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P39:任セテオケ。50/50ダ【02】

◇◇



 宿営地は所狭しとBMが始動し始めて辺りに轟音が鳴り響いていた。ワイルド・スカンク傭兵団と共に行動してくれている整備スタッフなどはニューベイに脱出する為、足早にトレーラーに向かっている。

 そんな人の流れと反対にロイドとカミナはアリアの方に歩いていた。


「カミナ、もう諦めたか?」

「一緒に行くって言ってるのに……二人きりにさせて欲しい、だとよ。アリア!」


 カミナは未だ不服そうだ。アリアを見つけると大声で名前を呼びながら手を振っている。アリアも手を振り返しながら走ってきた。セーラー服に防弾ジャケットと肘膝用プロテクターをつけた可憐な少女。今からこの子が針鼠のような武装の戦艦に一人で向かうと言ったら悪い冗談にしか聞こえない。


「アリア、気は変わらな、おっ――」


 アリアは走った勢いのままカミナに抱きついた。突然の抱擁に優しい笑みが浮かんだがすぐに心配そうな顔に変わった。


「――カミナさん、皆さんを護ってあげてください。死んじゃイヤですよ」

「こっちのセリフだよ。お前らはどうするんだ! まさか二人で死ぬ気じゃねーだろうな?」


 アリアの両肩を持って正面から皆が疑問に思っていたことを口に出すカミナ。周りの人達も動きを止めてじっと耳を傾けているようだ。

 すると、横で浮いているドローンがいつも通りの声で喋り始めた。


「当初ノ作戦通リ、さん・くるーずトにゅーべいカラ民間人ヲ逃ス時間ヲ稼イデクレ」


 型通りのセリフに苛立ちながらアリアを強めに抱き締めるカミナ。首だけドローンに向けて睨みつけた。


「むぐぐっ、苦しい……」

「で、お前らはどうするって聞いてんだよ!」

「アノ戦艦トハ一対一デ戦ワシテ欲シイ」


 融通の効かない回答で余計にイラついている。


「あーん? 何だそりゃ? あのデカブツに個人的な因縁でもあんのかよ?」


 ここで軽口が飛んできたらドローンをブン殴ると決めていたが、暫しの沈黙の後にドローンはカミナの真正面に向かい合った。


「アァ、ソウ思ッテ構ワナイ」

「……」


 聞こえてきたのは至極真剣な機械音声(マシンボイス)だった。想定と違う回答に一瞬言葉を失うカミナ。溜息を吐きながらカミナはもう一度アリアに顔を寄せた。


「……アリア……どうすんだ?」


 アリアはカミナに抱き止められたままオリハに視線を向けた。


(オリハを信じよう。いえ、二人のこれからを信じよう)


 カミナに視線を戻してじっと見つめる。


「……はい。オリハと一緒に行きます」


(そう。私はオリハと共に生きることを選んだのよ)


 心の中に迷いはなかった。


「アリア……有難ウ」

「うん。一緒に行こう」


 またオリハに視線を戻すと二人のバックには少女マンガのように色とりどりの花々が咲き乱れ、無数の星が煌めいているようだ。カミナは少し呆れ気味に一歩離れた。


「……えーい、分かったよ! アリア、オリハ、死ぬなよ! 私からの命令……いや、お願いはそれだけだ」

「はい!」

「ワカッタ」


 ロイドはドローンに拳を差し出している。


「お前らの帰る場所は護ってやる。だからこんな所で死ぬんじゃないぞ」

「ソッチモ死ヌナヨ」


 マジックハンドが出てきてロイドの拳と軽く合わせた。男前発言に思わずニヤリとしてしまう


「当たり前だ。アリア」

「はひぃ!」


 ぽやんとオリハに見惚れていたアリア。ロイドが頭を乱雑にクシャクシャと撫でると嬉しそうに目を細めている。


「死ぬなよ」

「はい! ロイドさんも、カミナさんも、また後で!」


 元気な返事を聞いたロイドとカミナの二人も踵を返して自らのBMに向かっていった。



◇◇



 コクピットの中はハッチが閉まると辺りの喧騒は消えて静寂に包まれた。微かな電子音とアリアの息遣いだけ。まだ全面モニターは周りの風景を映しておらず、黒い画面に文字やグラフが表示されていた。


「ふふふーん♩」


 散歩にでも行くかのように鼻歌を歌うアリア。ヘルメットを浅めに被って慣れた手つきでシートベルトをしていると、コンソールの中のちびキャラがこちらをじっと見ているのに気付いた。

 ニコリと微笑む。


「初めて会った時を思い出すね」


 周りの計器を眺めても、半分程度は未だ何の意味があるのか分からない。突然短めのチャイムが鳴った。


「うわっ!」

「system all gleen. ignition start.(システム全て正常。エンジン始動)」


 二人きりの筈のコクピット(愛の巣)に蔓延(はびこ)る女の影。とはいえラブラブの時は出てこないので配慮はしてくれているらしい。


「アー……」

「女性の声くらいで怒りません」


 電化製品の声に嫉妬してたらキリがない……とここまで思ってAIに惚れてるのもどうかと思う、と自らの心の声にツッコミを入れる。


「ふふふ」

「エッ、何?」

「んーん。何でもない」


 もう一度周りの計器を眺めると全てのグラフが徐々に伸びている。それはアリアには二人の交際の進捗を表しているように見えた。


「んふふ。そうね、万事順調よ」

「何? 何カ気ニナル?」

「何でもないわよ」


 心が軽くなっている気がする。ここでモーター音が聞こえ始めた。同時に正面モニターのインジケーターの表示がOKに変わっていく。


「stand by ready. (準備完了)」


 少しだけ気合の入った声色に微笑むアリア。


「行きましょう」

「アァ、生キテ帰ロウ」

「うん!」


 ヘルメットを深く被り直し顎紐を締めるとパチンと音がした。それを合図にするように全面ディスプレイには数十機のBM(バトルマシン)が出撃する様が映り始める。ここでコンソール上のオリハと目を合わせて頷きあう。


「アリアとオリハ、出撃します!」「あ(・)り(・)あ(・)トお(・)り(・)は(・)、出撃スル!」



◇◇◇



 まだ正午の一時間ほど前、バンディットワン(空中戦艦)の予想進路上の岩陰に身を隠していた。


「ねぇ、さっきは大口叩いてたけど……どーするの?」


 人質を解放する、と言うことだから戦艦に乗り込む必要があるのはアリアでも理解していた。


(ということは、今度こそスパイかな? コスプレね。やるわよ!)


 フンス、と鼻息荒く気合を入れているアリア。


「……アリア、オ願(ネガ)イ、ガ、アル……」


(キターッ! あなたが脱げと言えば、不肖アリア、全力で脱ぐわよ!)


「いいわよ。このアリアさん、今日は何でも言うこと聞いてあげるわ」


 テンションは空回りして頬は仄かに赤い。要するに興奮していた。


「モウ一回、ヤラセテ」


 そしてオリハ(戦闘AI)も別の意味で興奮していた。ピンクのハートの描かれた蓋が開くと瞬時にマジックハンドがアリアの身体をシートに押し付けた。同時にヘルメット内のゴーグルとイヤホンがアリアの視覚と聴覚に別の世界を見せていた。


「ナニそれ? いや、ちょっと久々に強引……ねぇ、最近前を隠さないのね……すっごい漲(みなぎ)っちゃって……あっ、や、やめ……あーんっ……」



♡♡♡



「ダメよアリア……あなたがしっかりしてないと……」


 自分で自分を叱りながら、ずり落ちたパンツを上げてブラの位置をなおす。流されてしまう自分に目下反省真っ最中だ。


「上手ニナッタネ。良カッタヨ、ありあ」

「うるさい! このエロAI……じゃなくて変態ロボット! すーぐに脱がすな、もーっ」


 またコンソールの中でちびキャラがタバコを吸っている。これを見ると最近無性にムカついてくる。


(なんか甲斐性の無いダメ男のアパートで家デートしてるみたい……まぁ経験ないですけどね!)


 モゴモゴ独り言を言いながら睨みつけているとポーンとアラームが鳴った。


「何? お届け物?」

「イヤ、ありあノ得意ナ潜入、すぱい活動ノ時間ダヨ」



◆◆◆



 サン・クルーズ南の丘陵(きゅうりょう)地帯に陣を張っている正規軍。物量を活かした正攻法で攻めてくるらしく装甲の厚い重BMが前面に展開されている。


「全く……奇策や奇襲をしてくれている内が華だったな」

「防衛戦なんて結局押し除けられれば勝ちなんだ。分かりやすいルールだよ」


 すっかりヘビースモーカーになったロイドとナッシュが隣同士に置いてある其々のBMの前でタバコを吸っている。場所は変わらず半分廃墟になった刑務所だ。


「分かりやすい事が良いこととは限らないってことだろ?」

「流石、御名答……」

「「はぁーー」」


 同時にクソデカ溜息の二人。元刑務所のグラウンドには稼働不能になったBM十機ほどが並んでおり、ぱっと見には補給基地に見えなくもない。そこに手持ちの爆薬全てをIED(即席爆発装置)化して埋めたトラップゾーンが切り札だ。逆に言うとそれしか無い。

 そして二人ともそれに正規軍が引っかかると信じるほど楽天家でもなかった。


「さて、正真正銘ワイルド・スカンク最後の作戦だな」

「ははは……おっ、カミナだ」


 脱出組の護衛でトレーラーについていったが馬鹿正直に拠点に戻ってきたようだ。


『――まだ二人は油売ってんのかよ!』


 二人のヘッドセットからいつもの大声が聴こえてきた。それを合図に顔を見合わせるでもなく其々のBMに乗り込んでいく。


「ナッシュ、金払うまでは死ぬなよ」

「あぁ、運がとびきり良いことを祈るだけだ」


 ロイドは無言でハッチを閉じるスイッチを入れた。シートベルトを閉めて締まり切る前に火のついたタバコを投げ捨てる。


「ギャンブルは苦手なんだがな……」

『――ロイド、俺は得意だぜ!』


 ナッシュの陽気な無線を切ると溜息を吐いた。


「ビギナーズラックで勘違いするバカが一番嫌いなんだ」


 無線のスイッチをオンにすると一言だけ呟いた。


「了解。慎重にいこう」



◆◆◆



 正午になると何とラッパが吹かれてBMが隊列を組み始めた。


『――おいおい……まるで中世の戦列歩兵だぞ?』


 軍の隊列は刑務所の塀や建物に陣取って身を隠しているこちら(傭兵団)を正面から見据えている。


「俺達を拠点ごと正面から擦り潰すつもり、ということかな……」


 正攻法には正攻法で、力には力で対抗するしかない。そしてそれは物量や戦力でほぼほぼ勝敗が決することと同意だ。


『――損害は無視かよ……って、後方の新型……前線の味方に銃を向けてやがる』

「あはは、しっかり督戦隊も配置するとはな」


 正面から戦えば前線の何割かはどうしても損害を被る。それを恐れて最前線に配置された者が逃げ出せば戦線は崩れてしまう。そこで督戦隊の出番だ。逃亡兵は容赦無く処刑される。


『――こりゃ敵さんの士気は低そうだな』

「俺にはお前の方が士気が低そうに見えるぞ?」

『――ははっ、根が正直なんでね』


 自分達のくだらないやり取りに辟易していると敵の砲撃が始まった。



◆



 爆炎の影から真正面に近づいてくる隊列を組んだ重BM。その隙間から時折見えるライフルが絶え間無く銃弾を吐き出している。


「カミナ! 前に出過ぎるな。お前の機体は装甲が脆いんだから慎重に――」

『――どうにか押し返さねーとこれで終わるぞ!』

『――確かにもう少し跳ね返したいな……勢いが弱いと地雷原の効果が弱くなる』


 塀の中の正面グラウンドに地雷を設置してトラップゾーンにしている。可能なら敵BMには、このグラウンドに雪崩れ込んで欲しい。


『――ロイド! もう装甲が保たない。一旦引くぞ』


 クーガーの機体は電磁装甲という最新テクノロジーを使った重装甲BMだ。味方の盾になる為、最前線に立ってくれている。

 部隊の盾が居なくなるのはどうにか避けたい。


「もう少し――」

『――燃料は補給させてくれ。この弾幕だとエネルギー消費が半端ない!』


 余裕がないのがありありと分かる声色。弾幕に耐えられるBMは希少だ。そんな防御BMが破壊されれば戦線そのものが崩壊しかねない。


「……分かった。なるべく早く戻れよ!」

『――おうよ……って、何だコイツら?』


 前線をどこまで下げれば良いか地図を睨んでいたがクーガーの驚いたような声に顔を上げた。そこにはクーガー機に向かって真っ直ぐ攻め込んできている数機の如何にも特殊部隊といったBMが見えた。


「ちっ! クーガー、全速で回避しろ!」

『――おいおい、穏やかじゃない……くっ……間に合わねー』


 集中砲火を受けて身動き取れなくなるクーガーのBM。防御姿勢を崩さず後退を始めるが弾幕に阻まれて思うように動けない。


『――ロイド、もう……エネルギーが切れちまう!』

「メーデー、メーデー、前線に救援求む!」

『――空いてる部隊なんてねーぞ!』

『――攻撃が激しくなった。此方も救援要請!』


 タイミングを合わせたように加勢を強める軍はそこかしこで攻勢を強めているらしくロイドの救援要請など誰も聞いていない。


「クソッ、待ってろクーガー、俺が……ん?」


 地雷原の見渡せる丘に陣取っていたロイドがBMを移動しようとしたその時、レーダーサイトに映る味方識別信号の一群がクーガーに接近していた。


『――こちら、ニューベイ独立防衛隊所属のパティオだ。遅くなってすまない。議会の説得に時間がかかった!』


 特別大きくゴツいBMが雨霰と降り注ぐ銃弾をものともせずクーガーの前に立ちはだかった。怯んだ軍のBMが動きを止めると今までと異なる方向からの攻撃に数機が爆散した。


『――議員達にはサン・クルーズが抜かれればニューベイに未来など無いという事が理解できなくてね』

『――そういうことだ。助太刀するぜ!』


 機体も色も不揃いのBMが続々と現れた。その数は二十機程度だが、予想外の援軍に軍のBM達は体勢を整える為に一旦下がっていく。戦線を大きく下げる危険は一時的に脱した。


「ヤバかった……ありがとう。援軍感謝する!」

『――間に合ってよかった。此方はパティオ、パティオ・メサイヤだ』


 パイロットの映像がコンソールに映っていることに気付いたロイド。カメラのスイッチを入れながら優男の映像を眺めていた。


(また、アクター……というかどちらかと言えばアクトレスだな)


「本当に助かった。パティオ、お前が助けてくれたクーガーは腐れ縁なんだ。アレでも死ぬと酒が不味くなる」

『――ははは……礼ならアリアに言ってくれ。今朝の放送が無かったら説得は無理だったからな』


 思わず口笛を吹くロイド。


「そうか……そういうことか。そうだな。俺達も同じだ」


 アリアの素直な言葉に皆が心を動かされて行動していた。浮世離れした少女だとは思っていたが、こんな荒んだ世界には必要な存在なのかもしれない、ふと、そんなことを考えていた。


『――よーし、無事に戻ってきたら美味いものでも嫌というほど食わせてやろうぜ。アンタもだ、パティオ。助かったぜ』


 クーガーが補給ポイントまで下がっていく。ロイドは端末を操作して地図や戦況をニューベイ防衛隊に共有するとBMをアンブッシュから出してパティオの大型BMの前に出した。


「改めて礼を言う。しかし状況は依然苦しい」

『――理解しているつもりだ。では、次のラッシュ(突撃)が始まるらしい』

「……休ませてくれんな……」


 相手も本腰を入れてこの地点を抜こうとしているらしい。先ほどの特殊部隊風BMを先頭に数十機が接近してくる姿に背筋が凍る。


「オリハ、アリア、お前ら頼みだぞ」

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