P46:Aria. smile! (アリア、笑って!)【02】
◆
全く同時に撃たれたプラズマと波動エネルギーはオリバーを挟むように爆発的に光り輝く。オリバー機は瞬時に蒸発したが相殺しきれないエネルギーが互いの装甲を削り取っていった。
「ふははは! オリハルコン、死ねーー!」
◇
質量の差は大きく同じ量の装甲が削られれば先に無くなるのはオリハの方だ。コクピット全体が金切り声のような轟音と眩しい光で満たされる。
「きゃーーーーーーっ!」
ゴーグルをつけていても目が焼かれるような光の乱流の中でアリアは意識を失ってしまった。
◇◇
ふと意識を取り戻したアリア。目を開けているつもりなのに何も見えない。耳を澄ましても何も聴こえない。そこは静寂と暗闇の世界だった。
「あれ? 私……死んじゃった?」
ふとゴーグルが既に仮想世界の映像を映していないことに気づいた。その瞬間、背筋が凍る気がした。目の前には音も光も無い暗闇の世界しかない。
愛した人の姿も声もない。
「あぁ……あ、ね、ねぇ、オリハ……オリハ?」
「……」
問いかけの返事はなかった。というより何も見えず何の音も聞こえてこない。
「イヤっ! ねぇ、オリハ、オリハ! お願い、返事をして!」
アリアは叫びながら気が触れたように暴れ始めた。暗闇の中、立ちあがろうとするがシートベルトに邪魔されて立ち上がれない。
「オリハ、オリ……ぐっ! 押さえつけるな……」
つんのめるように無理矢理立ち上がろうとするとヘルメットが顔の方にズレてしまった。
「むぐぐっ、そうかシートベルトと……ヘルメットだ!」
顎紐を両手で外そうとするが視界が塞がっているのでなかなか外れない。何度か試すといきなりパチンと顎紐が外れた。
「外れた! このっ……えっ? ぎゃっ!」
ヘルメットがゴーグルごと外れ落ちると、刹那に暗闇と静寂の世界は消え去り、光と轟音の奔流に放り出された。そこは未だ混沌そのものの現実世界だ。
そして、その世界にオリハは未だ存在していた。
「オリハ……」
アラームが鳴り響き、強烈な振動がコクピット自体を揺らしている。全天周囲モニターの半数程はノイズ混じりでまともに映像を映していない。
そして目の前には人がなんとか隠れるくらいの小さな壁が築かれていた。
「アッ、ありあ……起キタ?」
「……うん」
オリハはマジックハンドや触手を総動員してコクピットの中に光や熱から護るための壁を作っていた。
理論的じゃない、何の意味もない、刹那の時間さえ稼げないだろう壁。
「Good morning.(おはよう)」
ナンシーが優しい声をかけてくれた。全天周囲モニターの中を飛び廻りノイズの混じるモニターを一枚ずつ修復していた。しかし、修復する速度より壊れていく速度のほうが早く、表情が時折涙顔になっていた。
「オリハ、ナンシーさん……ありがと……ホントにありがとね……」
最大限にニッコリ笑顔を作ったつもりだったが瞳からは涙が溢れていた。
「イヤ、モウ限界ダ……スマナイ……」
「sorry……(ごめんなさい)」
二人の音声にも既にノイズが混じっている。それでも状況を少しでも良くするために飛び回る親友。アリアを護る為に今も触手を生成して壁を増やしてくれる愛しい人。
アリアはゆっくりと首を振った。
「ううん。ナンシーさん、もういいよ……もういいの。ナンシーさん、ありがとう。オリハもありがとう」
「Aria……」
「ありあ……」
ナンシーは一度だけ頷くとCGで作られたベッドに入っていく。すると『Don't disturb(起こさないで)』と書かれた札がかかりスリープするという演出が映し出された。あまりの丁寧さに思わず微笑むアリア。
「オリハ、手を握って」
笑顔のままで両手を伸ばすと壁の一部が剥がれてマジックハンドの形を作るとそのままアリアの両手と重なった。
「安心して。私、ここで死んでも幸せよ」
「俺モダ。一緒ニ消エル約束ダケハ果タセルナ」
「んふふ……」
コクピットの壁一枚外は超高温のプラズマの嵐が吹き荒れる正に死の世界だった。今は電磁装甲のお陰で何とか熱を遮断できているがオリハの判断はおそらく正しい。そう長くは保たないだろう。
もはや消えゆく二人、でも二人一緒なら怖くはない。二人の想いは同じだった。
「オリハ、あなたを永遠に愛します」
「ありあ、俺モ永遠ニ、オマエヲ愛シテル」
二人が永遠の愛を誓い合った時、あの短いブザー音が鳴った。
「mission compleet.(ミッション完了)」
「あら、ナンシーさん? んふふ、仲人さんをしてくれるの?」
「アッ……」
ノイズ混じりの全天周囲モニターにいつの間にかナンシーが現れていた。それを見て涙声で冗談を言うアリア。見れば真っ白なドレスを着てフワフワ浮いているので何となく天使を思い起こされる。
ここでオリハは何かに気づいたようだった。
「I detected True-love. (真実の愛を検知)」
「ヤハリ……」
「えっ?」
事務的な音声のナンシーを感慨深い表情で見つめるちびキャラ。
「なんしーニハ使命ヲ与エテイタ。真実ノ愛ヲ確認シタラ教エテクレト」
「あら……最後にロマンティックなのね」
「アァ。我ナガラ洒落テルト思ウ」
そのままナンシーを二人で見つめていた。両目を閉じて穏やかな表情で浮いている天使さながらのAI。しかし、何故かアリアは胸騒ぎが止まらない。
「ナンシーさん? 大丈夫?」
声をかけると瞼は上がったが涙がポロポロと溢れてきた。優しく微笑んでいるのがまた悲しい。
(まぁ……もう消えちゃうとなれば……そりゃ悲しいか……)
「good bye. my master and Aria.(さようなら。ご主人様とアリア)」
ここでナンシーが別れを口にした。
「ナンシーさん、ありが――」
「――マダ早イ」
アリアも最期の挨拶を返そうとするが、オリハは不機嫌そうに機械音声を上げた。
「消エテモ良イカトモ思ッタケド……ヤッパリ足掻クコトニスル」
「えっ?」
もう静かに最期を迎えるだけだと思っていたアリアは少しびっくりしていた。
「でも……どうするの?」
「ナンカ……二人トモ諦メテルノガ癪ニ触ル。みすりるニ負ケッパナシモ腹ガ立ツ」
「……」
コンソールの中だけで小さくシミュレーションを始めたオリハ。生きる事への諦めがついたことで逆に一矢報いることを考え始めたようだ。
(なんか、やっぱり男の子なんだよな……)
一旦全てを諦めていたがアリアも何かできることを考え始めた。
「あっ、カミナさんやロイドさんに逃げてって言わないと!」
ヘッドセットを片手に無線のスイッチを入れるアリア。しかし何も反応は無かった。
「あれ……壊れちゃった?」
もしかしたらアリア達以外は先に全員死んだのかもしれない。そんな可能性が頭の中を過ぎると見知った人達の記憶が一斉に蘇った。刹那に溢れる寂しさは瞳から涙を溢れさせる。
「皆んなと同じ所に行くのかな……」
思わず諦めを口にすると、またもあのブザー音がなった。
「use my energy.(私のエネルギーを使ってください)」
「ソレハだめ。倒シテモ逃ゲラレナイ」
「えっ?」
意味の分からない会話に困惑するアリア。ナンシーはその回答を予測していたと言わんばかりに首を横に振っている。
「No……My master. You are liar. White liar.(いいえ……ご主人様、あなたは嘘つきよ。優しい嘘つき)」
「なんしー、モウ良イ! 何ヲ言ッテモ、ソレハ駄目ダ!」
今まで見たことがない程に感情を爆発させるオリハ。激昂と言っていい。
「黙ッテ俺ノ作戦ニ従エ!」
「No! With your junk plan, we will sure to lose!(いいえ! あなたのポンコツ計画じゃあ負け確よ!)」
「言ッタナ! ソレデモますたーハ俺ダ。ますたーの指示ハ絶対ダ!」
ナンシーも機械音声を荒げるがオリハは更に乱暴な口調で返してナンシーを無理矢理にでも止めようとしている。
「ナンシーさん、オリハも落ち着いて。最期の時間で喧嘩しちゃダメよ」
アリアには負けるのを待つだけの状況に苛立ち互いに罵り合っているように聴こえた。コンソールやモニターにはシミュレーション結果が無数に表示されるが全て赤BADだった。
それでも手は止まらない。オリハは本当に諦めていないらしい。
「ドウスル……ドウスル……モット考エロ……」
ここでシミュレーションに渡す入力値を見直す為に現状を確認し始めるオリハ。
「あっ……腕も……脚も……」
既にBMの両肘から先はプラズマの跳ね返りによる高温で溶けて無くなっている。両脚も相殺しきれなかった波動エネルギーを受けて膝から先は砕け散っていた。巨大なマジックハンドも既に溶けて無くなっていた。辛うじて重力制御を使って空中戦艦と対峙している。
そんな絶望的な状況だけがアリアにも理解できた。それを見て憤るオリハ。
「コレジャア……クソ……クソッ!」
「please use my energy! (どうか、私のエネルギーを使ってください!)」
焦るオリハにナンシーが再度提案した。それを聞いてコンソールの中のちびキャラが全天周囲モニターに映るナンシーの横に飛んで行った。睨み合う二人のAI。オリハが腕を振ると一瞬でナンシーは鎖に拘束された。
「言ウ事ヲ聞ケ。なんしー、オ前ニ機体制御ヲ任セル。今カラ俺ノぺるそなヲ使ッテ戦艦ヲ墜トス」
「negative!(拒否する!)」
それでもオリハから視線を外さず睨みつけるナンシー。正に一触即発だ。
「えっ、ちょっと喧嘩はやめて。落ち着いてよ二人とも。そんな悲しい事ばかり……えっ、ペルソナ?」
アリアは二人がそんなに歪み合う理由は分からなかった。本当に最期なら皆で笑っていたい。そう説得しようと話し始めたところでペルソナという言葉が引っかかった。
「ペルソナって……」
アリアが呟くとオリハから明らかに『しまった』という表情が漏れ出ていた。背後を向いてしまうちびキャラ。ナンシーも俯いて視線を合わせてくれない。
「ありあ、俺ノ言ウ事ヲ黙ッテ聞イテクレ……」
「ペルソナって何よ?」
「……」
アリアはオリハを睨みつけるが視線を合わせてくれないし返事もない。しかしナンシーは鎖に巻かれたままアリアをじっと見つめていた。
「Persona is our core. so……our soul. (ペルソナは私達のコア。そうよ、私達の魂のこと)」
「ちょっ……コアとかソウルって……魂?」
焦ってナンシーの方を睨むオリハだったが時既に遅し。オリハはまた俯くことしかできなかった。
「Yes. If released, a tremendous amount of energy would be unleashed.(そう。解放すれば、莫大なエネルギーが放出される)」
ここでアリアは二人が何を言い争っているのか理解した。自らの命を代償に残りの二人を助けようとしていたのだと。
「オリハ? えっ、ナンシーさんも? あなた達……」
「ありあ、聞イテクレ。モウ、コレシカナイ――」
「――勝手に一人で決めて、勝手に助けられて喜ぶと思ってんの? 私を見くびるなー!」
アリアの涙ながらの激昂。あまりに哀しい怒り。
「オ願イダ。二人トモ俺ノ言ウ事ヲ聞イテクレ」
「うるさい、このバカ、何で両方とも自分が消えれば良いなんて……バカバカバカ、何でよー!」
「My master. This is my final request. please use my persona.(ご主人様、これが最期のお願いです。私のペルソナを使ってください)」
「駄目ダ!」
ナンシーは変わらず自らのペルソナを使えと訴え続け、アリアは混乱して泣きながら声を荒げるばかりだ。メインエネルギーを示すインジケーターは既にエネルギー切れ寸前のアラートが表示されている。
「なんしー、俺ノ指示ニ従エ」
「negative. use my persona. (いいえ。私のペルソナを使いなさい)」
「だめダ。ありあヲ護レ」
「ダメだよナンシーさん! だからってオリハもダメ!」
「ありあ、コレシカナイ。言ウ事ヲ聞イテクレ」
思いの外に強情なナンシー。焦るオリハは一旦放置することにしてノイズ混じりの全天周囲モニターからコンソールに向かって飛んで行った。シミュレーション結果には灰色のunknown表示が映し出されていた。
「コノぷらんガ限界……ダナ」
まずアリアの方を説得することにしたらしく、コンソールの中からじっと見つめる。
「ありあ、最期ノ作戦ダ。ハイ、カ、イイエ、選ンデクレ」
コンソールにはペルソナ退避モードの時に表示されていた『are you ready? Yes or No』の表示があった。
「こんなの……選べるわけがないよ」
「ドウセ消エルナラ、最期ノちゃんすニ賭ケタイ。全テ上手クイケバ俺モ助カル」
「……そうなの?」
アリアはオリハをじっと見つめていた。今の『俺も助かる』が嘘か本当かを見極めるつもりだった。しかし、ふと心に、どうせ死ぬなら、という諦めが過った所でオリハのセリフが嘘でも本当でも、何かどうでも良くなってしまった。
「どうせ…………そうね……はい、で良いわ……」
俯いたままコンソールに指を伸ばした。中指でYesに触れると一瞬だけ大量の文字が流れていった。それを確認すると満足そうにオリハは頷いた。
「ヨシ、作戦ヲ伝エル。なんしーモ良ク聞イテクレ」
「……うん」
俯くアリア。ここでナンシーの方を向くオリハ。この状況を打破するにはナンシーの協力が絶対に必要だ。
「なんしー、モウ時間ガナイ。オ前ダケガ頼リナンダ。操縦ハ任セタゾ」
「……」
いつの間にか今迄の強情さは鳴りを潜め静かに俯くだけのナンシー。アリアが諦めたのを見て思いを変えたのだろう、そう判断したオリハ。
「なんしー……」
結局はナンシーにアリアを託すしかない。自らは先に消えて、二人の生存は二人に任せる。そう決めてしまうのは無責任にも思えたが、オリハのシミュレーションでは一番生存確率が高かった。
ここからのナンシーの負担に思いを馳せると逆に可哀想にも思えた。
(シカシ……モウ、コレシカナイ)
「オマエニ全テヲ託スゾ」
「……use my persona.(……私のペルソナを使って)」
ここで否定するとは流石に想定外。
もはや駄々っ子のような我儘に付き合って議論している時間はもう無い。暫く顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
「アーッ、五月蝿イ! モウ時間モナイ! なんしー、オマエニありあヲ任セ――」
「――king's game. king say first.(王様ゲーム。王様の言うことは絶対)」
一瞬何を言われたか分からず言葉に詰まるオリハ。意味を理解すると血の気が引いていく。その言葉はミッションクリア報酬のキーワード、その効果は一度きりの絶対権限行使だった。
「ココデ……ココデ、ソレカーー!」
既にパイロットの承認も得ているタイミングだ。もはやナンシーの行動を止める手段はない。
「……ん? どうしたの?」
「master……sorry.use my persona.(ご主人様、ごめんなさい。私のペルソナを使ってください)」
半諦め状態だったアリアに今のやり取りの意味は分からない。しかしナンシーの指示が強制的に通ってしまうと、既に操縦士の承認も得ていたので即時実行された。
「あれ? エネルギー……増えてくよ?」
素朴なアリアの疑問に二人は答えない。
膨大なAIを維持するためのエネルギーを返す、それは自らの命を使って二人を護るということと同意。ナンシーの姿が徐々に薄れていく。それを代償にしたかのように画面に映る全てのインジケーターがゆっくりと上がっていった。
「馬鹿ガ……オマエガ犠牲ニナル必要ナンテ……」
「sorry……」
本物の天使のように微笑むナンシー。ここでアリアも気づいた、ナンシーが何らかの方法で自らのペルソナをエネルギーに変換し始めたことを。
「えっ? ナンシーさん、そんなのダメだよ! オリハ、やめさせ……ぎゃっ!」
腰を浮かして意見しようとするが揺れが酷くなってまたシートに座り直してしまう。飛行機のエアポケット並みの揺れにアリアも慌ててベルトを装着し直した。
「無理ダ」
オリハの呟きは一言だけ。それ以外に既に何もできる事はないらしく、ただ静かに俯いていた。
「えぇぇ……」
小さく呻くしかないアリア。三人とも何も喋る事はなく沈黙だけが満ちる空気。そんな気不味い中、ナンシーがまず話し始めた。
「Your plans were always perfect. I still respect you.(あなたの作戦はいつも完璧。今も尊敬しています)」
「嘘イエヨ……」
哀しい別れの言葉。
「So happy to see pair in love. So please, go on living.(愛し合う二人を見ているのはとても幸せ。だからあなた達は生きてください)」
「ダカラッテ……」
ここでナンシーはアリアの方に視線を向けて微笑んだ。
「Thank you my friend.……(ありがとう、私の友達……)」
本当の最後のお別れをしているのだと今更ながらに理解したアリア。何故か絶対に取り乱してはいけない、それがナンシーを最期に傷つけるだけになる、そう判断した。
「あっ……」
気丈な姿を見せることだけに集中するアリア。だから瞳に溢れんばかりの涙が溜まっていくが、涙を流すことだけは無いように震えながら堪えていた。
「うぐっ……な、ナンシーさん……」
「my first and last friend……(私の最初で最後の友達……)」
徐々に表示が薄くなるナンシー。コンソールの中のオリハは俯いているだけで何もしようとしない。
「あぁ……あぁっ!」
「Aria. smile! (アリア、笑って!)」
ナンシーは一度だけいつものウインクをすると、遂にゆっくりと両目は閉じられてしまった。
「あぁぁぁ……ナンシー……さん」
もう一度アリアが名前を叫んだ時、姿は完全に消えていた。
「……何よ……スマイルって……笑えるわけ……」
虚な表情で一点だけをじっと見つめていた。何が起きたか理解しないように、何も考えないことだけに集中していた。そうしないと心が壊れてしまいそうだったから。
「モウ……負ケラレナイナ」
ふと涙声にも聴こえる機械音声がアリアの耳に届いた。
(やっぱりオリハも悲しいんだ……私だって……)
今、この瞬間、二人とも悲しみに打ちひしがれている。そんな当たり前のことを今更ながらに理解した瞬間、刹那に表情が歪んで両方の瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちてきた。
「……ナンシーさ……ぐっ、なんし……おり……オリハぁ……な、何で……何でナンシーさんが……うわーーん!」
幼い子のように泣くアリア。両手で涙を拭っても、すぐにまた溢れ出してしまう。あまりの悲しさに心が押し潰されて泣くことしかできない。
「ダカラ負ケナイ……一緒ニ……一緒ニありあト生キル」
独り呟くオリハ。コンソールに映る作戦の逆転確率はunknwonから十五パーセントまで上がっていた。しかしナンシーのペルソナを使ってすら『ほぼほぼ負け確』だ。ここでオリハはコンソールの作戦表示を切った。
(俺ノ作戦ハ完璧トなんしーハ言ッテクレタ。なんしーガ言ウノナラ……ソレハ、ドンナ作戦デモ完璧ナンダ!)
コクピット前面に作られた手製の壁が崩れ始めると、眩い光がコクピット内を明るく照らした。マジックハンドがアリアの手に重なる。アリアはコンソールの中の愛しいAIに微笑んだ。そして二人は手を重ねたままトリガーを握ると同時に前を、前だけを向いた。
レティクルの先には光の塊、その更に先には空中戦艦がいる。
「な、うぐっ、なん……ナンシっ……ひぐっ……ナンシーさん……」
未だ涙が溢れ続けるアリアはマジックハンドを見つめている。それでも一度だけ俯いてからそのまま顔を上げた。
「う、ゔん、ひぐっ、ま、負け……ひぐっ、ま負けない。だ、だから、んぐっ、ぜ、絶対に……絶対に負けないで!」
「アァ。みすりる、ココデ終ワリニシヨウ」
now counting start.
(秒読み開始)
「ナンシーさん……」
オリハのイケボ。しかしナンシーが居ないことを殊更に思い起こされ、また涙が溢れ出る。
10,9,8
先ほどのカウントダウンと同じ無機質な声でカウントが進む。
main plasma generetor restart.
(プラズマ発生装置を再起動)
やはり悲しさを隠しきれないオリハのイケボが対照的だ。
7,6
カウントは進んでいく。光が集まり塊が成形されるが、その弾頭は前回の球状ではなく歪んでいて紡錘形の形をしている。弾頭がある程度大きくなったところで見えない何かに装填されていくのが分かった。
glabity gun barrel and Warhead generation ready.
(重力バレル、及び弾頭の準備完了)
5,4
We are negative stop firing.
(本フェーズを以て射撃停止不可)
アリアの真っ赤な瞳に涙はもう無かった。前だけを見てトリガーを握る手に力を込める。
「アイツらを……アイツらを……」
ここで戦艦から放出されるエネルギーが大きくなり、前回の弾頭が押されて徐々に後退するのが見えた。しかし構わず前だけを見る二人。
3,2,1
We have the green-light.
(撃てます)
オリハの最後のアナウンス。そして迷いなくトリガーを引き絞る二人。
「吹き飛ばせーー!」「Fireeeeee!」
二人の叫びと共に新しく作られた光の塊は中空に浮いていた前の弾頭に突き刺さった。二つは融合して、より大きな紡錘形を形作ると一気に波動エネルギーを切り裂き空中戦艦に向かって飛んでいく。
そして光の塊は遂に巨大な空中戦艦を貫いた。




