P43:騎兵隊の到着です【02】
engage enemy now.
(現在、交戦中)
detects multiple small energies and huge energie behind.
(複数の小型エネルギーと後方の大型エネルギーを検知)
move to counter attack sequence.
(反撃態勢に移行する)
targets lock.
(複数の目標を固定)
mode change PUMA
(超高速機動モード『ピューマ』に移行)
are you ready?
(準備を確認する)
何度聴いても頼もしくなるほどのクラブDJっぷり。ネイティブ発音で紡ぎ出される意味不明な言葉達の心強いこと。更にゴーグル内では八頭身モデルのオリハがダンスからの決めポーズだ。
「ヒューヒュー」
「GoGo」
もはやライブ会場、それもたった一人、いや、今は二人の観客に向けたライブ。戦闘中だろうが心が踊るのは仕方がない。アリアは椅子に座ったままワクワク顔でナンシーと応援団扇を掲げるだけだ。
「オリハ、がんばれー!」
「契約成立ダ。デハ!」
ここでリアル八頭身オリハはダンスをやめてコクピットシートの裏側に移動した。振り返ると体温が感じられるほど間近にオリハの顔がある。
今は警戒心より安心感を感じてしまう。
「後ハ任セテ」
耳元で息遣いと共に囁く声が聴こえると頼もしさに震えがくるほどだ。そっと頬に口付けされるがくすぐったさが気恥ずかしさを忘れさせて、より幸福感に包まれた。
「うん!」
背中側からアリアの両腕にそっと重ねられた手をギュッと握り返す。それを合図に滑らかにプライベートDJは再び言葉を紡ぎ始めた。
ok.
(了解)
the order has been approved.
(指令を承認する)
mode change PUMA complete.
(『ピューマ』移行完了)
ready go!
(反撃開始)
◇◇ 三十分ほど経過
闇雲に戦艦に突っ込めば蜂の巣のように穴だらけにされる。それがスーパーAIの回答だった。だからまずオリバー達の親機BMを破壊することにしたらしい。超高速なピューマの攻撃は流石に初見では対応できなかったようで、三機のうち二機は行動不能にすることができた。
後はオリバー機と戦艦だけだった。
「アト少シ……アト少シ近ヅケレバ!」
「オリハ……焦らないで……」
高速移動の連続に吐き気を催していたアリア。それを見ていたオリハも早々に終わらせる為、ここ数分はリスクが高いと表示されている方の作戦を選択して突破を図っていた。
「デモ……事態打破スルニハ〜!」
オリバー機へ接敵する為に一気に突っ込む。しかし四方八方から押し寄せる遠隔操作BMに毎回押し戻されてしまう。
「アイツラ面倒! コウナッタラ……アッ!」
作戦を変えながらもう一歩もう一歩と前に出るが埒は開かない。更に無謀な突撃を選択をすると明らかに裏目に出てしまい囲まれてしまう。
「みすッタ……」
強引に切り抜けるが残弾を使い切ってしまう。コンソール上に表示されるリアルタイムシミュレーションで遂に全選択肢が赤BAD表示に変わってしまった。
「四秒後ニ囲マレル。駄目カ……」
「まだまだー!」
コンソール上の涙目オリハの諦めた表情が目に入ると、アリアは徐にスロットルレバーと操縦桿を握った。思いっきり操縦桿を倒して崖の壁に向かってフルスロットルで突っ込ませる。刹那に今までと違う警告音が鳴り響く。
「Return stick!(操縦桿を戻しなさい!)」
「自○イケナイ!」
ナンシーとオリハが同時に叫んだその瞬間、パルクールよろしく空中で回転して崖の壁に着地した。そのままスラスターを下に向けて全開にすると一気に崖を駆け登っていく。
「Oh……」
「ウハッ!」
驚くAI達を尻目に崖の下では敵BM同士で激突していた。ここでオリバー機は倒せなかったが、全機を振り切ることには成功した。
「やった!」
この世界にまだパルクールは存在していない。一見無意味で派手でアクロバティックな動きをすることが、衝撃を逃して敵が予測できない機動を取ることに繋がるとは高性能AIでも思いつかなかった。
「ナラバ!」
しかし、この状況が千載一遇のチャンスであることは直ぐに理解できた。それはコンソール上の選択肢の一つがGOに変わったことでも分かる。
「後ハ任セロ!」
そのまま空中戦艦に向けて正しくピューマの如くジャンプする。しかし、味方BMを同士撃ちしないよう中断していた対空砲が猛烈な砲撃を再開する。
「アッ、ソレ駄目……」
「まだまだーっ!」
涙目オリハは両手を上げて降参ポーズ。アリアは前のめりになって操縦桿の操作を継続。高速機動の中、微妙なコントロールでコークスクリューの様に回転しながら円軌道を描いていく。
「てやーーっ!」
弾幕は動きについていけない。被弾ゼロで艦橋の直上に辿り着いた。
「おっしゃ、どうだー!」
「凄ーイ、ジャア……」
素直に感心してから急減速で艦橋の上に強引に着陸する。急いで尊大に仁王立ちを決めると、そのまま残弾ゼロのライフルを艦橋に向けて構えた。
「全機攻撃ヲ停止シロ! 艦橋ゴト撃チ抜クゾ?」
「きゃーー! ステキよーー!」
「That's wonderful.(素敵です)」
勝ち確で悪役ムーブっぽくはしゃいでいると無線から悔しそうな声が聴こえてきた。
『――しまった……クソッ!』
オリバーの悪態は女達の黄色い悲鳴を大きくさせた。浮かれたオリハはナンシーの撒く紙吹雪に塗れて嬉しそうにしている。ここで八頭身オリハは消えてちびキャラに戻っていった。コンソールの中に移動するとナンシーから飲み物を貰ってくつろいでいる。
(これは嬉しいわね。さてどうしてやろうかしら……)
ここで仄暗い記憶が蘇る。
アリアの理想は『軍の皆さんが正座して反省しているのを傭兵団や役所の人が叱りつけて一件落着』の絵面だった。でも既に大勢の人が死んでいる。多分そんな穏やかな決着にはならない。
「ねぇ……どうする?」
「ン? アァ、エット……ドウシヨウカナ……」
オリハもアリアの困惑の意味が分かった様で、次の行動についてどうしたら血の海が最も小さくなるかをシミュレーションし始めた。
◆
艦橋の中では皆が言葉なく天井を見上げていた。時折ギシギシと軋む音だけが辺りに響いている。
「か、艦長……どうしましょう?」
あたかも声が頭上のBMへ聞こえてしまうのを警戒するように小声で耳打ちするアンドレア。するとミスリルは、さも面倒臭そうに頭を数回掻くと大きなため息を吐いてから声を上げた。
「えーい、この低脳どもめ。結局このミスリル様がやるしかないのか?」
「えっ?」
アンドレアにはどういう意味でミスリルが『自分でやる』と言っているのか見当もつかない。そもそも指示は艦長の役目であり全責任は既に艦長が負っている。
「あ、あの……」
「ならば見せてやる! オリハルコン、ここでお前を倒す、お前を超えてやる!」
天井を一度だけ見上げるとダンスの振り付けの様に右腕を横に振った。アンドレアにもその場に居る他の誰にもそのアクションの意味は分からない。
「何をされるんで――」
「――起動式……boot strap seaquence go ahead! (起動シーケンス開始)」
異国語、といえば簡単だが全く見知らぬ言語をいつもの声より低く、しかし朗々と響く美声で唱え始めた。
「えっ、艦長、イケボでナニ喋って……」
クルー達は急に始まった演劇を見せられて驚くことしかできない。
「ok! manipulator deployment.(了解。マニュピレーター展開)」
台詞と共に床からは重い振動を感じる。直後に艦橋の窓から巨大なバームクーヘンの様な物体が現れた。アンドレアすら言葉を失っていると突然前面モニターに艦の全景が映し出された。
「ドローン映像だ。よく見ておけ!」
そこには自分達が乗艦している戦艦の左右から、昔ながらの二本指マジックハンドが生えている様が映し出されていた。艦長の方を一斉に見つめると、何故か無言で指揮者の様に腕を振っていた。
「Capture BM on the Top.(上方のBMを捕獲する)」
珍しく楽しそうに微笑みを浮かべるミスリル。
「俺の勝ちだ、オリハルコン!」
◇◇ 数分前のコクピット内
「サテサテ、ドウスルカ……」
ライフルの射線は艦橋を間近に捉えている。今後の処遇は未だ決めきれていないが勝敗は決したと言って良い。
「サテ、サテ……」
決死の覚悟の攻撃が成功したこともあって張り詰めていた雰囲気は消えて和やかな空気に包まれていた。
ふとアリアのリラックスした姿が目に入る。
「サテ……フーム……」
何となくアリアを眺めてみるオリハ。緊張感から解放されてリラックスしているアリアはほんのりと汗ばんで肌に赤みが刺している。
その姿に思わず欲情するオリハ。
「ありあ……汗バンダ肌ガ綺麗……」
「えっ?」
思わず思ったことを口に出してしまう。アリアも急に意識してしまい俯いてモジモジし始めた。
「……」
「……」
無言でいる内に徐々に欲情してきたアリア。そんな雰囲気は絶対に逃さないオリハ。そっとマジックハンドでアリアの両肩を撫で回した。
「ありあ……」
「もう。こんな時に……ダメよ」
言葉以外の全てがGOサインを出しているのを確認すると、オリハの中の何らかの安全装置が外れて何らかのスイッチが入った。
「綺麗ダヨ……」
「あぁん!」
緊迫感のあるコクピット内の全面モニターが徐々にピンク色に支配されていく。無機質なグラフは花で埋め尽くされ、無愛想なメッセージが甘い言葉に変わっていく。
♡……
「ありあッチャーン!」
いつものマジックハンドがいつもの通りアリアを押し倒そうとした瞬間、アリアの視界に変なモノが映った。
「ん?」
それはオリハのモノとは違う機械的な二本爪のマジックハンドだった。但しサイズは桁違いに大きい。
「な、なになに?」
「エッ?」
急に足元が揺れ始めたことに驚くアリア。そこに突然またもや緊急っぽいブザーが鳴った。
「detected the Boot-strap-seaquence activate.(起動式の発動を検知) 」
「シマッタ!」
ナンシーからの緊急連絡だった。コンソールの顔を青くするオリハ。慌ててライフルを艦橋に向けたままトリガーを引き絞るが勿論弾は出ない。
「アッ、ヤッベ!」
焦って給弾しようとするが、その隙にマジックハンドが器用に銃身を摘んでいた。振り払おうとするが、もう一本のマジックハンドが死角から現れて背後から胴体の辺りを鷲掴みされてしまう。
「クッ! 捕マッタ……」
「えーっ、オリハ、どうする? どうするの?」
ライフルはへし折られると投げ捨てられてしまった。勝利の余韻が絶体絶命のピンチに早替わりだ。
『――Capture success!(捕獲成功!) オリハルコン、もう終わりだ。うははは!』
ここで無線から敵の声が聴こえてきた。色気タップリの重低音ボイスDJがあたかも曲紹介のようで腹が立つ。
「みすりるメ……」
◆
両腕を胸で組んで満足顔のミスリル。いつも横に立っているアンドレアもここまで機嫌が良いのは見たことがない。
「アンドレアくん、どうだね? この私が設計、開発をした空中戦艦|ルミエール・デ・グロワール《栄光の光》の真の能力はどうだね?」
子供が親に褒めてもらいたい時のようにテンション高く語るミスリル。アンドレアにははしゃぐ子犬のようにしか見えない。
(くーっ、冷酷無比なクールさと子犬さながらの笑顔のギャップ……ミスリル艦長、これからもお慕い申し上げます!)
「はい! 小官も感激しております」
「うむ。では宿敵の顔でも眺めるとするか」
「はい!」
横にピッタリと寄り添い何か喋る度に大袈裟に頷いている。というわけで、かなり感情表現を抑えた会話をしているが周りのクルーからは尻尾を振りまくった犬のようにしか見えなかった。
「そら! Show me captured enemy!(捕まえたヤツを見せてみろ!)」
マジックハンドが指示通りに捕まえたBMを艦の前方百メートルほどの場所に持ってきた。
「おぉ……敵をこんな形で見られるとは……」
凶悪に強い敵BM、先ほど生殺与奪を握られかけたと言っても過言はない存在を、こうも簡単に捕まえてしまうことに感動しきりのクルー達。
「うははは」
「あははは」
ミスリルとアンドレアの高笑いが辺りに響き渡ったが、またも天井からゴトゴトと不快な音が聴こえてきた。オリバー機が艦橋の上に着陸したらしく、ミスリル含めて全員不快そうに見上げている。
『――みすりる……久シブリダナ』
「オリハルコン、こちらはどれだけ探し回ったか……まるで恋焦がれる乙女のように必死だったぞ」
『――エッ? きもイ』
素っ気ない悪態にミスリルが気分を害していると思い表情を伺い見るが思いの外に満足げな顔をしていた。
「さて、どう倒してやろうかな……」
勝利を確信しているらしい。
「はい。あのマジックハンドで手脚をもいで……」
『――艦長! オリバーです。中のパイロットは生かしたい』
『――何で……何で私を……』
捕獲中の敵パイロットとオリバー大尉が旧知の中なのは艦橋にいるクルーはミスリルを含めて知らない。突然始まった無線越しでの会話を皆が黙って聴いていた。
『――何で私を』
『――お前をエミリアと同じく妹として愛したい』
『――えっ、キモい……あっ、んふふ』
先ほどのオリハと同じ台詞被りに敵コクピット内が和んでいるのが感じられた。その瞬間、マジックハンドに捕らわれたBMの手足に火花が散る。
『――うるさい!』
オリバー機が無抵抗なオリハを射撃したらしい。とはいえ電磁装甲のお陰か思ったよりダメージは与えられなかったようだ。
『――アリア。俺の奴隷になれ。ベッドで毎晩可愛がってやる』
『――イヤです! 大体妹扱いはどうなっちゃったんですか?』
『――妹も今は毎晩ベッドで愛してやっている!』
『――えっ……』
この発言には艦橋で聞いていたクルー全員もドン引きだ。
『――ほんとにキモい……』
『――分かった。じゃあ死体を可愛がってやる』
呻き声に似た感想が艦橋の中でもあちこちから漏れ聞こえる。
「ミスリル艦長……流石に士気が下がる……えっ?」
アンドレアは生理的に無理らしく吐きそうになっていたが、横のミスリルを見ると逆に満面の笑みを浮かべていた。
「そうか……興味深いぞ。大尉! 敵パイロットは死後修復してやる。動作も保証しよう。筋繊維に流す電流をコントロールしてやるから安心したまえ」
『――艦長……はい! アリア、だから安心して死ねー!』
ここでリモート操作された多数のBMが襲いかかっていった。
◇
身体の奥から寒気を感じるのか、震えながら手足を高速で撫でて温めている。モニターには無人機が虫のようにピョンピョンと跳ねながら近づいてくるし、スピーカーからは未だに『元カレの変態』から気色悪いセリフが絶え間無く湧き出てくる。
「うーっ、サブイボ出た! キッモっ! ホント、私ダメ、ああいうの。キモっ、キモっ、キモーい!」
「みすりる……昔ヨリ色々ト拗ラセテルナァ……」
頭を数回横に振ってからコンソールを両手でしっかりと掴むアリア。
「オリハ! あんな変態達に私の身体、渡さないでね!」
前のめりで必死に懇願する涙目のアリア。
「お願いよ。死んだほうがマシなんて言葉、ダメだけど……アイツらのオモチャになるよりはよっぽどマシだわ」
「ソウダナ。滅ビル時ハ一緒ダ。忘レズ連レテイク」
「うん!」
絶望の中でも二人いれば大丈夫、そう心から思えた。だから二人で真正面から敵を睨みつける。その直後に短いブザー音が鳴った。
そう、それはまたもナンシーからの緊急連絡だった。
「The cavalry has arrived.(騎兵隊の到着です)」




