表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世ヒーラーのじじい馬、隠居したいのに長距離レースで無双する 〜こっそり全員癒やしてたら、伝説のステイヤーになってました〜  作者: 猫の造形美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/14

第10話 ズルして勝つじじい(新馬戦)

 眩しい太陽が降り注いでいる。


 東京競馬場、芝コース、左回り。距離は1800メートル。


 天候は晴れ。馬場状態は良馬場。


 絶好の競馬日和だった。


 発走のファンファーレが鳴り響き、スタンドから大歓声が湧き上がった。


 出走頭数は10頭。少数精鋭の戦い。


 注目の的は、1番人気のロードカイザー。鞍上は天才、鷹騎手。


 そして、不敵な笑みを浮かべる陣内騎手。


 その相棒が、芦毛の2歳馬、ユメノワスレナグサ。


 見た目は若く、美しい芦毛の馬。


 しかし中身は、前世ヒーラーの大聖者のじじいである。


(やれやれ、東京は広いのう)


 じじいは内心で呟く。


 走るより、日向ぼっこがしたい気分である。


 でも、陣内騎手が手綱をしごいている。やる気満々のようだ。


 ゲートが開いた。


 ガチャン、と重い音が響く。


 じじいは、完璧なスタートを決めた。


 電撃のようなスタートダッシュ。


(ふぉふぉ、我ながらうまくいったのう!)


 じじいは、内心驚いている。


 前世ではありえない素晴らしい反応速度。一歩目で、すでに他馬を1馬身リードしていた。


 陣内騎手は、調教師の指示を守り、迷わずハナを奪っていく。


 じじいは、単独の先頭に立った。


 作戦は、当然大逃げだ。


 末脚の劣るじじいには、ほかに勝ち道がないのだ。


 最初のコーナーを回る。


 道中、じじいはずっと先頭を維持した。軽快なフットワークで飛ばし、スピードに乗っている。


 しかし、じじいの心は冷めていく。


 陣内騎手は、ペース配分という言葉を知らないようだ。じじいでなければ、とっくに潰れていただろう。


 現に、じじいの心臓はすでに激しく脈打っている。


 このままでは、後半に行く前にバテてしまう。


 ここで、一回目の仕込みだ。


 じじいは、走りながら魔法を練る。


 人間には見えない、温かい癒しの波。


 それを、自分の心臓と肺に送りこむ。


 セルフヒールである。


 すうっと、胸の苦しさが消えた。


 溜まっていた疲れが霧散し、呼吸が完全にリセットされる。


 まるで、今スタートしたばかりの感覚だ。


 じじいは、涼しい顔で逃げ続ける。


 後方から、一頭の馬が上がってきた。


 宿敵、ロードカイザーだ。


 鷹騎手の完璧な手綱捌きで、じわじわと差を詰めてくる。


 向こう正面で、ついにじじいの真横に並んだ。


(ほう、やるねえ若いの)


 じじいは、隣のロードカイザーを見る。


 ロードカイザーは、闘志に満ちた目で睨んでくる。


 二頭の激しい併せ馬が始まった。


 並んだまま、第3コーナー、第4コーナーを通過した。


 最後の直線に入った。


 東京の直線は、長くて有名だ。


 525メートルの死闘が始まった。


「おい、もっと走れ!」


 陣内騎手が、激しく動き出した。


 風車鞭。


 鞭をプロペラのように振り回す技である。


 バシバシと、じじいのお尻を鞭で叩きつけてくる。


 さらに、お尻をトントンと上下させる騎乗。


(痛い痛い! やめなさい!)


 じじいは、心の中で大激怒。


 鞭が痛くて、仕方がない。


 おまけに、背中でトントンされて集中できない。


 応援どころか、完全に足を引っ張られている。


 そして、脚が急激に重くなってきた。


 肉体の限界が、近づいている。


 ロードカイザーが、グイと前に出た。


 頭半分、ロードカイザーがリード。


 鷹騎手の、鋭い鞭が入った。


 ロードカイザーが、舌を出してじじいを煽ってきた。


「お前の負けだ」と、言わんばかりの圧力。


 じじいは、カチンときた。


(舐めるなよ、小僧)


 二回目の魔法の準備に入る。


 再度のセルフヒールだ。


 全身の筋肉、関節、心臓へ、一気に癒しを流していく。


 すべての疲労が、一瞬で消滅した。


 スタミナは、再び無限大。


 じじいの脚が、爆発した。


 お尻を叩く陣内騎手は、自分の腕のおかげだと勘違いしているようだ。


 違う。


 じじいの自給自足である。


 じじいは、驚異的な脚の持続を見せた。


 ロードカイザーを、差し返す。


 残り100メートル。


 ロードカイザーも、必死に食い下がる。


 しかし、疲れを知らない馬には勝てない。


 じじいが、先頭でゴールを駆け抜けた。


 クビ差の勝利。


 場内アナウンスが、絶叫する。


「勝ちタイムは、なんとレースレコード!」


 電光掲示板に、信じられない数字が躍った。


       ★


 ゴールを過ぎた後も、じじいはピンピンしていた。


 2レース目に行けるくらい、元気だ。


 何しろ、さっき全回復したばかりである。


 じじいは、嬉しくなってしまった。


(ふんふん、楽勝じゃ)


 じじいは調子に乗っている。


 馬場の上で、ぴょんぴょんとスキップを始めてしまった。


 芦毛の体が、軽やかに跳ねる。


 隣を歩くロードカイザーは、ボロボロだ。


 肩で、激しく息をしている。


 さらに汗で、大変なことになっているのだ。


 そんなロードカイザーの周りを、ワスレナグサはスキップで回った。


 これでもかと、煽り倒した。


(若者よ、修行が足りんのう)


 じじいの悪い癖が出ている。


 ロードカイザーは、悔しそうにじじいを睨みつけた。


       ★


 一方、検量室の前。


 勝利したはずの、陣内騎手は不機嫌だった。


 顔が、般若のように怒っている。


 なぜなら、最後の直線で、ロードカイザーに一度前に出られたからだ。


 勝ってなお、それが許せないらしい。


 じじいには理解できない思考である。


 天才でありレジェンドである鷹騎手には、技術で完全に負けていた。


 パトロールビデオを見れば、陣内騎手のへたくそな風車鞭が丸わかりだ。


 記者たちが、陣内騎手に群がる。


「レコードでの勝利、おめでとうございます!」


「素晴らしい逃げ切りでしたね!」


 陣内騎手は、冷たい声で吐き捨てた。


「勝つには勝ちましたが、馬が全然言うことを聞きませんでした」


 喜びではなく、不満。


 自分の技術不足を、馬のせいにし始めた。


「道中、ずっとハミを噛んで暴走していました。私の指示を無視して勝手に走ったんです。もっと賢い馬なら、もっと楽に勝てていましたよ」


 近くにいたじじいは、その言葉をすべて聞いていた。


 馬耳東風、とはいかない。


 中身はじじいだ。人間の言葉が、完全に理解できる。


(なんじゃと、あの小僧……)


 じじいの目が、据わった。


 自分の下手な騎乗を棚に上げて、馬のせいにする。


 いかに聖人と呼ばれた大聖者のじじいとしても、許せない態度だ。


 決してお尻をバシバシ叩かれた恨みではない。


 せっかく、魔法まで使って勝たせてやったのに。


 陣内騎手は、まだ記者たちに愚痴を言っている。


「本当に、扱いにくい馬ですよ」


 とはいえ、できることはそうはない。


 魔法でぶっ飛ばすわけにもいかない。


 この体で攻撃魔法は使ったことがないし、魔法のプロフェッショナルであるからこそ、下手な悪戯はできなかった。


 しょうがないので、ふん、と鼻を鳴らした。


 じじいは、我慢することにしたようだ。


 中身がじじいなだけあって、感情のコントロールだけは一人前の馬なのだ。


 どんなに文句を言われようと、結果はレコード勝ち。


 これで美味しいリンゴが、たくさん貰えるはずである。


 じじいは、陣内を頭の中から消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ