日しか使わなかったのも……!」
「ガントレットにテンション上がって衝動買いしたのはいいけど、思ったのと違ったから使わなくなったんだ。ちなみにさっき毒ネギを食べたのにも理由がないと思う。美味しそうだったから……食べただけ。」
シュルクもそう訂正した。するとアンは「そんな……そんなのって……」と口を覆い、目を見開く。
風の音と共に、「馬鹿すぎる…………」というアンの声が響いた。
シュルクは無念そうに目を閉じ「たまに……いるんだよ。本当に何の裏もないし何にも考えてない奴って……」と呟く。
アンはマルコの前に歩いてくると、「決着を付けましょう、マルコ。こちらが勝ったら、私の話を聞いてもらう。」と告げた。
マルコは頷くと、またワンドを構える。
アンは俺たちの元に駆け寄り「アッシュさん、シュルクさん!マルコに勝つには……どうしたらいいと思いますか!?」と意見を求めた。
マルコの能力で厄介なのは、「結界を引いた中ならほぼ無敵」であること。どれだけ追い詰めても結界に籠られてしまうと回復されて戦闘が長引く。
俺が長考している間に、マルコはこちらに殴りかかってきた。まず狙われたのは俺とシュルク。
マルコの手のひらがシュルクに当たり、思い切り吹き飛ぶ。マルコの細い腕からそんなパワーは出そうにない。
よく見ると、マルコの手に丸い線が描かれていた。
(そんな使い方までできんのかよ……!)
一見、マルコの能力は万能だ。特に避けるべき距離は彼の拳が届く間合い……しかし、距離を取っても結界で魔法を跳ね返される。
マルコは自分の周りにまたスタンプを押してこちらの様子を伺っていた。
――そういえば、さっきも自分の周りに執拗に印を付けてたな……
起き上がってきたシュルクは魔法が跳ね返されたのを見て「……なあ、あのさ?マルコの結界って……生物なら、中に一緒に入れるよな?最初侵入した時も結界の内側にネギが生えてたし。」と口にした。
するとアンがハッとしたように「マルコの結界には、人も複数入れます!」と補足する。
……そうか!マルコと戦う時、1番有利な間合いは……!
「……アン、シュルク!マルコが1番困る間合いは……!同じ結界内に侵入されうる密着レベルの至近距離だ!」
俺が小声で2人に知らせると、アンが「じゃあ、自分の足元にスタンプを押す癖があるのは……密着されない為?」と聞いてきた。
「その可能性が高い!お前ら、今から言う通りに動けるか?」
……
……アンはワンドを振り上げ、マルコの元へと駆けていく。
2人が杖でやり合ってる隙に、俺はシュルクを強化した。
シュルクのネギがどんどんと周りに生えていき、スタンプをかき消しながらアンとマルコを囲んでしまう。
そこに俺が炎魔法を放つと、ネギはたちまち炎の檻に変わる。
炎を警戒したマルコが結界を展開しようとした隙に彼に抱きつき、「静電気で体がくっついちゃう魔法」を放つアン。
「やった!」
「捕まえたぞ!」
俺は冷却魔法で炎を消してから「アン、無事か?」と尋ねる。アンはネギの檻から出てくると、ブイサインをしながら微笑んでみせたのだった。
……
ネギの檻から出てきたアンは、マルコに膝を貸しながら回復魔法をかける。
「はは……負けちゃった。やっぱりアンは強いや……」
アンは力なく微笑むマルコを心配そうに見つめていたので、俺は彼女の肩に手を置き「ほら、勝ったんだから話、今してみろよ。」と促した。
「……マルコ……あの、ね。私にはセクシーは無理かもしれないけど……あなたの好きなメイド服を週1着用することならできる。だから……戻ってきて欲しいの。」
アンが言い切るやいなや、マルコは「週2」と交渉を図る。彼女はそれに「分かった、週2でいい。」と返事をした。
マルコはアンの膝の上で「アン……!僕戻りたい……!また、パーティの皆と……やり直したいよ……!」と涙を流す。
アンはマルコの髪を撫で、「あなた、本当に何も考えてなかったのね……時間返しなさいよ。」と低い声で囁いた。
シュルクと俺は顔を見合せてから、笑顔で頷く。
風は、俺たちを優しく包んでいたのだった。




