Appendix06:P22後の夕食時
「食欲……ありません……」
「アリア、ヘヤデ、ヤスム?」
「うん……そうしよっかな……」
葬儀後、全く元気がないアリアを気遣うAI。すぐにこの土地を離れたかったがキャラバンの都合でもう一泊して早朝に出発と決まってしまった。
「カミナさん、ロイドさん……私、部屋に戻ろうと……」
ビーチ近くのホテルは葬儀を思い出してしまうからコクピットの中で寝ると言い出す始末だったので、強引に繁華街に鎮座する高層シティーホテルへ連れてきていた。
「アリアちゃん。夜景綺麗よ。ほら、飲み物だけでも飲みなさい」
今は最上階のおしゃれレストランに三人とドローンで座っている。時折ぼーっと窓の外を眺めるアリアは見るからに生気がない。
「ほら、フルーツなら食べられるか? 無理なら包んでもらうぞ?」
「はい、これ優しい味だから飲みなよ」
シスコンのロイドも心配そうだ。カミナすら声がいつもより五割り増しで優しい。
「うん……」
ここはホテル・メサイヤから離れたブロックにあってアリアのイメージする『港町』からかなり外れている。近くの席では美人の集団が女子会を開いているし、静かな音楽は大人のムードたっぷりだ。
戦場を全く感じない雰囲気。まるで元の世界に戻ったように思えてくる。
「可愛い……」
テーブルの上に載る飲み物や食べ物も洗練されている。洒落た格好のウエイターが運んできたドリンクも色とりどりのフルーツが飾り付けられていた。グラスの中の液体も七色の層を作っている。
「……」
無言でスマホを取り出し写真に収めるアリア。画角が気に入らないらしく、少しだけ身を縮めて撮り直し始めた。角度を変えながら数枚続けても納得がいかないらしくグラスを回転させている。ストローの角度を調整しているところでカミナとロイドから不思議そうに見られているのに気づいた。
「あっ……いえ、オシャレだし……癖で……」
カミナとロイドが顔を見合わせた。数秒すると二人とも同時に吹き出した。
「いや、良いんだ。まるで広告屋か従軍カメラマンだなって感心してただけだ」
「そうよ。アリアちゃんの撮る写真が綺麗なのは努力の結果だったのね。よっ! 流石はユーロチューブのアイドル」
「や、やめてください……」
頬をほんのり紅く染めているアリア。照れ隠しにストローで液体を軽く混ぜてから飲んでみると美味しさに目を見張った。
「すっごい美味しい……スタパにも負けてない……」
七色の層は虹のように広がり崩すのが勿体無いくらい。うっとり眺めているとカミナがそっと手に持った。
「こうすると更に美味しいのさ」
「あああぁぁぁ……」
徐にかき混ぜると層が均一に混ざって綺麗なピンク色に変わってしまった。
「はい」
「んー……ありがとうございまーす……」
そっと口にストローを運ぶアリア。
(うぅ……やっぱりこっちの方が美味しい……)
そこから一時は悲しいことを忘れて飲んだり食べたりしていた。
◇◇
テーブルにグラスの山は築かれなかったが、それはこの店のウエイターが優秀なだけで、三人ともそれなりのアルコールを体に流し込んでいた。ここで顔を真っ赤にしたアリアは突然席を立った。
「トイレ……行ってきます……」
「大丈夫? 気持ち悪くない?」
「えっ? あっ、はい……」
アリア含めて全員が前回の初アルコールは散々だったことを思い出した。今日も結局飲み過ぎだが、顔は青くなっておらず真っ赤になっている。軽く千鳥足だったがまっすぐトイレに向かって歩いていった。
「アリアは大丈夫なのか?」
「まぁ二日酔いにはなるだろうが……吐くことはあるまい。テキーラ一気飲みもさせてないしな」
「当たり前だ……」
ロイドはグラスを傾け琥珀色の液体の中の氷を眺めていた。カミナは楽しそうにビールを飲んでいる。
「悲しい時は酒に限る。まして友人が死んだ時は無理してでも飲まなきゃな」
「そうか?」
ふとカミナを見ると窓の方を向いている。しかし夜景ではなく遠い何かを見ているように思えた。
「まぁ、互いに色々と経験はありそうだけど……」
「……ん? あぁ、本当に悲しい時は酒なんて飲めねーよ。だからアリアはもう大丈夫だ」
「いや、それは……まぁ合ってるか。はは、酒飲みのお前が言うと含蓄があるな」
「そうだよ」
黄昏るカミナとそれを眺めるロイド。ここで突然ドローンがテーブルの上に現れた。音もなく光学迷彩を張ってホバリングしていたらしい。
「うおっ! ビックリさせるなよ」
ロイドは驚いているがカミナは慣れたようだ。視線は向けているが特に気にしていない。浮かぶドローンを魚にビールを再び飲み始めた。
「カミナ。アリア、ニ、ノンレムスイミン、ステージN2ヲケンチ」
「はぁ?」
ドローンに詰め寄る筋肉女。ここでロイドが吹き出した。
「じゃあ責任とってくれよ。アリアはトイレで寝てるらしい」
「……くーっ、まぁ多少は進化したか。部屋に放り込んでくるよ」
立ち上がってドローンに顎で指示すると大人しく飛んでいく。それを露払いにしてトイレの方向に歩いていく。歩調に乱れはない。何事かと近づいてくるウエイターにはロイドが声をかけた。
「勘定は702につけておいてくれ。思ったより楽しく飲めたよ」
毎日(平日)投稿を続けるために、以降のAppendixは不定期更新になります。その代わり最後までやり切りますので!




