P44:騎兵隊の到着です【03】
「The cavalry has arrived.(騎兵隊の到着です)」
「えっ?」「遅ーイ!」
刹那の期待の間。するとオリバー機のライフルが突然に爆発した。
『――何だと?』
驚くオリバーの声に続くのは無線に入る馴染みのある声の数々。
『――させるかよ!』
『――おうよっ! ノミみたいに跳ねてるBMから片付けるぞ』
『――アリア、アリア無事か? いま助ける』
直後に次々と破壊されていく無人機。アリアとオリハに近づく間もなく瓦礫と化していく。
「カミナさん、ロイドさん。それに他の皆さんも!」
四方八方から空中戦艦を取り囲む百機以上のBM。それこそワイルド・スカンク所属で馴染みのある機体も見えたが、半数以上は見たことのない機体だった。
軍やニューベイ防衛隊、良く見ると盗賊団までこの場に集まっている。
『――アリア! 久しいな。パティオだ』
モニターに小さくカメラ映像が映ると、そこにはアイドルの様な顔が笑顔を決めていた。
「うわっ、男前パティオさんだ! その変なゴツいBM、見たことあるー!」
『――ははは。ハードフーリッシュ改めプリンシパルさ!』
「センス……」
嬉し涙を流しながらディスるアリア。
『――グハハハ! シン・バイパー団見参。盗賊は足を洗って今はニューベイ防衛隊だぜ!』
「えっ? それはイヤ……」
『――おいおい……お嬢ちゃん、俺達コロシは反対してた穏健派なんだ。虫のいい話かもしれんが許してくれよ……』
諦めたような感情が声に乗っている。許される訳もない、それは理解しているようだった。
『――まぁ許せねーのも仕方ねーだろうけど……』
(そんなの……そんなの無理でしょ!)
鮮烈な怒りはいつでも思い出せる。アリアにとってローズのことは生涯許せることではないだろう。感情のまま嫌味な言葉でもぶつけようと思った瞬間、コクピットの中に居るにも関わらず春に吹くような柔らかいそよ風を頬に感じた。
『ほら、皆んながアリアちゃんに協力してくれてるんだよ』
ふとローズの声が聴こえた気がした。
『ほら、今までのアリアちゃんのがんばりが、今、たった今報われたんだよ! ほら。ほら! 笑って、アリアちゃん!』
いや、アリアには確かに聴こえた。
涙が溢れる。それを隠すために俯いて深呼吸を一回。顔を上げると両手の人差し指で無理矢理口角を上げてみる。
(分かったって。ニッコリ笑顔は大事だもんね)
「じゃあ……ヨロシクです。信頼します!」
「えっ……あ、お……おうっ! し、信頼……おおうっ! 嬢ちゃん、任せとけ!」
思いがけない返事に感涙混じりの元盗賊の声を聞きながらフンスと鼻息荒く腕捲りする。それから両腕を組んでコクピットシートにふんぞり返った。
「二人だけで巨大戦艦と戦うのは心細かったけど……もう負ける気はしないわ! 皆さん、勝ちましょう!」
『――うおおおーーっ!』
上空に向けて発砲するBM達。無線からは沢山の歓声が聴こえていた。
◆
ナッシュは離れた丘に光学迷彩で隠れたまま艦橋の上にいるオリバー機をレティクルに捉えていた。
『――空中戦艦なんざ墜しちまえー!』
『――ダメだ……囲まれてる……』
オープン回線の無線からは敵味方の歓声や悲鳴、恨み言が入り乱れて聴こえてきていた。
『――クソッ! ワイルド・スカンクと裏切り者め! そんなモノ、俺が直接……』
「させるかよ」
トリガーを引き絞るナッシュ。その瞬間、オリバー機の頭部が弾け飛んだ。
「ビンゴ!」
その攻撃を合図に味方BMの銃火は激しさを増していく。
◆
『――何だと? クソッ……モニターが死んだ? 何処から……うわっ!』
オリバーの叫びが艦橋内にも木霊していた。モニターを見ると無数の弾丸がオリバー機をバラバラにしている。手足が捥げる映像と共に天井からは何かが倒れる様な重い音が響いてきた。アンドレアは慌てて無線を手に取った。
「オリバー大尉、機体を放棄しろ。格納庫にまだ新型があった筈だ。使いこなしてみろ!」
『――くそっ! また負けたのか、俺は!』
直後に艦橋全体に不快なガラスが削れる様な音が鳴り響き始めた。
「せ、戦局が不利です。撤退を具申します!」
叫ぶアンドレアの提案を無視するミスリル。表情は険しいが何を考えているか分からない。瞬き一つせずに前だけ見つめている。
「艦長……?」
さらに銃火が激しさを増し爆風と振動が強くなった。艦橋の窓は全てガラスでできている。普通なら防御力は決して高くない。今にも銃弾が飛び込んできて自分達はもはや肉塊に成り果てるしかないと思えた。
急速にパニックが広がっていく。
「た、助けて! 助け……助けてー!」
「ひぃーーーっ! 死ぬーー!」
周りの混乱ぶりにアンドレアも思わずしゃがみ込んでしまう。しかし、恐ろしい爆音や発狂しそうになる銃弾が装甲を削る音はすれど割れるガラスは一枚もなかった。
「……えっ? な、何で……何で生きてるの?」
ガラスに打ちつける弾丸の轟音が響く中、艦橋の中で皆がミスリルの方を呆然と見つめる。ここで我に返ったアンドレアは立ち上がると改めて声を上げた。
「艦長、今のうちに逃げましょう。不利です!」
「……逃げろだと?」
ここで初めて反応があったミスリルに向き直したアンドレア。
「はい! 戦略的撤退です。これは恥ずべき行為ではなく、巻き返しを図るための作戦――」
「――五月蝿い。ならばお前らは黙って見ていろ! このルミエール・デ・グロワールの、このミスリル様の真の力を!」
「か……艦長?」
ミスリルは一人中空で陶器でも作る様に粘土を捏ねるような手つきをし始めた。ニヤリと微笑むと、またも朗々と歌う様に声を上げる。
「Yo-Ho-. Yo-Ho-. I'm on it. I'll show them!(ヨーホー! ヨーホー! やってやる。見せつけてやる!)」
歩きながら歌う様にリズムに乗せて言葉を紡ぐ。
「Next. purge front armor.(続いて前面装甲をパージ)」
その瞬間、轟音と共に艦が揺れる。艦首が軽くなり艦尾が沈み込むのを感じた。
「WaveCannon energe charging.(波動砲、エネルギー充填)」
床が規則的に鈍く振動している。まるで巨大な生き物が胎動するように感じた。思わずアンドレアは息を飲んだ。
「か、艦長……ブリッジが作り変えられています。な、何が……こんな機能は聞いていませんが?」
ミスリルは問いかけを無視して未だ中空で何かを作るようなジェスチャーを続けている。その動きに合わせるようにレーダーやセンサー類は謎なメーターに変わっていく。武器管制システムも見たことのない未来的なものに変わっていく。
「す、凄い……」
もはや誰も口を開くこともできない。ふとミスリルを見ると額には大粒の汗が光っていた。余裕なく必死そうに両手は何かを作る様に動いている。アンドレアとは一瞬目が合ったがニヤリと微笑んでくれただけでそれ以上は何も語り出さない。
「こんなの……副長やってるのに全然知らなかった……」
この状況に少し呆れていると目の前の床が割れて操縦桿の様なものが出てきた。
「な、何だ……床からトリガー? か、艦長! どうなって――」
「――発射まであと百二十秒。トリガー解放、アンドレア副長、君が撃て!」
ミスリルは汗をかきながら誰とも視線も合わせず何かに集中して手を動かしている。アンドレアは思いの外に余裕のない声に生唾を飲み込んだ。
「ちょっ……えっ?」
「私はこの艦の制御で手一杯だ。君が撃つんだ!」
ここで何となく床からの振動は恐ろしく巨大なエネルギーが艦首に集中しているのだと理解できてしまった。強めに足踏みするだけで暴発を想像してしまう恐怖。
「ははは、オリハルコン、エネルギーが充填されたら裏切り者のお前ともサヨナラだ! もう会いたくはなかったよ!」
ここで全員がミスリルと呼ばれる存在に恐怖した。
Sector:12 End
――アリアの直向きさとオリハの一途さ。それはローズの微笑みと共に援軍(騎兵隊)を呼んだ
――ミスリルは起動式を繰り出し因縁を消し去ろうとする中、窮鼠となったオリハは跳ね返せるのか
――イケ、アリア。イケ、オリハ。二人の時間を、二人の幸せを、未来を取り戻せ
二人の絆の回数:七十九回(軽く抱きしめられだけで一回追加)




