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第9話 十三分の降下

『帰還処理開始まで、残り十二分五十九秒』


 地下十三階の壁に開いた亀裂。


 その向こうには、下へ続く十段の階段があった。


 一段ごとの高さは、一般的な階段と変わらない。


 だが最下部にある扉には、二十三という数字が刻まれている。


 わずか十段で、地下十階分を降りる。


「距離の圧縮を確認」


 水城澪が端末を向ける。


「各段の間に、独立した時象空間が挟まっています」


「一段ごとに一階ってこと?」


 柊真白が暗い階段を覗き込んだ。


「空間だけなら、そうです」


「時間も何かある言い方だな」


 荒牧岳が負傷した左肩を押さえる。


 止血材は血を吸いきり、黒く変色していた。


「各段の先を観測できません」


 澪が答える。


「踏み込んだ時点で、何かが起きます」


「戻れるか」


 久世玲司が尋ねる。


「不明です」


「便利な階段だな」


 荒牧が吐き捨てた。


 瀬名冬真は、階段の最初の一段を見つめていた。


 見覚えがある。


 黒い床。


 側面に付着した、乾いた手形。


 何度もここを通った。


 誰かを連れて。


 あるいは、一人で。


「俺が先に行く」


「負傷者が先頭へ出るな」


 久世が冬真の肩を掴んだ。


 冬真の肋骨も折れている。


 呼吸するたび、胸の内側に鈍い痛みが走った。


「俺に反応して開いた」


「だからだ」


「何か起きるなら、俺が最初に受けたほうがいい」


「その考え方をやめろ」


 久世の声が低くなる。


「お前は自分が生き残るから、ほかを庇っても問題ないと思っている」


「そんなことは――」


「未来のお前も、同じだった」


 冬真は黙った。


 二十七年後の自分。


 胸に切除核を埋め込み。


 人間とは呼べない身体となり。


 それでも一人で、二百十三番の収容室に残っていた。


「隊列は俺が決める」


 久世が階段へ向き直る。


「俺と冬真が前。中央に澪と榊。真白は後方。荒牧は――」


「前に出る」


「その肩で?」


「右腕は動く」


「盾もない」


「だから邪魔にならねえ」


 荒牧は初代第六封鎖班が残した古い銃を拾い、右手だけで構えた。


「それに、後ろにいたって左肩が治るわけじゃねえだろ」


 久世は数秒考えた。


「冬真の左につけ」


「了解」


「榊」


 久世が振り返る。


 主任監察官の榊宗一郎は、階段から距離を取っていた。


「行かない」


「選択肢はない」


「地下二十三階へ入れば、切除対象に登録される」


「すでに名前が出ている俺たちと違って、お前は無関係か」


「そういう意味じゃない」


「なら説明しろ」


 榊は唇を噛んだ。


『残り十二分三十一秒』


「時間がない」


 冬真が言う。


「ここに残るなら残れ」


「冬真」


 久世が制する。


「ただし」


 冬真は榊から目を逸らさない。


「帰還処理が始まったとき、ここが安全だと思うならな」


 地下十三階の廊下。


 足首まで積もった灰が、風もないのに動き始めた。


 二百を超える帰還失敗者の残骸。


 灰が細い筋となり、榊の足元へ集まっていく。


 中から、白い指が伸びた。


 榊の足首を掴む。


「っ……!」


 灰の下で、何百もの口が開く。


 声は出ない。


 ただ歯だけが噛み合い、榊の革靴へ食い込んだ。


 榊が拳銃を抜き、床へ発砲する。


 灰が跳ねる。


 だが指は増えた。


 足首。


 脛。


 膝。


 帰れなかった者たちが、榊の身体を床下へ引きずり込もうとしている。


「助けろ!」


 冬真は動かなかった。


「地下二十三階に何がある」


「今それを聞くのか!」


「答えろ」


 灰の中から顎だけの顔が現れ、榊のふくらはぎへ噛みついた。


 肉が裂ける。


「ぐあっ!」


 鮮血が灰を濡らした。


「切除装置だ!」


 榊が叫ぶ。


「瀬名冬真が作った、時象切除装置がある!」


 冬真が刀を抜く。


 一閃。


 榊へ絡みついていた指がまとめて断たれた。


 荒牧が榊の襟を掴み、階段側へ引きずる。


「最初から言え」


 切断された指は灰へ戻らず。


 床の上で、しばらく冬真へ向かって這い続けていた。


 ◇


 一段目。


 冬真が足を下ろした瞬間。


 周囲から、音が消えた。


 久世の口が動いている。


 だが声が聞こえない。


 真白が背後で何かを言っている。


 銃の金属音さえ消えている。


 代わりに。


 冬真自身の心音だけが聞こえた。


 一度。


 二度。


 三度。


 右側の壁に、赤い文字が浮かぶ。


 地下十四階。


 目の前には、狭い病室があった。


 寝台の上に、一人の少年が横たわっている。


 八歳の冬真。


 胸部を切り開かれ、赤い切除核を露出させられていた。


 白衣の職員が、少年の臓器を一つずつ金属容器へ移している。


 心臓。


 肺。


 肝臓。


 それでも少年は生きていた。


 目を開き。


 冬真を見ている。


『助けて』


 音のない空間で、少年の声だけが聞こえた。


 冬真が近づこうとする。


 久世に腕を掴まれた。


 声は聞こえない。


 だが口の形で分かった。


 見るな。


 病室の職員が、少年の頭蓋へ器具を入れる。


 白い脳組織が摘出される。


 少年の瞳から涙が流れた。


『忘れたくない』


 冬真は刀を握る。


 病室は過去の記録だ。


 斬っても救えない。


 分かっている。


 それでも。


 少年の頭部が空になるまで、背を向けられなかった。


 視界が暗転する。


『残り十一分二十六秒』


 音が戻った。


「一分以上減った」


 真白が時計を見る。


「一段で一分?」


「映像を見ていた時間と一致します」


 澪が言う。


「止まれば、その分だけ現在側の時間が進む」


「走り抜けるぞ」


 久世が指示する。


 二段目。


 地下十五階。


 今度は、荒牧が止まった。


 広い居間。


 食卓。


 荒牧が見たことのない女と、小さな少女が座っている。


「お父さん」


 少女が呼ぶ。


 荒牧の顔から表情が消えた。


 女は盾の中から聞こえた声と同じだった。


 未来の荒牧が語りかけていた、存在しない妻。


「岳」


 女が立ち上がる。


 腹部が大きく膨らんでいる。


「今度は、間に合ったのね」


 荒牧が一歩近づく。


 冬真は右手で荒牧の装備を掴んだ。


「違う」


「離せ」


「これは記録だ」


「分かってる」


「なら進め」


「分かってるって言ってんだろ!」


 荒牧が冬真の手を振り払う。


 食卓の下から、黒い腕が伸びた。


 女の足を掴む。


「岳?」


 女が床へ引き倒された。


 腹部が机の角へぶつかる。


 鈍い音。


 床へ血が広がる。


 少女が悲鳴を上げる。


 黒い腕が少女の頭を掴み、壁へ叩きつけた。


 一度。


 二度。


 三度。


 幼い頭部が割れ、白い壁へ赤いものが飛び散る。


「やめろ!」


 荒牧が銃を向けた。


 冬真は銃身を掴み、上へ逸らす。


 発砲。


 弾丸が天井へ消えた。


「撃っても変わらない!」


「だったら見てろってのか!」


「進むんだ!」


 荒牧の右拳が冬真の頬へ入った。


 冬真は避けなかった。


 口の中が切れる。


 血を吐き。


 荒牧の胸元を掴む。


「今のお前がここで止まれば、同じものがまた生まれる」


 荒牧の目が冬真を見る。


 食卓の向こうで。


 女の腹が裂かれていた。


 胎児を引きずり出す黒い腕。


 荒牧の呼吸が乱れる。


 それでも。


 目を閉じ。


 一歩、階段を下りた。


 光景が消える。


『残り九分四十八秒』


「……悪い」


 荒牧が言った。


 冬真は腫れた頬を拭う。


「問題ない」


「あとで、もう一発殴らせろ」


「なぜ」


「今の分は謝ったからだ」


 三段目。


 地下十六階。


 真白が、血まみれの自分を撃ち殺していた。


 四段目。


 地下十七階。


 澪の脳が透明な容器へ移され、何百年もの消失区を観測させられていた。


 五段目。


 地下十八階。


 久世が、帰還不能となった冬真の首を散弾銃で砕いていた。


 誰も止まらなかった。


 見ずに進むこともできなかった。


 ただ。


 その場へ留まらず、一段ずつ下りた。


『残り七分十一秒』


 六段目。


 地下十九階。


 何もなかった。


 白い部屋。


 椅子が一つ。


 机の上に拳銃。


 榊だけが立ち止まった。


「これは」


 榊が呟く。


 椅子には、若い榊が座っている。


 現在より二十年ほど若い。


 机を挟んだ反対側に、八歳の冬真がいた。


『名前を教えてくれ』


 若い榊が尋ねる。


『覚えてない』


『家族は?』


『いない』


『あの女の子は?』


 幼い冬真の表情が怯えに変わる。


『知らない』


 若い榊が記録用紙へ何かを書く。


 監理対象。


 帰還者一号。


 人格再形成、継続。


『君は今日から、瀬名冬真だ』


 榊の顔が強張った。


「名前をつけたのは、あなたなのか」


 澪が問う。


「違う」


「映像では」


「瀬名冬真という名前は、帰還時の認識票にあった」


「では、なぜ今の言い方を」


 榊は答えない。


 映像の若い榊が続ける。


『君には家族はいない』


『過去もない』


『あの少女は、君を利用する欠落体だ』


 幼い冬真が、小さく頷いた。


 榊が目を逸らす。


「進め」


 冬真が言った。


「何も聞かないのか」


「聞く」


 榊を見る。


「生きて戻ったあとにな」


 榊は拳を握り締め、階段を下りた。


 七段目。


 地下二十階。


 赤い空の下。


 何百万人もの死体が積み重なる東京。


 その頂点に、大人の冬真が立っていた。


 周囲には、いくつもの巨大な時計。


 すべてが午前二時十三分を指している。


 大人の冬真は、血まみれの手で制御盤を操作していた。


『第一切除を開始する』


 現在の冬真が立ち止まる。


 この記録は、ほかとは違った。


 身体の奥から。


 自分の記憶だと分かる。


『対象時間を現在から分離』


『生存可能性の高い過去座標へ接続』


 機械音声。


『切除対象人口、九百八十二万六千四百十一名』


 大人の冬真の手が止まる。


 背後では。


 黒い仮面を外した女が、膝をついている。


 成長した妹。


 顔はまだ光に隠れ、見えない。


『やめて』


 妹が言う。


『ほかに方法がない』


『ある』


『何だ』


『ここに残る』


『全員死ぬ』


『だからって、いなかったことにするの?』


 大人の冬真は制御盤を見る。


『次の時間では救う』


『今いる人たちは?』


『記録を残す』


『記録じゃない!』


 妹の叫び。


『みんな、まだ生きてる!』


 遠くで巨大な何かが動く。


 東京の向こう。


 空を覆うほどの黒い影。


 形は見えない。


 見ることすら許されていないように、映像が激しく乱れる。


 機械音声が告げる。


『外部事象、接近』


『世界存続率、零・零零零一パーセント』


 大人の冬真が目を閉じた。


 そして。


 制御盤へ手を置く。


『俺が始める』


 妹が冬真の腕へしがみつく。


『お兄ちゃん!』


『次では、間違えない』


『次なんてない!』


『作る』


 冬真の指が沈む。


『何度でも』


 赤い光が東京を覆った。


 何百万もの人間が。


 建物が。


 血が。


 悲鳴が。


 薄い紙のように剥がれ、黒い空間へ飲み込まれていく。


 大人の冬真だけが。


 最後まで立っていた。


『俺が、全員を救える時間まで』


 赤い光が弾ける。


『やり直す』


 光景が消えた。


 現在の冬真は階段の上に立っていた。


 誰も声を発しなかった。


 ついに。


 曖昧な記憶でも。


 他人の証言でもなく。


 記録として示された。


 時象切除を始めたのは。


 瀬名冬真。


「俺がやった」


 冬真が呟く。


 久世は否定しなかった。


「九百万人を切り捨てた」


「その時点では、救うつもりだった」


 真白が言う。


「結果は同じだ」


「でも」


「俺が決めた」


 冬真の手が震えていた。


 刀を握る。


 指へ力を込め、震えを止める。


「俺が、次なら救えると決めつけた」


 赤い光景の中で。


 妹だけが、最後まで止めようとしていた。


 仮面の女は敵ではない。


 少なくとも最初は。


「進むぞ」


 冬真は次の段へ足を置いた。


「責任を取るんじゃなかったの?」


 真白が問う。


「取る」


「そんな顔で?」


「どんな顔だ」


「全部一人で背負って、また同じことをしそうな顔」


 冬真は振り返らなかった。


「なら止めろ」


「言われなくても」


 真白が続いた。


 荒牧。


 澪。


 久世。


 榊。


 全員が階段を下りる。


 八段目。


 地下二十一階。


 そこには、二百十二人の冬真が並んでいた。


 年齢も。


 服装も。


 傷も違う。


 王のような装束を纏う冬真。


 欠落体の骨を身体へ埋め込んだ冬真。


 両目を失った冬真。


 幼いままの冬真。


 誰もが手を赤く染めていた。


『次なら救える』


 二百十二人が同時に言う。


 現在の冬真は、彼らの間を歩いた。


 誰も斬らない。


 誰の言葉にも答えない。


 九段目。


 地下二十二階。


 仲間たちの死体が並んでいた。


 現在の第六封鎖班。


 荒牧は身体を縦に裂かれ。


 真白は両目へ自分の銃弾を撃ち込まれ。


 澪は頭部を開かれ。


 久世は冬真の刀で胸を貫かれている。


 榊だけが生きていた。


 死体の中で、切除装置を操作している。


『帰還処理を開始します』


 映像の榊が言う。


『管理者、瀬名冬真を地下二十三階へ移送』


「俺がやるのか」


 現在の榊が、掠れた声を漏らす。


 映像の中の榊は、背後から伸びた白い腕に操られていた。


 指が不自然に曲がり。


 骨が皮膚を突き破っている。


 それでも操作を止めない。


「誰の腕だ」


 冬真が尋ねる。


 榊は答えられない。


 白い腕の先は、映像の外へ続いていた。


『残り二分十七秒』


 最後の一段。


 地下二十三階。


 冬真が足を下ろす。


 階段が背後から消えた。


 戻る道はない。


 目の前に。


 巨大な円形空間が広がっている。


 壁も。


 天井も。


 床も。


 何百万枚もの認識票で埋め尽くされていた。


 一枚ずつ。


 名前が刻まれている。


 切除された人間たちの名前。


 中央には、黒い椅子。


 椅子の前に、赤い制御盤。


 二十七年後の冬真が使っていたものと同じ長刀が、床へ突き立てられている。


『管理者の帰還を確認』


 機械音声が響く。


『時象切除装置を起動します』


「停止しろ」


『命令を拒否します』


「管理者は俺だ」


『はい』


「なら止めろ」


『管理者、瀬名冬真による最上位命令が登録されています』


 壁の認識票が一斉に震える。


『いかなる時間の瀬名冬真による停止命令も、受理しない』


 冬真の顔が強張る。


 過去の自分が。


 未来の自分たちが止めようとする可能性まで考え。


 あらかじめ封じていた。


『対象者を配置します』


 床が開く。


 五本の黒い柱が上昇する。


 それぞれに。


 人間が固定されていた。


 久世玲司。


 柊真白。


 荒牧岳。


 水城澪。


 榊宗一郎。


 現在の本人たちと同じ姿。


 同じ傷。


 同じ装備。


 全員が死亡している。


 荒牧の身体は腹部から上下に分かれ。


 真白の喉には、冬真の刀が突き刺さっていた。


 澪の頭蓋は空だった。


 久世は両腕を失い。


 榊の背中からは、白い腕が何本も生えている。


「これが三日後の私たち?」


 真白が呟く。


「違います」


 澪が端末を確認する。


 画面には。


 現在時刻が表示されていた。


 午前二時十一分。


「三日後ではありません」


『帰還処理開始まで、残り一分四十九秒』


 柱の上の死体が、一斉に目を開いた。


 死んだ真白が。


 喉に刀を刺したまま笑う。


「やっと来た」


 死んだ久世が、腕のない身体を起こす。


「遅いぞ、冬真」


 死んだ荒牧の上半身が、床を這う。


「もう一回、始めようぜ」


 死んだ澪の空の頭蓋から、機械音声が響く。


『第五回帰還処理を開始します』


「第五回?」


 現在の真白が呟く。


 死んだ真白は、口から血を溢れさせながら答えた。


「私たちだけで」


 喉の刀を両手で掴む。


 自ら引き抜く。


 血が柱を濡らした。


「もう四回、ここまで来てる」


 冬真の右目に。


 四つの未来が流れ込む。


 一度目。


 荒牧が死ぬ。


 二度目。


 真白が死ぬ。


 三度目。


 澪が死ぬ。


 四度目。


 久世が死ぬ。


 そのたびに。


 冬真は切除装置を起動し。


 十三分前へ戻っていた。


 地下十三階の。


 帰還予定時刻が更新された瞬間まで。


「俺たちは」


 冬真が呟く。


「もう、この十三分を繰り返してる」


『残り一分三十一秒』


 壁から、白い腕が現れた。


 一本。


 十本。


 百本。


 認識票の隙間を押し広げ。


 指先から血を垂らしながら、円形空間へ伸びてくる。


 そのすべてが。


 冬真を指していた。


『管理者を確保します』


 冬真は刀を構える。


「久世さん」


「何だ」


「次はない」


 久世が散弾銃へ弾を込める。


「ああ」


 真白が狙撃銃を上げる。


「今度は誰も死なせない」


 荒牧が片腕だけで古い銃を構えた。


「最初からそのつもりだ」


 澪が冬真の装備へ端末を接続する。


「百八十七方向から攻撃が来ます」


「処理できるか」


「十一方向までです」


「残りは俺が見る」


 榊だけが動けずにいた。


 柱の上。


 未来の自分の背中から生えた白い腕を見つめている。


「榊」


 冬真が呼ぶ。


「お前があれを動かしてる」


「俺じゃない」


「分かっている」


「なら」


「自分の身体を取り返せ」


 榊は現在の自分の手を見る。


 そして。


 床に落ちた拳銃を拾った。


『残り一分十三秒』


 白い腕が一斉に動く。


 冬真の未来残響が開いた。


 百八十七の攻撃。


 五人の死。


 四度の失敗。


 すべてを見た。


 その中に。


 まだ一度も選ばれていない道がある。


 冬真は一歩前へ出た。


「第六封鎖班」


 久世が命じるより先に。


 冬真の口から言葉が出た。


「切除装置を制圧する」


 仲間たちが応える。


「了解」


 白い腕の群れへ。


 五人が同時に踏み込んだ。


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