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P34: ちょっと、すっごいヤル気じゃん【01】

◆◆◆



 きっちり正午から戦闘が始まった。教科書通りに遠距離砲撃の撃ち合いが始まるとそれぞれ数機にダメージを与えるが小破まで。戦局に影響が出るほどではなかった。


「全員、警戒を厳に。そろそろ軍の野郎どもの進撃が始まるぞ!」

『――へへへ、教科書通りってか?』

『――全くだ。お行儀の良いこって!』


 ロイドの指示で各自が発見した敵BMをマップに記録している。数の有利を有効に活用するため複数同時に攻撃を仕掛けるらしい。現時点でマップには三箇所ほどに光点が集まっている。


「南の正面が囮だと思う。本陣だからな。西ビル群と東の住宅街に注意しろよ」

『――ロジャー』


 ロイドも索敵用のカメラを使って敵を探っていたが突然の爆音に邪魔された。


『――東住宅街。爆炎にチャフが混じってる。来るぞ!』

『――西側、敵BMの進軍を確認。重装甲型を盾に一個中隊が接近してくる。反撃する!』


 すぐに激しい銃声が木霊(こだま)し始めた。東側の住宅街ではスモークやチャフで撹乱しながら徐々に距離を詰めてくる。東側防衛のリーダーを任されているロイドはマップを顰めっ面で見つめている。


(数は互角。『攻城戦は戦力三倍が必要』なんて言うが……装備の差が激し過ぎる。抑えられるか?)


 軍隊と傭兵団、これは軍隊VS狩人の戦いに近い。半機族と呼ばれる野良BMを狩るのが仕事の傭兵団。対してBMで悪さする人間を狩るのが軍隊の仕事だ。


「相手の装甲は二十ミリじゃあ傷も付かないんだ。無理はするなよ」

『――ラジャー……ったって、どうするよ?』


 その問いかけにすぐに答えられないロイド。


(そうだよな……で、どうすりゃ良い?)


「あー、無理はするな。今はそれしか言えん……」


 その回答に返事はなかったし、微妙な沈黙の直後に爆音が聴こえた。


『――住宅を爆破しながら一気に接近!』

『――西側、このままだと防衛ラインを突破されちまう』


 態々無線のスイッチを切ってから舌打ちするロイド。深呼吸してから再度無線を入れた。


「東側、弾幕を張るしかない。地雷原も上手く使え! 西側、どうした?」

『――装甲が抜けない。なんだあの重装甲は?』

「もう少し粘れ。ミルコ、聞こえるか?」

『――何だ?』


 別のパイロットを呼び出すと不機嫌そうな声が無線に入ってきた。


「西側の重装甲BMは見えるか?」

『――確認した。はは、まるでスネイル(かたつむり)だな……よし!』


 ロイドにも鈍い銃声聴こえた。それと同時に重装甲BMの右脚の装甲が吹き飛んだ。暫くすると移動に支障が出たのかゆっくりと後退していく。それと共に攻め手、護り手、互いの銃声が激しくなっていく。


『――西側だ。支援ありがとう。押し込めそうだ』

「油断するなよ。ミルコ、ドン亀が出たら助けてやってくれ」

『――一応は了解』


 ロイドがドン亀、ミルコがスネイルと呼んだBMは遮蔽物の無い平地で突撃する時、自らが遮蔽物になり味方を援護できる超重装甲BMだ。アリアやカミナを苦しめたハードフーリッシュ(ど間抜け)に近いがこちらは単なる重装甲。

 とはいえ遠距離狙撃で脚部を破壊できたのはミルコという凄腕パイロットが居たからできたことに違いない。


(というより威力偵察なんだろうな。本命は次か……)


「全機、警戒を厳にしろ。次が本気の攻撃だぞ」

『――うへー……了解』

『――やってられねー』


 不満たらたらだ。確かにこの戦闘は1ゴールドにもならない。傭兵としては無駄な戦いだ。


「逃げ遅れた民間人を護るんだ。ヒーロー気取りが――」


 直後に拠点にしている刑務所の裏手の山が爆発し始めた。大規模な砲撃が始まったのは狙撃が大層効いたということなのだろう。


「ミルコ、大丈夫か?」

『――無論だ。とはいえ当分は狙撃位置につけそうにない』

「了解だ。何とか総攻撃迄に――」

『――えっ? マジかよ? ヤバそうだから逃げるぜ!』

「どうした……いや……何だ……あれは?」

『――全機に通達。大型ボギー(所属不明機)』に注意、繰り返す。大型ボギーに……』


 山間からは何か大きな物体が現れた。それは宙に浮いており、その光景は非現実的すぎて理解が追いつかない。ミネベアの焦った通信が繰り返される中、全BMが動きを止めて見つめることしかできなかった。

 そんな静寂も長くは続かず、次の瞬間その何かから砲撃が始まった。それは先ほど迄の砲撃とは桁が違う、あたかも数十機のガンシップ(武装C130)から一斉に攻撃されているような苛烈さだ。


「クソッ! 拠点防衛の意味が無いぞ。全機後方に引け! 撤退だ!」

『――敵が宇宙人とは聞いてないぞ! ファ○ック!』

『――射撃が通らねー、何だありゃ! 逃げろー!』


 ロイドが叫ぶまでもなく無秩序に後退し始めていた。


「まだ三キロは離れてる。こっちの射程外だ。ミルコ、いけるか?」

『――数回撃ったがダメージはなさそうだ。逃げさせてもらうぞ』

「クソッ。撃つ手なし……ちっ、BMも登場かよ!」


 勢いがついたらしくBM部隊が地上を一気に進軍してくる。拠点を無視して突入してきたBMは銃を構えて避難民を制圧し始めた。


「ダイアナ、レイチェル! 聞こえるか? 作戦アルカトラズは失敗だ。繰り返す、作戦は失敗。既に防衛ラインは崩壊した。逃げられるか?」

『――えー、何それ、ちょっと、えっ、きゃーー!』


 直後に見慣れない機影のBMがトレーラーに向けて発砲した。運転席がひしゃげるとそのまま爆発した。巻き込まれた人々が吹き飛ばされてバラバラになったのがロイドの目からも見えた。


「マジか……おい、目的は何だーっ!」


 刑務所の塀伝(づ)たいに移動したロイド機はライフルを連射しながら負傷した避難民と敵BMの間に飛び出た。後部カメラ映像に負傷した人に寄り添う女の姿が見える。それはダイアナとレイチェルだった。


「逃げろ!」


 刹那にオープン回線から音声が聴こえてきた。


『――逃さねーよ! ここで全員死ぬのさ』

「何故?」


 思わずしてしまった問いかけ。ほんの少しの間が空くと心底楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


『――あはははっ! 理想郷(エルドラド)の為さ』


 その声にロイドは聞き覚えがあった。


「貴様、ボビーか?」


 軍のオフィサーの一人だったボビーの声に聞こえた。聡明そうな兵士の記憶が狂信者に上書きされた。


『――うるせーよ! 全員死んどけ――』


 刹那に目の前のBMには大穴が空いていた。そのまま崩れ落ちて燃え始めた。


『――ロイド、貸し一つな』

「ナッシュか……」



◆



「やばいやばい……次はっと……いけるか?」


 数機の軍BMを遠距離狙撃で破壊すると空飛ぶ戦艦の艦橋辺りに狙いをつけた。ナッシュの操縦するランキー・ウインプ(ひょろ長弱虫)は傭兵団ワイルド・スカンクが保有する最初のアーティファクト(未知の技術の兵器)だった。

 そのまま引き金を引くとレーザー光線が真っ直ぐ伸びていったが、当たる直前で曲がって逸れていく。


「ダメか……では逃げるとするか――」

『――逃がすかよ!』


 目の前に突然ボビーの乗っていた新型BMと同じ機影が現れた。熱光学迷彩を纏って退避に入っていたナッシュのBMだったが、体当たりを喰らって倒れ込んでしまう。その衝撃で光学迷彩も切れてしまった。


「しまった……」


 ライフルの銃口がモニター正面に大写しになっている。


『――ボビーの仇だ』

「お前は……ネイサンだったか?」

『――へへへ、カミナによろしくな。今度はイカせまくって性奴隷にしてやるって!』

「何のことだ……?」


 一瞬の沈黙。銃口がほんの少しだけ動いた。


『――そうか……死んだらよ(・)ろ(・)し(・)く(・)するのは無理か……じゃあ、お前は死んでくれれば良いよ。へへへ、じゃあ――』

『――おい、ネイサン。スタミナ鍛えたか? 今度は私を満足させられるか?』


 聞き慣れた声で煽り文句が無線から聞こえてきた。するとこちらのことなど忘れたように辺りを見まわし始めるネイサンのBM。


『――てめーー! 何処にいやがった!』


 直後に光りの粒子を振り撒くビームの弾頭がネイサン機の両手の武装を破壊した。

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