P25:さーて、ボーナスタイムよー!【03】
◇◇ 演習開始から十五分ほど
『――アリアちゃーん、落ち着いてね。ペイントボールに当たると大きく減点されちゃうからね』
カミナが無線でアドバイスをくれているが、興奮した二人の耳に入らない。
「オリハ、あそこ、敵敵、てきーー!」
「ソリャ、ホリャ!」
全速で移動しながら華麗にターゲットを撃ち抜いていく。スコアボードには凄い勢いで得点が加算されていくが被弾判定も多く減点も多い。目紛しく変わる得点に観客も大盛り上がりだ。
『――アリア、焦るな! 盾で受けても減点される。タイムアタックじゃないんだ!』
ロイドのアドバイスも勿論耳に届かない。致命傷の判定は一発も無かったが、シールドで捌いても減点はされる。それを忘れた二人は暴走機関車の如く止まらない。
高速移動のまま、各種武装を使って全目標をブルズアイで撃ち抜いていく。
「ヨシ、ゼンモクヒョウ、クリア!」
「すごーい! 皆さん、まだ全然後ろでモタモタしてるよ」
負けるわけにはいかない戦いというのは、やはり通常時より緊張する。それはAIでも同じだった。いつもより三割り増しで消費エネルギーが多かった。その上で、未だ『アリアの幸せ』についてシミュレーションを走らせている。
「ウハハハ、ワレガ、サイキョウノBMナリ〜」
メインコンピュータを使い過ぎて軽い熱暴走に陥っており、冷静な判断ができなくなりつつあるスーパーAI。コンソールの中のちびキャラの目もキマっていた。
「ホラ、ホメテ、ホメテ」
「きゃーー、すてきー、もう抱いてー……って、あん、今のは無しね」
「アリア……」
プラトニックと言い続けた立場を崩したくない。だから『どうにか無理矢理襲ってほしい』というのがアリアの心情。しかし自分ももっとイチャイチャしたくて仕方がない。ここは強引な手段でいくことに決めた。
「あー、なんか身体が火照ってきちゃった。暑いなぁ。暑いから……スパッツだけ脱いじゃおうかなぁ」
ミニスカートに手を入れると、スパッツを脱ぎ始めるアリア。チラチラと白いレースの布地がオリハの視界に入ってくる。
「ウヒョー! ナニソレー! モウ、シンボウタマラン」
3Dスキャンで完璧な下着のモデリングを作りたいオリハ。自然に覗けるハプニングの発生確率を別シミュレーションで走らせる。
「オット〜」
急に躓くBM。衝撃に両足が上がりミニスカートが舞い上がる。
「やだ〜、もー、エッチー」
「ア、アリア……」
ちびキャラがコンソールの中から熱視線を向けるとアリアもじっと見つめてしまう。そっと俯いて目を閉じて唇をコンソールに近づける。
数秒の幸せな沈黙。
『――アリア機、急ぎ過ぎだぞ。焦るな。ここから長距離ターゲットのゾーンだ』
無粋な無線で邪魔されてイライラのパイロットと戦闘AI。二人してロイド機を睨みつける。
この瞬間、ロイドは寒気を感じていた。
◆
「アイツら……アリア、オリハ、聞こえるか?」
『――オリハ、すぐに片付けようよ』
『――モチロン!』
無線から聞こえてくる真逆のやり取り。頭を抱えているうちにアリア機は突き進んでいく。
◇
『――勝手にしろ! ただし負けたら特訓だぞ!』
聴こえてくる味方の無線をそっと小さくする戦闘AI。ゾーンとゾーンの繋ぎ区間でイチャイチャしたくて仕方がない二人。真っ当なアドバイスの真逆な作戦を立てるとBMをフル加速のローラーダッシュで進める。
『――あっ、コラ! ま、待てと……』
「いけーーっ!」
「アイヨー!」
敵の射撃を避けながら狙撃地点に向かうアリア。大体の移動プランをアリアが考えて操縦桿とスロットルを操作。それをフォローするオリハ。アリアの反射神経とオリハの弾道予測は相乗効果も相まって苛烈な銃撃の中に突き進んでも致命傷判定を出させなかった。
「狙撃地点、着いた!」
「ヨシ、ココカラ、コウゲキデキル、ターゲット、ダヨ」
メインモニターにターゲットが視覚化されていく。しかも、まるでFPSゲームでチートを使ったように、目視できない超遠距離から丘に隠れたターゲットまで全ての位置がマークされている。
「アリア、ゼンブ、ウッテヨシ!」
「らじゃーっ!」
胸を逸せて敬礼しながらウインクするアリア。あざといポーズに撃沈のオリハ。アリアに狙撃用のゴーグルを被せると、速攻でASMRよろしく耳元で囁き始める。
「ア……アリア……」
「ダメよ……訓練中よ」
巧みにマジックハンドをアリアに絡ませてゴーグル内の3D映像とリンクさせる。ここでCPUの能力限界を超えた。適当なタスクを切り捨てながら『如何にエロいことに持ち込めるか』を全力でシミュレーション開始。
確実なプランを即時実行。
「ウシロカラ、ササエテアゲル」
何故かアリアの両胸を支えらように下から抱き抱えた。
「アァァ、ヤワラカイ……ナンドサワッテモ、ヤワラカスギ〜」
「こらっ。あんまり触っちゃダメよ」
全く本気さを感じないアリアのクレーム。ゴーグルの中では八頭身イケメンが背後から優しく抱き締めてくれている。逞しい腕や大きな掌、細く長い指の感触は映像と完璧にシンクロしていた。
背中には体温を、耳元には囁き声と甘い香り。アリアの肢体がピンクに染まり鼓動が高鳴る。
「オ、オリハ……早く……」
背中越しに潤んだ瞳を上目遣いに向けるアリア。
「アリア……アッ……アッ……」
声を上擦らせながら両腕に力を込めるオリハ。ここでアリアはキリッと真正面を向いた。
「早く終わらせて二人の時間を作りましょう!」
「アイヨー!」
両手のアサルトライフルを背中に格納しながらコクピット内ではターゲットがロックオンされていく。右手に粒子ビーム砲、左手に百四十ミリ滑空砲を構える頃には全てのターゲットがロックされていた。
「はぁはぁはぁ……とっとと終わらせるわよ〜!」
息が荒いのは、ただ性的に興奮しているだけだ。
このゾーンのターゲットは遠く離れた場所に設置された地上走行型ドローンで射撃ポイントへ迅速に移動する戦略と、移動標的への精密射撃の能力が必要な演習となっている。
ターゲットに近づけば、それだけ時間が消費されるし接敵する可能性も高くなる。それらの状況を鑑みて最適な作戦を立てる能力が最も重要かもしれない……と、小難しいことを沢山考えて企画された演習だった。
「スラスター準備、レディー……」
ゴーグルに映るターゲットの位置を確認すると、スラストレバーに手を伸ばす。
「ゴーーーッ!」
叫ぶより早くレバーを押し込むと、BMはフル加速で前進する。無人砲台がペイントボールを放つが着弾は機影の遥か後方だった。
「まず一つ目〜」
スラストレバーから手を離して両手で操縦桿を握り締めると、ミニスカートから覗く両足を巧みに使ってヨー軸を調整する。更に細かな照準をトグルスイッチで調節すると、即座にトリガーを引き絞る。
それを左右の手で殆ど同時に操作していた。粒子ビームと徹甲弾は交互に発射されると山なりの軌道でターゲットへ吸い込まれていく。
「ヨソク、バッチリ!」
オリハはアリアの見ている映像に移動するターゲットの予測地点を表示していた。複数ターゲットのランダムに近い動きを弾道の異なる粒子ビームと徹甲弾で当てる為、風速、慣性、重力など多種多様な条件を加えてリアルタイムでシミュレーションしていた。其々の弾道予測は完璧で無駄弾無しで撃破していく。
「流石オリハ。やっぱりカッコいいわよ!」
「ア、アリアモ、カワイイヨ」
「いやーーん」
ピンクの空気に包まれるコクピット内。反対に死神そのものの雰囲気を醸し出しながら高速で移動していく最強BM。速度そのままに小高い丘を駆け登ると、突如アリアはスラスターを全開にして二百メートル程上空にジャンプした。
強烈なGがアリアを襲う。そして推力と重力の均衡が保たれた一瞬の静寂。
「くはぁっ! さーて、ボーナスタイムよー!」
ここでターゲット全てに射撃可能のマークが付与された。オリハすら思いつかなかった戦略。もっとも、実戦で同じことをすれば地上の全ターゲットから苛烈な反撃を受けることになるだろう。
「当たれ当たれ当たれ、あったれーー!」
地上を走行する豆粒ほどにしか見えないターゲットがみるみる撃破されていく。一度のジャンプで全てのターゲットを破壊すると足早に最終ゾーンへ機体を向けた。
◇
「んふふ、さぁ、少し休憩しましょうか。暑いし上着も脱ごっと」
オートパイロットで進む機体の中、ゴーグルをつけたままミリタリージャケットを脱ぐアリア。オリハの八頭身モデル(とマジックハンド)は脱ぐのに邪魔にならないよう抱きつくのをやめて少し下がった。ジャケットを畳むと座席の下にポイっと放り投げる。
Tシャツとミニスカだけになってチアガール顔負けのエロい衣装の美少女と密閉空間で二人きりの状況に最大限興奮するオリハ。
「アアア……」
各種シミュレーションを動かしたまま今のアリアの3Dモデル作成の為にスキャンを開始。またもや適当に動いているタスクをキルしてCPUの空きを無理矢理作る戦闘AI。
「アア……」
ゴーグル内の仮想空間で八頭身モデルを移動して操縦席に座るアリアを正面から見つめる。激闘の為に軽く汗をかいてほんのり赤みの刺す肌が美しい。ここで何らかのパラメーターが振り切れた。
「ア……アリアーー!」
魂の叫びと共にゴーグル内で作られる仮想空間のレベルを跳ね上げる戦闘AI。画質の精密さを格段に上げると八頭身イケメンの腕に透ける血管すら表現された。あまりの生々しさに驚いてゴーグルが少しズレた、が視界の中のオリハの顔は動くことは無かった。
「あれ……?」
まるでメガネがズレただけの感じ。ゴーグルがズレれば中の液晶の位置がズレるので映る画像の見え方も変わるのが普通。そこは超高性能AI。ゴーグルの位置と瞳孔や虹彩の位置から巧みに視線をシミュレート。映像位置やフォーカスを修正して超精密AR映像をリアルタイムで見せているので、もはや仮想空間か現実か人間の脳で判別することは不可能なレベルだった。
そんな高精度の3Dモデルは突然着ていた上着を脱ぎ捨てた。汗ばむ逞しい上半身に目を奪われていると、これからされることを想像して身震いするほど興奮してしまう。
「オリハ……」
「ハァハァ……アリア……」
八頭身イケメンがゆっくりとアリアの肩を抱くと、アリアには柔らかな感触と温かみを感じることができた。耳元で聴こえるマシンボイスの荒い息すら方向と距離感を3D再現される為、アリアを急速に仮想空間へ没入させていった。
「カワイイヨ」
「っ!」
囁く声が耳を通してアリアの脳を焼いていく。そのままゴーグル内のオリハが真正面からアリアを抱き締める。アリアには目の前の男の体温はおろか、汗に濡れた皮膚の感触や肩に感じる体重まで感じられた。
「……温かい……もっと強く抱いて……」
あまりのリアルな感覚に何が現実か全く分からなくなっていく。オリハはマジックハンドと触手を巧みに使って重さと温かさを再現している。コクピット内のアリアはマジックハンドと触手で出来た魔物に取り込まれているかのようにも見えた。
アリアの目に映るオリハの首筋の汗。肌の内部構造から水分子の動きまでシミュレーションしているので、もはや自分がゴーグルを掛けていることすら忘れてしまった。
「オリハ……」
アリアを興奮させる為にシミュレーションをぶん回していたが、幾つかの作戦が提示されていた。それに片っ端から乗っかるオリハ。
「アリア、ミテ。ジブンノ、カラダ」
3D空間に大きな鏡を作り出すと、八頭身イケメンの背中越しに力強く抱きしめられた自らの身体が映っている。
「オリハ……って、あれ、ゴーグル……」
鏡の中の自分はゴーグルをしていなかった。慌ててゴーグルを確認しようとしたが、オリハが抱きついているので触れない。鏡に映る逞しい背中に目を奪われているうちにゴーグルのことなど忘れてしまった。生々しい映像に興奮していると、二人の服が全て溶け落ちて生まれたままの姿になっていく。
「えっ、えーっ?」
八頭身オリハが身体を少し避けると鏡には下半身まで裸になったアリアが映っていた。足を開いていたので大事なところまで丸見えだ。慌てて足を閉じて胸を腕で隠す。
「なんで……あれ? あれれ? 服着てたのに……あっ」
掌に何となく服を感じる。しかし目の前の鏡には裸の自分が映っている。恐る恐る胸を鏡に映すと張りのある小さな胸と興奮して真っ赤になった小さな突起が見えていた。
(私、興奮してるんだ……)
咄嗟にまた両腕で隠すが突起に腕が当たるだけで声が出そうなほどの快感が襲う。アリアの脳が違和感を感じるのを放棄した時、オリハが優しく耳元で呟く。
「アリア、ウレシイヨ。キレイナ、カラダヲ、ミセテクレテ……」
「あん、オリハ……オリハ、オリハ!」
♡♡……
仮想空間の中、肌と肌を重ねて抱き合う二人。夢心地で唇を重ねようとしたその瞬間。
『――アリア、何してる! お前らも撃墜判定だぞーっ!』
ロイドの大声が無線で入ってきた。
「はぁ?」
ゴーグルを無理矢理顔から外すと、マジックハンドと触手が身体のあちこちを押さえつけていた。
(現実ぅーーっ!)
一瞬で何故か悲しくなり涙が出そうになる。
「ブタイウラ、ミチャダメー」
「もういい! 状況、どうなってるの? ねぇ、周辺監視してないの?」
コンソールのちびキャラの顔がみるみる青ざめていく。いつの間にか監視タスクも防衛タスクもキルしてしまっていた。アリアとの邂逅を完璧なものにする為、オリハは自分のCPUパワーの殆どを使っていた。
「ゴメーン……ユルシテ」
無視してコクピットハッチを開けて肉眼で状況を確認。いつの間にか色とりどりのペンキが自機を染めていた。ふと、自分が裸なのか服を着ているのか分からなくなる。
「ぎゃーー! 裸……じゃない。良かった、服着てたぁ」
ホッと胸を撫で下ろしていると、横にゴツいBMが近づいてきた。ハッチが開くと、そこにはヘルメットをした兵士が座っている。シートベルトとヘルメットを外して立ち上がると、それがオリバーと呼ばれた伊達男だと気づいた。
「ヘーイ、エンジェル。それではデートの予定はまたメールで送るよ。バイバーイ」
ウインクすると、こちらが返事をする前に去っていった。遠くからは罵声と歓声が聞こえてくる。
「あーあ、やらかしちゃった……」
ペイント塗れのロイド機は何も言わずにハンガーへ去っていく。代わりに同じようにペイント塗れのカミナ機が近づいてきた。
『――それじゃあ二人でダブルデートといきますか』
「へ?」
カミナ機のコクピットハッチが開くと楽しそうなカミナの姿があった。
「いや、アタシも約束してたんだよねー。負けたらデートしてやるって、ね」
「何それ……」
風が吹くとアリアのミニスカートがはためいて真っ白な下着がチラチラ見えた。それを広報用の傭兵団公認ドローンが撮影していることに気づいて慌ててスカートを抑えながら叫ぶ。
「な、何なの、これーー?」
Sector:07 End
――若気の至りで失敗というのは仕方ないものだ
――特に性欲が絡むととんでもない失敗をするものだ
――イケ、アリア。誰も人の失敗なんて覚えてない。そうだ、自分以外は。
二人の絆の回数:五十四回(コッソリと+2回)




