P27:紹介します。私のカレシです【02】
◇◇◇ 翌日の昼頃の自室
乗り気ではないとはいえデートはデートだ。というわけでどんな服を着るかで早朝から悩んでいた。訓練が終わるや否や慌てて自室に篭って悩むこと小一時間。先程シックなワンピースに落ち着いたところだ。慌ててシャワーを浴びてから髪とメイクを整えた。
「げげっ、もう時間だ」
部屋を出た時点で時間ギリギリだ。急いで走り出そうとした所で別に望んだデートじゃないことを思い出す。
「まっ、遅れても良いか」
普通に歩くことにした。
◇
結局早歩きにはなってしまったアリア。約束の時間に間に合って食堂に入るが逆にオリバーは居なかったが、何故かロイドとナッシュとオフィサーの皆さんの姿が見える。
「あれ? カミナさん、出掛けてなかったの?」
「だから、何でそんな面倒なことになったんだよ!」
カミナはこちらの問いかけには答えず、何故か酒瓶片手に荒れていた。隣に座っているネイサンが馴れ馴れしく肩を抱いているが苛立ちは止まらない。
「ロイド、ナッシュ、何で私達が正規軍に編入しなきゃいかんのだ?」
「ん? 編入……ん? 私達?」
「短期だ、一週間の短期編入なんだから我慢してくれよ」
カミナはナッシュの胸ぐらを掴んで威圧している。とはいえナッシュも慣れたものらしく、雰囲気はどちらかというとカミナが強引にキスでもしそうな感じだ。
「カミナ、それくらいにしておけよ。準正規軍入りの為だ。一週間くらい襟首を正してもらいに行ってこい」
「うっせーぞ、F○ckロイド!」
ここで軍服姿のオリバーが食堂に入ってきた。
「ヘイ、お嬢様がお待ちだぜ」
「アリア、今日のデートは延期だ。今日は皆で空中遊覧と洒落込もう」
ウインクしてくるオリバー。無視してナッシュとカミナの方を向く。
「カミナさん、ナッシュさん、編入……ってどういうことですか?」
「一時的だよ。一週間、正規軍を体験してきてくれ」
「うるせー、堅苦しいところに一週間なんて我慢できるかよ! お前とクーガーが行けばいい!」
答えたのはロイドだった。それに突っかかるカミナ。
「ナッシュ、別に私達じゃなくても――」
「――オフィサーの報告からメンバーは正規軍の事務官が決めたらしい」
「はぁ? 何で――」
「――アーティファクトだよ」
ここでオフィサー部隊の隊長であるマルコが喋り始めた。
「アーティファクトを複数所持している傭兵団など聞いたことがない。だから確認の意味もある」
「へっ! 危険だとか言って接収するつもりか?」
このカミナの言葉を待っていたかのようにマルコが微笑む。悪役が悪巧みをしているような凶々しい微笑み。思わずカミナも半歩下がる。
「隊長、その笑い顔はやっぱり怖いらしいぜ」
「そ、そうか……」
本気で悄気るマルコ。皆で可哀想な子を見るような視線を向けると少し焦っている。
「ウホン。話を続ける。カミナのアーティファクトは制御系がマトモじゃないので危険という判断だ」
「じゃあどうする? へへへ、『此方で預かります』なんて言われて渡すと思うのか?」
またマルコが微笑むとまた皆は軽く引いていた。そっと落ち込む。
「逆だ。予備の収束機を取り付けるとのことだ。一週間の殆どは収束機の調整と訓練に充てられるはずだ」
「正規軍、サイコーじゃねーか。いつ行く? 今からか?」
変わり身早く乗り気になるカミナ。少し皆が呆れ顔だ。
「あの……私は?」
ここでアリアが呟いた。
「特に困ってることないですし……」
やはり口を開いたのはマルコだった。
「アリアのBMはウチの研究部門が見せて欲しいとのことだ。無理強いはしない。此方はどちらかというとお願いする方だな」
「そうなんですか……」
オリハと相談したい、研究部門なんて怪しい、オリハをバラバラに分解しそう、そんな想像で頭がいっぱいになっていると、機械音声が聞こえてきた。
「コチラモ、ケイケンチガ、フエルノハウレシイ」
「えっ?」
「お、AI様は賛成かい……って何処にいるんだ?」
皆がキョロキョロと周りを見回している。
「どうしてよ!」
何もないテーブルの上を見つめて声を荒げるアリア。するとそこにドローンが一機突然現れた。
「うおぅっ! ビビった〜」
「マジか? そこに居たのか?」
アリア以外の全員が気付いていなかったドローンに身振り手振りを交えて訴えかける。
「ねぇ、オリハ! 何でよ。何で急にそんなこと言うの?」
「ケイケンチ……ダイジ……」
ここでオリバーが指を鳴らした。
「じゃあ今日移動で決まりだな。アリア、デートは明日にしよう。そのワンピース可愛いよ」
「えっ? あっ……」
リアル男性にファッションを面と向かって褒められたのは実は初めて。顔を赤く俯いてしまう。
「ははは。アリア隊員はキュートだな。よし、三時間後にベースへ向かう。ネイサンとオリバーは俺達のBMを輸送機に積み込め。ボビーはアリア隊員とカミナ隊員のBM輸送の支援、マークは俺と一緒に来い。事務仕事を手伝わせてやる」
「うへぇ……」
マルコが立ち上がると、他の四人も同じように立ち上がって姿勢を正した。
「では、カミナ隊員、アリア隊員。一週間分の荷造りをお願いする。三十分で良いかね?」
「私は十五分でオッケーだけどアリアは一時間必要だ。何といってもデート七回分のドレスを入れとかないとダメだからな」
「ちょっと!」
焦るアリア。視線は机の上のドローンに向いている。しかし電源が落ちたように沈黙していた。
「ははは。戦闘AIにプライベートで支援を求めるのは酷だぞ。ではカミナには三十分、アリアには一時間を与える。カミナ、アリアの積荷の支援任せたぞ」
「ロジャー!」
ニコニコのカミナが敬礼している。それに満足したマルコも踵を鳴らしてから敬礼を返した。
「では、総員準備開始!」
「「「「ロジャー!」」」」
流石の迫力に気押されるアリア。ここで全員解散となった。カフェに残される二人。
「ちょっと! 私があの人とデートしても良いの?」
「……」
「ねぇ!」
ふらふらと浮上するドローンが力弱く呟く。
「アリアモ、ナンデモ、ケイケン、シテミルトイイ……」
「えっ?」
そのままハンガーの方へ飛んでいってしまった。
「オリハ……私に飽きちゃったの?」
自分の言葉に悲しくなって俯くが、一瞬で復活した。両手で自らの頬を平手打ち。
「アリア、ファイト! こうなったら、目一杯にヤキモチ妬かせてやる!」
ドスドスと足音を立てながら自室に戻っていった。
◇
慌てて荷造りしていると、本当に十五分程度で荷物をまとめ終わったカミナが部屋にやってきた。
「今日はコレ着ろって。固っ苦しいよな」
手に持っているのは如何にも軍服といった感じの迷彩柄の服だった。
「サイズはそれなりに見繕ったから多分大丈夫だと思うぜ」
カミナの姿を見ると、ボタンで辛うじて閉じられた胸元は横から見れば下着が覗けそうなほど隙間が空いている。
「最初くらいはボタン閉めとかなきゃな。どうせ明日から上はタンクトップ一枚だし」
これをセクシーと言わずして何を言う、といった感じだ。
「カミナさん……逆にエッチな着こなし……」
「ん? まぁそうかもな!」
リアルに胸がパツパツでシャツが引っ張られている女の人を間近で見るのは初めてなアリア。それを自慢げにわざと胸をそらして強調するカミナ。
「で、荷造り終わった?」
同性でも目を奪われてしまう迫力がある。
「どした?」
「……いいなぁ……じゃなくて、まだです!」
「だよね。じゃあ手伝うよ」
◇◇ 十五分後
結局、下着を日数分用意したくらいで、後は殆ど何もカバンに入れていない。私服はワンピース一枚とパンプス一足を入れただけだ。そもそも用意していたスーツケースを大きめのスポーツバッグに変えられた。
「一週間と言っといて一年に伸ばされることを想定するなら一通り持っていかなきゃいかんけどね」
怖いことを言っていたが、一週間なんて一瞬だよ、という意見を尊重することにした。カミナを部屋の外に追い出して早速軍服に着替える。
「ふむ……」
間違いなく少年兵に間違われる……というのが最初の感想。下だけでもスカートにしてもらいたくなる。支給されたブーツに替えて帽子も被って部屋に出ると、カミナは胡座をかいて座っていた。
「おっと、もう少し遅いと思ってたよ。さて、行こうか。どうせ準備は終わってる」
まだ三十分も経ってない、そう思ってハンガーまで出向くと本当に準備は終わっていた。BM七機の搬入というのは酷く大変な事にアリアには思えたが、カミナには単なるルーチンワークごときで騒ぐな、という体だ。
「お二人さん、じゃあ二番機に乗ってくれ。一時間と二十分前倒しで出発だぞ」
「ロジャー」
「あっ、はい! ろ、ろじゃー!」
◇◇ 一時間後の輸送機
アリア、カミナ、オリバーの三人と一機は輸送機の貨物室に備え付けられた椅子に座って出発を待っていた。お客様とその監視役ということらしい。他のオフィサーはもう一機の輸送機の方に乗っているらしい。
「ジェットコースターみたい。緊張するー」
「キンチョウスルー」
テーマパークによくいるカップルみたいな会話をしているアリアとオリハ。ちなみにアリアの横にはドローンがシートベルトをして固定されていた。アリアの向いにオリバー、その隣にカミナが座っている。
慣れたもので既にレーションに齧り付いていた。
「相変わらずの味だ……アリアも食べときな。食べられる時と寝れる時は重要だぜ」
「あー、おトイレ行きたくなると困るから……」
「ソウダネ。モレヤスイカラネ」
「う、うるさい!」
そんなことをしていると輸送機のエンジン音が響いてきた。
「うひゃー、そろそろ飛ぶのかな?」
「ソウダネー。トビソウダネー」
「お前達、BMで飛んでんじゃん……」
ふとカミナのセリフの意味を考えるアリアとドローン。
「ジャンプ、ト、トブノハチガウ」
「そうよねー。飛行機初めてなの!」
初めてのアトラクションに今から乗るようなワクワクが止まらないアリア。カミナは呆れているように見える。
「高度二百メートルのジャンプの方が恐怖だけどな……私なら漏らす自信があるよ……」
「アッ、アリアモ、モレタ――」
「――うるさい!」
漏らす、漏らさないくらいでは表情一つ変わらないカミナ。その横に座っているオリバーは微妙な表情で横を向いてくれていた。
「やっぱりデリカシーのある人の方が素敵よね」
「アァァァッ……」
小声で呟いてみるとあからさまにドローンのカメラが震えている。この動揺が心地良い。
「オリハ、怖いから手を握ってくれる?」
「エッ……エーッ……」
「嫌なの?」
声色を変えて問い詰めると、マジックハンドを出してくれた。それを握り締めると安心する。
「玩具と漫才できるのは凄いな。さて、そろそろ時間だ」
二人してブチ切れようとした瞬間、輸送機のガスタービンエンジンが動き出した。
◇◇◇ 第七辺境軍東部方面隊の駐屯地
暫しの間……といっても四時間ほどのフライトが終わる頃には三人とも眠っていたし、ドローンもスリープモードに切り替わっていた。着陸はスムーズで、というかアリアに至っては着陸しても図太く寝ていたのでいつの間にか到着していることを驚いていた。
「着陸も味わいたかった……」
「ユレタダケダヨ」
「そうなの?」
「んー……そうだな。揺れただけだ」
背伸びするカミナを眺めていると搭乗口にマルコが現れた。
「ではお嬢様達、司令部にご案内しよう」
◇◇ 一時間後の正規軍宿舎
ここからはワイルド・スカンクに初めて来た日と同じようなパターンだった。アリアとカミナは大人達にジロジロ観察されて「まぁまぁ可愛い」という酷く失礼な評価を貰っただけだ。そんな偉いオジサン達から離れられてほっと一息のアリア。下士官に宿舎を案内してもらっていた。
「アリア准尉、こちらへどうぞ」
「は、はいぃ〜」
いきなり任官してしまったアリア。今迄で馴染みのある役職と言えば、高校生らしくバイトリーダーくらいだったが、いきなり大人達から『准尉』などと敬称を付けて呼ばれると恐縮しっぱなしだ。
「本日より身の回りのお世話をさせて頂きます。よろしくお願いします」
「エルメラさんね。よ、よろしくお願いします!」
明らかに年上、それも美人なので敬語で話されると緊張してしまう。
「それにしても……」
「は、はいぃ……」
もう一つ緊張する理由があった。両手を胸に夢見心地の表情のエルメラ。
「アリア准尉、憧れてます〜。ファッションチェック・アリア、毎回楽しみにしてます〜」
「ははは、ありがと……」
「それにBMのパイロットなんて、カッコ良すぎ! もう才能の塊ですよ! 最高です!」
「あははは……」
二人きりになると褒めまくってくるので、更に緊張してしまう。
(何か試されているのかしら……)
流石に人生経験が増えてきて色々と疑うようになってしまったアリア。ジト目で見つめているが気にした様子はなさそうだ。
「私も特務隊に参加させてもらえたから、同年代では出世頭なんですけど……」
「そうなんですか。凄いです――」
「――でもアリア准尉には負けますよ! パイロット候補生にもなれてませんから。あはは!」
やはり圧が凄い。
「それにオリバー小尉からデート誘われてるんでしょ?」
「ぶっ! えぇ……知れ渡ってるの?」
何となく噂されてたら嫌だな、くらいは思っていたアリア。悪い方向にバッチリ進んでいたようだ。見えはしないがドローンも激しく震えているように思える。
「はぁ〜ん♡ ネイサン中尉とオリバー少尉は全女子隊員の憧れよ〜」
「そ、そうなんだ……」
単純に羨ましそう。そのまま施設を紹介してもらうと、最後に宿舎まで案内された。ワイルド・スカンクの部屋と大きさはそう変わらないが、部屋のタイルにヒビ割れなんかは無かった。
「綺麗な部屋ね……」
「士官から一人部屋ですからね。はいどうぞ」
ドアを開けて待ってくれている。数秒だけドアを見つめて待っていると微かに肌に風を感じた気がした。
「ん? 何か気になることでも?」
「いえ、何でもないです」
不思議そうな顔を残して部屋に入っていった。




