P35: ちょっと、すっごいヤル気じゃん【02】
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ホバリングしながらナッシュ機の前に滑るように近づいてくるBMが一機。腰に連結されたライフルを右手に構えている。その中にはゴツいゴーグルをした体の厳ついパイロットが座っていた。一息ついてからゴーグルを上にずらして額の汗を拭いている。
上半身はタンクトップ一枚の女性パイロット、ニヤリと微笑みを浮かべた。
「ふぅ、もう諦めな。セフレにしてやるから投降しろ」
『――相変わらず酷い煽りセリフだな、カミナ』
軍の基地で粒子加速機を交換したカミナのBMは火器管制システムも一新されていた。まだ慣れていないのかコンソールを触る指先はおっかなびっくり動いている。
「あー、レーダーレンジの切り替えはどうやるんだ……まぁいいか。ほら、私に殺される前に両腕を上げてコクピットハッチを開けろ」
左手のライフルを軍のBMに向ける。しかし両腕は下がったままだ。ましてやオープンハッチもしない。
『――うるせーなぁ……戦争は……数を殺したヤツが偉いんだよ!』
両腕からビームシールドが展開された。カミナの反応は早く殆んど同時に発砲していたが、三十ミリ徹甲弾は全て光の膜に弾かれていく。数発撃ってシールドを抜けないと判断したカミナは右手のライフルから粒子ビームを躊躇なく撃った。
『――そんな貧相なビームでこの最新型を倒せるかよ!』
ビームシールドで全て弾くと両腕からビームサーベルを展開した。突撃するために姿勢を低くする。
『――ははは! 形勢逆転だ。どうする? 俺専用のメス奴隷になれば助けてやるぞ? あはははっ!』
瞬時にゴーグルをはめてコンソールを迷いなく操作する。ターゲットがレティクルに入っていることを確認した。
「あー、そりゃ欲求不満になっちまう。断るよ」
『――けっ! 歯向かうなら死にやがれ!』
急加速するネイサン機が一瞬視界に映ったがカミナの反応の方が早かった。右手のライフルからは巨大な閃光の塊が粒子をばら撒きながら放出された。それはシールドをあっさりと突き抜けネイサン機のコクピットに大穴を穿つと機体は上下二つに別れて爆散してしまった。
ゴーグルをずらして燃え残りに目をやってから軽く口笛を吹くカミナ。
「V・S・B・Rか。低速だとスゲー威力だ。良いモノくれてありがとな」
刹那に無線に割り込む音声があった。
『――どういたしまして。アイツらは然程好きではなかったし好みも合わなかった。とはいえ義理もある。仇は討たせてもらおう』
再度ゴーグルをはめ直すカミナ。
「お前ら仲良かったんだな……マークって言ったっけ?」
『――……』
無言で返す敵パイロット。百メートルほど離れた森の暗がりから新型BMが姿を現した。
『――チームは仲が良いべきだ。しかし性格が好ましい奴ばかりとは限らない』
「ははは、恋人になるには我慢しないとダメだぜ?」
カミナがライフルを構えるとマークのBMは再度森の暗がりに消えた。すぐに数十メートル側方からマズルフラッシュが見えた。咄嗟にシールドを張ると衝撃がコクピットにも伝わってくる。
『――フィアンセじゃないんだ。性格より操縦の腕の方が重要だ』
「けっ! 面白味がねー答えしか言えねーのかよ!」
予測位置に高速粒子ビームを連射するが手応えはない。すると予測位置の反対側からBMが飛び出てきた。そのままタックルするとカミナ機を横倒しにする。
『――生憎スレンダーが好みなんでね』
マーク機がライフルをコクピットに向けようとした瞬間、虚空からの射撃で右手首が爆発した。
◆
アラートが鳴るコクピット内ではマークがセンサーを再確認していた。しかし最新型BMの高性能センサーでも何も感知していない。
「やっぱりお前も居たか……魔女め!」
呻くように呟くマーク。モニターの中で機影を探すが何処にも見つからない。
『――マークさん……投降してください……』
オープン無線に入ってきた場違いな少女の声。刹那にノイズ混じりで機影が見えてきた。ライフルの銃口はマーク機のコクピットを狙っている。
◇
明らかに軍のBMとは異質な存在。そのコクピットの中には軍の制服に身を包んだ細身の少女が座っていた。
「マークさん、もう勝負はつきました。投降――」
『――いや、それは無理な相談だ……』
悲しそうな、決してファナティックな感じには聴こえない声が無線から聞こえてきた。
「何故ですか? 勝負は……」
『――そうだな……』
カミナが機体を起こして右手のビームライフルをマーク機に向けたのがアリアの目からも確認できた。二つのライフルを向けられたマークはピクリとも動かない。
『――家族の命を……いや、人質二千人の命のためにも投降はできない』
「何よそれ?」
不穏なセリフに身震いするアリア。沈黙しているとマークがポツポツと喋り始めた。
『――最初は変な指揮官が急に配属されたな、くらいしか感じなかった。それはすぐに可笑しな事になっていったんだ。皆が理想郷だ何だと口走るようになった』
「何なのそれ? エルドラド……えっ?」
その言葉にはアリアがボビーやネイサンに感じた違和感、基地でオリバーに感じた不気味さが詰まっている気がした。身体が身震いするのを止められない。
『――そうだ、理想郷だ。マルコ隊長とサイコかカルトか変なモンが流行っちまったな、なんて笑ってる時は良かったんだが……』
マークの独白を聴いていると海外ドラマの回想シーンでも観ている気がしてきた。
『――オリバーが……妹と結婚出来るんだ、なんて言い始めた』
「はぁ?」
(シスコンとは聞いていたが変態だったとは……)
一時期の恋人候補の評価が急落していく。
『――怒んなよ。ボビーもネイサンも理想の恋人とか理想郷、だとか言い始めた。そしてそれはどんどん悪化していった』
「……」
ここでマークの話す声色が曇り始めた。暗く辛い思い出話を紡ぐような苦しい感情が浮き出てくる。
『――あの空飛ぶ戦艦が現れて加速していったよ。強制的にオンベースに住む二千人の家族がまず戦艦内で暮らす事になった……』
◆
コクピットの中でスロットルレバーを指が白くなるほど握り締めていた。視線は虚で空に浮かぶ白い雲を見つめていた。
ふと視線を戻せば目の前にはハリネズミのように武装したBMが立っている。その横には胴体直結のライフルを構えたBMも見えた。銃口は二つとも真っ直ぐこちらを向いている。
(この状況は……絶体絶命ってやつだな)
半ば諦めながら
「そしてオフベースの宿舎は見せしめで破壊された」
『――何それ……』
「ははは。反抗した家族は性別年齢関係なく戦艦から降ろされたよ……上空に浮いた戦艦から命綱無しでな」
『――っ! な……何……それ……』
自虐的なセリフが止まらない。ここでアリアやカミナを論破しても何の救いにもならない。
「何が理想郷だ……何がタマハガネだよ……」
『――ヤハリ、たまはがね、ナノカ……』
『――えっ、オリハ、なんて?』
ここで最大の機密を思わず口にしたことを一瞬後悔した。しかし、それももうすぐ関係なくなる、そう思えた。スロットルに手をかけるマーク。
「というわけだ。悪いが……投降はできない!」
◇
肩から急加速で体当たりを仕掛けるマーク機。それを闘牛でもするようにギリギリで躱すと戦闘AIたるオリハはライフルを向けた。しかし、その狙いを外すようにレバーを動かすアリア。
「ダメ! アリア、タオスシカ――」
「――それでも、何か方法が……」
マーク機が振り返って攻撃姿勢を取る前にカミナ機とナッシュ機から放たれた銃弾がコクピットを穴だらけにしていく。一秒ほど火花が散っていたがそのまま無言で崩れ落ちた。
アリアは暫く目を背けていたが、急にコンソールの中のちびキャラをキッと睨みつけてから怒り始めた。
「何なのそれ……どういうことなの? ねぇ、オリハ、教えてよ!」
「……」
とばっちりを向けているのに何も反応がないのが一番腹が立つ。ちびキャラすらフリーズしている。
「ねぇ!」
「アッ、ハイーー……」
あからさまに『心ここに在らず』だ。怒りの矛先をちびキャラに向けることにした。デコピンして慌てふためくちびオリハを眺めていると少し心が落ち着いてきた。
「イタッ、アッ、イタイッ、アッ!」
「全く……ねぇ、さっきのってどういう意味なんだろ?」
「ン? ンーー……」
オリハはまた考え事なのかまた黙ってしまった。再度デコピンするために人差し指をコンソールの前に持ってきたところでカミナから無線が入ってきた。
『――倒れてんのはナッシュだよな? そろそろ本体に合流させてくれ。敵さんも一旦引くようだし』
『――新型三機が真っ先に撃破されれば流石に引くか……』
カミナとナッシュの通信を聞いたアリア。三機は高台にいるので街の様子がよく分かる。軍の部隊が後退していくのが見えた。空飛ぶ戦艦も徐々に小さくなっていく。ひとまず侵攻を中断したらしい。
『――ふぅ……やっとまともな食事にありつけそうだ』
ここで『食事』という単語にお腹が反応してグーグーと大きな音を立て始めるアリアの胃。慌てながらマイクをミュートにしている。
「うげげっ……止まれお腹!」
『――あはは。元気だねぇ。私は腹減り過ぎてフラフラだ。ナッシュ、食事くらい用意できるよな?』
『――あぁ、もちろんだ。二人の帰還を心から歓迎する。よく生きてたな!』
これにはアリアも感激だ。
(副団長よ。要は副社長みたいなもんでしょ? これは嬉しいですよ!)
ニンマリしながらマイクのスイッチを入れる。
「ナッシュさん! カミナさん、アリア、オリハの三名は無事に帰還しました!」




