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P45:Aria. smile! (アリア、笑って!)【01】

◇



 空中戦艦は見た目の通り普通の船に近い材質や構造の箇所も多かったが、機関部や艦橋は何故か攻撃が殆ど通らなかった。オリハを捕まえているマジックハンドも例外ではなく、ふざけた格好だが粒子ビームの直撃でも傷一つつかない。


『――もう会いたくなかったよ!』


 艦首の装甲が外れると巨大な砲塔が見えた。光の粒子が溜まり始めており凶悪なエネルギーを感じる。

 それを見てコンソールの中でため息を吐くちびキャラ。


「コッチノ台詞ダ、マッタク……ナラ、コチラモヤルカ」

「どうするの?」


 ニヤリと笑う。その笑い顔には何故か少しだけ得体の知れない恐怖を感じた、まるで初めて会った時の様に。


「決マッテイル。起動式ヲ発動!」


 ここでゴーグルが自動でアリアの視界を塞ぐ。しかし一瞬の違和感を感じる暇もなく超高精度の映像がアリアの視界を百パーセント奪った。


「オリハ……私も覚悟を決めたわ。よし、やっちゃえー!」


 アリアが檄を合図に八頭身モデル体型のオリハが目の前に現れてアリアの手を取り軽く口づけする。


「ひっ!」


 突然の過激なファンサに驚いて固まっているとウインクひとつ残して目の前でライブが始まった。ダンスに目を奪われているうちに流れてくる、いつものイケてる流暢なイケボが自らの選択を後押しする。


engage enemy now.

(現在、交戦中)

detect huge energe.

(巨大エネルギーを検知)

move to counter attack sequence.

(反撃態勢に移行する)

target lock.

(目標を固定)

Extermination mode change ARMAGEDDON.

(殲滅モード『ハルマゲドン』に移行)

are you ready?

(準備を確認する)


『――ば、バカな!』


 ここで無線の中のミスリルが最初に反応した。


『――貴様! この船の制御には、乗艦する二千百七十人の生きた依代(よりしろ)で二年かかったのだ! なのに……なのにハルマゲドンモードだと! 精神感応者を万単位で生贄にでもしたか、オリハルコン!』

「ソンナ物騒ナコト、ハ、シナイ。一人ダケダ」


(一(・)人(・)って私よね……)


 あまりに自信ありげな「一人」という単語。あたかもプロポーズされたように心が躍る。反対に焦る宿敵の声が大変心地良い。


『――な、何を依代にしたら、そんなにエナジーを貯められるというんだ!』

「みすりる、間違ッテルンダヨ。俺ハ依代トノ関係性ガ重要ト気付ケタンダ」


(関係性ってカレカノってこと? もしかして……こ、婚約者? いやーん、照れるー! 恥ずかしー!)


 もはや告白を皆に聞いてもらっているようなものだ。何となく結婚式ってこんなのかな、と想像するとヨダレが垂れてきそうになるほど顔がニヤける。


『――まさか、伝説の生き神(イキ神)か! 貴様、伝説の『性的な意味の絶頂』を見つけたのかー!』

「ハハハ、今更ニ気付イテモ遅イゾ」

「えっ? 急な下ネタ……って……えっ?」


(もしかして私……イキやすいからこ(・)の(・)世(・)界(・)に呼ばれたの? っていうか皆さん無線で聴いているのよね?)


 彼氏が明け透けに夜の生活を告白しているショート動画を偶然見つけたように思えた。


(まぁ、そんな経験無いんですけどね!)


 皆から揶揄われる様を想像すると正直恥ずかしさより、焦り、悲しみ、そして怒りを感じた。


『――な、何回イッタというんだー!』

「七十九回、俺達ノ……俺達ノ絆ノ回数ダ!」

「ちょっと! 人様の夜の……じゃなくて、セッ……じゃない! プ、プライベートの具体的な回数をバラすなー!」


 沈黙が、誰も何も語り出さない時間があまりにも痛くて気不味い。無線越しの沈黙は空気が凍ったかのように冷たく感じる数秒間。


『――こうなれば、お前達を今、必ずここで葬る!』


 この会話を打ち切ってくれたミスリルに一瞬だけ感謝しかける、が残っている砲塔全てがマジックハンドに捕まっているオリハの方を向いた。

 圧倒的な殺意に気を失いそうになるアリア。


(急にこっち見んな! うぅっ、また少しおしっこ漏れちゃったじゃないの!)


 一人でプンスカしながら顔を赤くしているとオリハのイケボが聴こえてきた。


are you ready?

(準備は良いか?)


「はぁ?」


 キレてやろうと睨みつけるが、いつも余裕綽々の八頭身イケメンが焦っていた。初めて見る表情で急速に不安感が倍増する。ここで強烈な恐怖感がアリアを襲った。


「そっか……よく分かんないけど……あなたの元仲間と戦っているのよね……」


 不安な声が漏れると、心もイケメンのオリハがウインクを返してくれた。しかし、その中にも隠しきれない動揺を見つけてしまう。


(そんなにヤバい敵なのかな……)


 いつもの空気との違いに思いっきり動揺していた。死への恐怖は絶望の感情と混ざり合って染み出してくる。


(分かんなくなってきた……オリハもいつもと違うし)


 相対(あいたい)する宿敵とはオリハ(彼氏)の因縁も相当に深いらしい。ピリつく空気に複数の感情の糸が絡まってアリアは声一つ上げられない。もはや指一本満足に動かせなくなってきた。


(ダメ……もう何も分からない……どうしたら……)


 息が荒くなり、視界が暗くなる。既に失神寸前だった。


「……リア、アリア! 空中戦艦(バンディット・ワン)ヲ墜トスゾ!」


 オリハの必死の叫びで我に帰るアリア。


「えっ? あれ……オリハ……えっ? お、墜とす?」

「ソウダ。モウ選択肢ハ他ニナイ!」


 ふと司令室を覗き見していた時の驚く人々の顔が思い浮かぶ。


「あの……あの戦艦に乗っている人達は――」

「――確実ニ全員死ヌ。モウ助ケル手段モ時間モナイ! 戦ウカ、自分ガ死ヌカ、選ブシカナイ」

「そんな……私に選べるわけ……」


 自分が『Yes』と言うだけで大勢の人達が死んでいく。それは引き金を引くのと同じ。


(私達の命と敵の皆さんの命……そんなもの……選べる人なんているの? でも、でも……でもっ!)


「ハイ、カ、イイエ、ドチラカを選ンデクレ。共ニ生キタケレバ『ハイ』、ココデ終ワルナラ『イイエ』ダ!」


 あまりに酷な二択。アリアの瞳からは涙が溢れ出し、ゴーグルの隙間からポロポロと零れ落ちる。ゴーグルを上げて右手の袖で一拭きした。


「うぐっ……そんなの卑怯、卑怯よ! うぅ……で、でも、私は……私はあなたとまだ旅を続けたい……まだ一緒に歩いていたい。あなたと……オリハ! あなたとよ。共に、共に生きたいの!」

「アリア……」


 ここでゴーグルをもう一度はめなおすとVRの世界ではオリハが心配そうに顔を寄せていた。無理矢理に微笑んでからオリハの頬にキスをするアリア。


「だから、はい! はいだよ! Yes! オリハ、私たちを邪魔するヤツを吹き飛ばせーーっ!」

「契約ハ成立シタ!」


 華麗なダンスもない。ただ横でアリアの手を握るオリハ。ここでゴーグルを少しずらしていつもの触手がアリアの右手に重なっているのを確認する。


「ねたばれ、禁止ダヨ」

「んふふ、ごめんね!」


 いつものオリハ。もう迷わない。二人で目の前の巨大な敵を見据える。


ok.

(了解)

the order has been approved.

(指令を承認する)

mode change ARMAGEDDON now.

(『ハルマゲドン』移行中)


 見たことのないメーターに見たことのないグラフが表示されていく。見たことのない文字も画面を物凄い速度で流れている。キョロキョロしていると、またあの短いブザー音がなった。


「WARNING. many people in town on shooting line.(警告。射線上の街に多数の民間人を確認)」


 ナンシーの緊急連絡にオリハは若干渋い顔。しかしアリアには意味が分からない。


「どういうこと?」


 ナンシーの方を見て小首を傾げると教師っぽい格好に変化した。自慢げに全天周囲モニターへ映し出された白板を指示棒で叩いている。


「Pay attention!(はい、注目!)」


 背筋を伸ばして素直に注目すると、今から放とうとする攻撃の想定射線上には数キロ先のニューベイの街が含まれていることを伝える映像が映し出された。


「もしかして……ここからニューベイに届いちゃうの?」

「すぺしゃるナ攻撃ダカラネ! ダッタラ……」


 隣でしゃがみ込んでいる八頭身オリハ。片手を握ったまま指を鳴らして決め顔をするイケメンっぷり。しかし、口(スピーカー)から聴こえてきたのは意味不明な作戦だった。


Recommend Plan1. lift battleship for change line.

(作戦1を推奨する。戦艦を持ち上げて射線を変更)



◆



「か、艦長! 何が起きてるんですか?」


 突如として前面ガラスに見えていた丘や地面が迫り上がってきた。目の前に映る風景から空が無くなり地面に変わっていく。


「お、落ちている……のか? あれ?」


 衝撃や落下感は全く無い。机の上のドリンクホルダーに置かれたコーヒーは全く溢れていない。ここで横を見たクルーの一人がへたり込んだ。


「か、傾いています! 艦尾が持ち上げられて……け、傾斜は四十度を超えています!」

「な、何が起きているんだ……」


 得体の知れない事態に怯えるクルー達。しかしミスリルだけはニヤリと微笑んでいた。


「オリハルコン、お前も重力制御をモノにしていたか」


 それを聞いていたアンドレアが腰を抜かしたようにへたり込んだ。


「二百七十メートルの巡洋艦を……そんな。あ、あのBM一機で持ち上げているって言うんですか?」

「安心しろ。重力制御のパワーなら負けん。このままぶん投げられてもダメージなど受けんよ……浅はかだな、オリハルコン!」


 もはや周りのクルーにもアンドレアにも全く理解のできない領域だった。


「アンドレア君、トリガーを握りたまえ。あと六十秒で全てを終わらせるぞ。当てろよ」

「は、ははい!」


 どうにか起き上がってから言われるがままに見たこともないトリガーを握るアンドレア。すると横ではミスリルが笑っていた。


「あはははは。標的は目の前だ。これでは外しようが無いなぁ。あははは!」


 ミスリルの表情に狂気を感じる。震えが止まらない中でモニター越しの敵BMを見る。しかし、そこにいる存在も、また人智から外れたものに思えた。


「こ……こいつら……何なのよ……」



◆



 先程までは二基四門の主砲に副砲と対空砲の設置された如何にも巡洋艦といった風情で、船体下部に一基二門の副砲が逆さまについていることと、宙に浮いていること以外は普通の海上艦に見えなくもなかった。

 だからこそ、カミナも壊せそうな箇所に粒子ビームを撃ちまくっていた。


「どうなってんだ……」

『――あぁ……何というか……』


 スピーカーから聞こえるロイドも口を濁している。攻撃して破壊すればするほど異質な姿を現す空中戦艦(バンディットワン)。その姿はもはや完全にスペースオペラ(SF小説)に出てくる宇宙船だ。


「何というか……で、コレはアイツら(アリアとオリハ)がやってんのか?」


 そのピカピカのスペースシップを釣竿にしてBMが釣りでもしているように艦尾を上げて四十度ほど傾いている。そのまま一機と一隻は風船のように空に上がっていく。

 もはや高度は二百メートルは超えているだろう。


『――信じられん……』


 バカみたいなマジックハンドに捕まっているBM(オリハ)。しかし、今までの会話を聞く限りそれ(空中戦艦)を持ち上げているのもBM(オリハ)らしい。


「ロイド、どうする? 『みんなの姪っ子(アリア)』と『風変わりな彼氏(オリハ)』の交際が順調だってことも分かったが、どう助ける?」


 部隊全員が図らずとも『オリハとミスリルの因縁めいたセリフ』からアリアが可哀想になるほどの『恥ずかしい報告』までしっかり聞いていた。それ故に皆があたかも身内のように感じていた。


『――あぁ……しかし、何だ……夢物語としか思えん……』

「ははは。よし、まずヤリ過ぎは注意しなきゃな! さっさと終わらせてあの二人を尋問しよう!」


 未来ある若者二人に(性的な)トラウマを植え付けようとしているカミナ。流石に二人を不憫に思うロイド。


『――カミナ、程々に頼むぞ。ヒーローを家出させるわけにはいかんだろ』

「全くだ! あっ、ヤバい! ロイド、今度は変な砲塔が動いてる!」

『――分かった。カミナ、ま(・)だ(・)突っ込むなよ。全機、射程の長い武器を持っている奴らは狙える武装を集中して攻撃しろ。オリハを撃たせるな! 射撃継続。Fire! Fire!』


 しかし、どれだけ射撃を繰り返しても空中戦艦(バンディットワン)を沈めることはできなかった。船体構造物の幾つかは破壊できたが、バイタルゾーン(重要区域)までは明らかにダメージを通せていない。


「どうなってんだ……」


 斜めになった船体を破壊すればするほど中から光り輝く装甲が現れた。異形の空中戦艦はBM一機を連れて更に高度を上げていく。



◆



「通常兵器は全てダウン。幸いなことに高度が上がっているので地上からの砲撃は減っています」


 時折ガラスや金属が削れる不快な音が響く。しかし慣れたものでパニックになる者は既にいなかった。


「クソッ、雑魚どもめ。まだ諦めてなかったのか」


 装甲が剥がれて現れた一回り小さい船体は艦首にかけてスリムになっており、逆に艦尾にはジェットノズルのような構造が姿を現していた。


「まるで蚊蜻蛉だな。鬱陶しい……が、まぁ良い」


 高度を上げるまでに全武装が破壊されたが逆に見たこともない新たな兵器が現れていた。そして艦首の砲口からは見るからにヤバそうな光の塊が顔を見せていた。


「オリハルコン共々、波動砲で吹き飛ばしてやる。あはは、船体が水平になったら新武装(パルスレーザー)のお披露目だ。生き残りを綺麗さっぱり破壊し尽くしてやろう。アンドレア君、準備は良いか?」

「は、はい!」

「ではカウント開始三十秒から! いくぞ!」

「はいっ!」



◇



Plan1 success! shooting line clear.

(作戦1成功。射線クリア)

mode change ARMAGEDDON complete.

(モード『ハルマゲドン』移行完了)


「モードチェンジ終わったの?」

「アァ。コレカラ武器ノ準備〜」

「えぇぇ……間に合うの〜」


 アリアが不安そうに目の前の砲口を見つめていると、横で握る手に力を増してくれた。横顔をそっと眺める。気付いてくれて目を合わせてくれた。微笑んであげると微笑み返してくれる。


「イクゼ……」


 覚悟を一人呟くオリハ。次第に視線は目の前の宿敵に移っていく。表情は徐々に険しくなり、憤怒の形相を超えて、まるで悲哀を浮かべているようだ。


「ねえ、オリハ……」

「ナニ?」


 その表情がまた柔和なものに戻った。アリアは目を瞑って頭を数回横に振ると気合を入れた。


(私には勿体無いくらいのAI(彼氏)よね……だから、もう離れない。離れてあげない!)


「勝とう! 絶対に勝とうよ!」

「アァ。モチロン!」


Next. weapon level set maximum over kill.

(武装レベルは極大無制限を設定)


HEAVY-PLASMA-CANNON ready to 30sec.

(重プラズマ砲、発射準備に三十秒)


 隣で歌うように言葉を紡ぐ大事な存在の横顔を見つめてから重なる右手を強く、強く握り返した。


「now counting start.(秒読み開始)」


 ナンシーがカウントダウン開始を宣言すると、更に無機質な音声でカウントが始まった。


30,29,28,27


「main plasma generetor ignition.(プラズマ発生装置を起動)」


 ナンシーの落ち着いたアナウンスに続いてコクピット全体が振動し始める。するとバスケットボールのパスでもするように両腕を伸ばしていくのがコクピット内のモニターに映っていた。

 その手の中に眩いばかりの光の塊が作られていく。



◆



 艦橋内でそれぞれのクルーが見慣れぬ計器に困惑しながら元の配置についていた。そんな中、突然にけたたましくアラームが鳴った。


「あっ、し正面に異常な熱源感知。えっと……な、七十二万度の熱源?」

「太陽フレアの温度か! そんなもの地上に存在するわけないだろ! センサーの故障に決まってる!」


 クルーの一人が報告を上げたが即座にアンドレアが否定する。しかし、その横ではミスリルが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「ですよね、艦長?」

「オリハルコンめ……ならばどちらが消え去るか勝負だ!」


 そのセリフに、艦橋内のクルー達全員が『センサーは故障していない』ことを理解した。



◇



26,25,24,23


「glabity gun barrel ready.(重力バレルの準備完了)」

「ありあ、準備イイカ?」

「うん。オリハ、あなたと生きる為に私は戦う!」


 オリハの左手とアリアの右手は互いに強く握り合っている。でも、もう不安げな表情を互いに探ったりしない。二人は真っ直ぐ前だけを見つめている。



◆



「十四、十三、アンドレア君、用意いいな?」

「な……なにぶん初めてで……」

「引くだけで良い。バカでもできる! あははは!」


 呆然とするアンドレアの不安を心底バカにするような口調で遮るミスリル。


「は、はい……」

「オリハルコン、お前をここで倒す!」


 ミスリルは目の前の宿敵だけを見つめて、正しく口角泡を飛ばして叫んでいた。逆にアンドレアは一度だけミスリルを見た後、自らの握るトリガーだけに視線を落としていた。



◇



22,21,20,19


「Warhead generation complet.(弾頭の生成完了)」

「ちょ……眩し……過ぎて……」


 両手の中の光の塊は輝きを増している。もはや太陽を見つめているようで標的を直視できない。構わずカウントは進むので焦るアリアと元より余裕のないオリハ。


18,17,16,15,14


「ちょっと、ねぇ!」

「anti flush ready.(閃光防御の準備完了)」


 ここでサングラスでもかけたように辺りが暗くなった。


「あら、ありがとう!」


 ナンシーがウインクするとハートマークが一つ現れてシャボン玉のように爆ぜて消えた。三人ともそれぞれに余裕のない中、ナンシーの心遣いを感じたアリア。


「ナンシーさんも、みんなで勝つよ!」

「Yes! (はい!)」


 それは短く、強く、頼もしい機械音声(マシンボイス)だった。


13,12,11,10


「You are negative stop firing.(本フェーズを以て射撃停止不可)」

「頼ンダゾ」


 余裕なく呟くオリハ。真っ直ぐ前だけを見つめながら頷くアリア。


「空中戦艦(バンディットワン)……私は、もう、迷わない! ターゲット、レティクルイン。セーフティ解除!」


9,8,7


『――やらすかよ! 俺の理想郷をーー、やらせるかーー!』


 ここでオリバーの声が無線に乗って聴こえてきた。最新の大型BMが前方から突っ込んでくる。



◆



「よし、勝ったぞ! カウント、三、二、一……」


 戦艦の艦首の砲塔が激しく光り始める。


「ゼロ!」


 しかし何も起こらない。ミスリルが慌ててアンドレアに振り向くと、トリガーを見つめたまま呆然としていてカウントダウンが終わったことに気付く素振りはなかった。


「なぜ撃たん。そこを早くどけーー!」


 ミスリルはアンドレアを蹴り飛ばすとトリガーを自分で握って照準に映る宿敵を睨みつけた。


「ここまでだ、オリハルコン!」



◇



 モニター上はグラフやメーターが忙しなく動いていたが全てが所定の位置で安定し始めた。無機質なカウントダウンも最終段階に到達した。


6,5,4


 照準の中に巨大な船体の正面を捕らえていた。その横を抜けて自ら照準のど真ん中に飛来する異形な大型BM。刹那に握られた手へ再度力が込められたのを感じた。

 正面から視線を外さず互いに頷き合う。


「ありあ……頼ム」

「オリバーさん……さようなら」


3,2,1


 遂にナンシーは発射シーケンスの最後をアナウンスした。


「you have the green-light.(撃てます)」



◆



 空中戦艦の艦橋ではアンドレアは蹴り倒されてへたり込んでいた。震えながらじっとミスリルを見つめることしかできない。

 そんな中、大声で笑いながら一人引き金を引くミスリル。


「うははは! オリハルコン、死ねぃ! ファイヤーー!」



◆



 孤独なコクピットには狂気の宿るオリバーがブツブツと独り言を呟きながら座っている。真正面からぶつけるようにビームサーベルを構えて空中を駆け抜けてくる。


「終わりだアリア。好きだよアリア。地獄で愛し合おうアリア。だから……だから墜ちろーー!」



◇



 真っ直ぐ前を見る三人。それぞれの瞳には希望と未来しか見えていない。


「ダ(・)メ(・)ン(・)ズ(・)元(・)彼(・)も今(・)彼(・)の(・)宿(・)敵(・)も……邪魔するなら」

「ミスリル、モウ終ワロウ。過去ノ因縁ト共ニ消エサレ!」

「The enemies of my master and my friends will disappear! (ご主人様と親友の敵は消え去るが良い!)」


 それぞれが口々に最後の文句を叫ぶ。そして一瞬の沈黙の後。


「吹き飛べーーっ!」「アタレーーッ!」「Fireee!」


 同時に叫び、そしてアリアはトリガーを引き絞っていた。

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