第41話 天皇賞・秋
【インターネット・競馬実況スレ】
『【秋天】天皇賞・秋 実況スレ』
>いよいよ秋天か
>ロードカイザー1番人気
>菊花賞回避してこっち一本に絞ってきたからな
>古馬相手にどこまでやれるか
>ダービー同着馬の実力見せてもらおうか
>パドック来た
>カイザーめちゃくちゃ気合入ってる
>馬体もいいな
>春より明らかに良くなってない?
>絞れてる
>鷹騎手も表情が違う
>そりゃワスレナグサに三冠全部持ってかれたからな
>カイザー陣営はここが正念場よ
>返し馬もいい動きしてる
>これは期待できるか
>ゲート入った
>スタート!
>カイザー好位につけた
>いい位置
>相変わらず鷹騎手のポジション取りうますぎる
>道中も折り合ってる
>4コーナー
>カイザー外から上がってきた
>来た来た来た
>直線!
>カイザー伸びる伸びる伸びる
>末脚えぐい
>先頭!
>そのまま!
>カイザーーーーー!!
>勝ったあああああ
>圧勝じゃん
>2馬身半差
>古馬相手に完勝
>ロードカイザー天皇賞馬!!
>鷹騎手おめでとう
>カイザーおめでとう
>この末脚はやっぱ本物だわ
>世代最強の意地見せたな
★
>でもさ
>言うと思った
>言うなよ
>ワスレナグサいたらどうなってたんだろうな
>やめろ
>菊花賞24馬身差世界レコードの化け物
>やめろって
>カイザーの末脚は本物だよ。今日のレース見ただろ
>見た。完璧だった
>でもワスレナグサは止まらないんだよなあ
>皐月賞もダービーも、並んでからもう一伸びしてる
>二の足な
>三の足もあるぞ
>やめてくれカイザーが泣く
>いや実際どっちが強いんだよ
>それはもう年末に答え出るだろ
>有馬記念
>有馬で当たるのか
>両陣営とも出るって話だよな
>ワスレナグサ三冠馬、カイザー天皇賞馬
>役者が揃ったじゃん
>これ以上ない対決カードだろ
>ジャパンカップはワスレナグサだけ出るんだっけ
>そう。カイザーは有馬直行
>陣営も完全に有馬照準か
>絶対に負けられない戦いってやつだ
>年末が楽しみすぎる
>生きる理由ができた
>有馬記念まで生きる理由ができた
>大げさ
>大げさじゃない
★
【ロードカイザー】
ウィニングランの歓声を、カイザーは背中で聞いていた。
勝った。
古馬を、まとめて負かした。
脚は、まだ残っていた。ダービーの時のような、絞り尽くした感覚がない。強くなった。それが、自分でわかった。
スタンドが、自分の名前を呼んでいる。
悪くなかった。
だが、足りなかった。
この歓声の中に、あの芦毛はいない。
ダービーのゴール前。並んで、差し返されて、また並んだ。あの馬の息遣いを、真横で聞いた。ゴールの後、首筋に触れた、あの温かい何か。
あれから、ずっと別の道を走ってきた。
あの馬は三冠を取った。世界レコードで。
自分は今日、天皇賞を取った。
(次だ)
カイザーは、前を向いた。
歓声の向こう、冬の方角に、あの芦毛がいる。
★
【鷹】
天皇賞のゴール板を過ぎた時、鷹は確かな手応えを感じていた。
カイザーは、強くなった。
ダービーの時より、確実に。夏を越えて、馬体が一回り大きくなった。末脚のキレは、今日の直線で証明された。古馬を子供扱いした。
検量室へ向かう途中、記者が駆け寄ってきた。
「鷹さん、天皇賞制覇おめでとうございます」
「ありがとう」
「年末は有馬記念ですか」
「そのつもりです」
「ワスレナグサとの対戦になりますが」
鷹は、少しだけ間を置いた。
「楽しみにしていますよ」
それだけ言って、歩き出した。
記者たちが、まだ何か聞いていたが、鷹は足を止めなかった。
ワスレナグサ。
菊花賞の、あの背中を思い出す。
風景のように遠ざかっていった、あの芦毛。
届かなかった。騎手の技術でどうにかなる差ではなかった。
でも。
鷹は、今日のカイザーの末脚を思い出した。直線で解き放った瞬間の、あの爆発力。あれは、菊花賞の時の自分の騎乗馬にはなかったものだ。
ロードカイザーの末脚は本物だ。
ワスレナグサは止まらない。
最強の矛と、最強の……いや。
鷹は、首を振った。
どちらが矛で、どちらが盾なのか。そんな整理すら、あの二頭には当てはまらない。
有馬記念。
中山2500メートル。
答えが出る。
それだけのことだ、と思い、首を振った。
それだけのことでは、ないのだった。
冬が、近づいていた。




