表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/44

第41話 「包囲突破 ― 灰の突破口」

――ガリレア砂漠戦線・第七補給区画外縁。


 時刻、04時42分。


 照明弾が夜空を裂いていた。


 白い閃光が、夜の砂漠を昼みたいに塗り潰していく。


 砂丘の稜線。


 谷間。


 崩れた岩場。


 その全てに、人影が浮かび上がる。


 敵兵。


 敵兵。


 敵兵。


 どこを見ても銃口だった。


 重機関銃。


 迫撃砲。


 装甲車。


 対戦車兵器。


 敵兵力、推定千二百。


 完全包囲。


 対してこちらは――たった八人。


 普通なら、もう終わっていた。


 だが。


 ゼロ班の誰一人、怯えていなかった。


 いや。


 正確には、“怯える段階を通り越していた”。


     ◆


 砂丘裏の窪地。


 ゼロ班は散開しながら最低限の遮蔽へ身を隠していた。


 弾丸が頭上を通過する。


 ヒュンッ――!!


 砂が弾け飛ぶ。


 バルドが巨大防盾を地面へ突き立てた。


 ゴガァンッ!!


 直後、防盾へ十数発の銃弾が叩き込まれる。


「チッ……!」


 金属が軋む。


 だがバルドは一歩も退かなかった。


『ノア! 東側はどう見える!』


 無線越しの声。


 ノアは砂丘の斜面を滑るように駆け上がり、片膝をつく。


 モノキュラーを覗く。


 敵影。


 火線。


 隊列。


 移動速度。


 全部を一瞬で読む。


「……東は二百」


 一拍。


「北から増援。

 あと十9:09 2026/05/24分で三百を超えます」


 砂丘裏へ滑り降りながら続ける。


「東は“囮の壁”です。

 突破用じゃない」


 レオンが歯を食いしばる。


『西側も駄目だ!

 地雷原で完全に封鎖されてる!』


 ミアも焦った声を上げた。


『地雷密度、高すぎる……!

 安全地帯ほぼ無し!』


 イリヤが低く呟く。


「つまり、どっち行っても死ぬってことね」


「いや」


 ノアが顔を上げる。


「南だけ薄い」


 全員の視線が向く。


 ノアは砂丘南側を指差した。


「斜面奥。

 遮蔽物が少しある。

 敵歩兵密度も低い」


 サーシャが即座に地図を開く。


「待って。

 そこ――」


 一拍。


「重機関銃三基がクロスしてる場所よ!?」


「だからこそです」


 ノアは淡々と言った。


「敵は“そこから来ない”と思ってる」


 ジャドが吹き出した。


「ははっ。

 お前の“だからこそ”は信用できねぇ」


「結果的に成功してるだけで理屈が狂ってんだよ」


「でも成功してるじゃない」


 サーシャ。


「それが怖いのよ」


 イリヤが額を押さえる。


「……死ぬ気で走る作戦ね」


 ノアは否定しなかった。


 代わりに、小さく呟く。


「ゼロ班は、“死ぬ気で走る人間”だけ集められた部隊です」


 グレンが笑う。


「違ぇねぇ」


 だが、その笑みの奥には緊張があった。


 千二百。


 いくらゼロ班でも、数が違いすぎる。


     ◆


 敵包囲部隊。


 南側重機関銃陣地。


「照明弾維持!!」


「敵を動かすな!!」


「《Blank》を視認したら即撃て!!」


 兵士たちは怒鳴りながら射線を固定していた。


 彼らも恐怖していた。


 知っているからだ。


 ゼロ班を。


 そして“空白”を。


『確認急げ!!

 本当にあの《Blank》なのか!?』


『映像照合一致率九十二!!

 黒髪、少年体格、戦闘パターン一致!!』


『クソッ……!

 なんでこんな場所にいる!?』


『近づけるな!!

 近距離に入られたら終わるぞ!!』


 重機関銃手が唾を飲み込む。


 手汗でグリップが滑る。


「たった八人だろ……?」


 誰かが呟いた。


 だが返事はない。


 全員、分かっていた。


 問題は人数じゃない。


 “誰がいるか”だ。


     ◆


 砂丘裏。


 ノアが短く言った。


「まず俺が南斜面のMGを潰します」


 一瞬、空気が止まる。


 レオンが聞き返した。


『……は?』


「その間に全員前進。

 地雷原の穴を抜けてください」


 ミアが叫ぶ。


『待って!!

 MG三基よ!?』


『射線密度おかしいんだよ!?』


 ノアは平然としていた。


「走りながら撃ちます」


 一拍。


 ジャドが吹き出す。


「お前さぁ!!

 なんでそれを“普通の作戦”みたいに言えるんだよ!!」


 グレンも笑いながら肩を押さえた。


「いやー……。

 でも多分こいつ本当にやるぞ」


「やるじゃない。

 できるのよ」


 サーシャが静かに言った。


 ノアの目を見る。


 そこに迷いはない。


 恐怖もない。


 あるのは、“計算”だけ。


 この少年は。


 できないことを口にしない。


     ◆


 照明弾が消えた。


 砂漠が、一瞬だけ闇へ沈む。


 その0.5秒後。


 ノアが飛び出した。


 ドッ――!!


 砂を蹴る。


 斜面を滑る。


 敵包囲網へ一直線。


 敵兵が叫ぶ。


「前方!!」


「敵影一!!」


「《Blank》だ!!」


「撃てェェェ!!」


 重機関銃が火を噴く。


 ゴガガガガガガガッ!!!!


 曳光弾が一直線に砂丘を削る。


 だが。


 ノアは止まらない。


 伏せない。


 迷わない。


 最短距離だけを駆ける。


 弾丸が頬を掠める。


 砂が爆ぜる。


 防弾プレートへ火花が散る。


 それでもノアは静かだった。


(右。

 二射目が下がる。)


(左。

 連射癖がある。)


(中央。

 呼吸が乱れてる。)


 全部、見えている。


 敵兵の呼吸。


 照準のブレ。


 指の癖。


 火線の揺れ。


 ノアの中で、戦場だけが極端に遅くなる。


 そして。


 跳んだ。


 高くはない。


 人間的な、小さな跳躍。


 だが、その瞬間だけ。


 三基のMGの射線が揃う。


(ここ。)


 空中で銃口が閃いた。


 ――パンッ。


 ――パンッ。


 ――パンッ。


 三発。


 三つの頭部。


 三人の射手。


 重機関銃が沈黙する。


 一瞬、戦場が止まった。


「なっ……」


「一人で……!?」


「あの距離で!?」


「馬鹿な!!」


 敵兵たちの声が裏返る。


 ノアは着地と同時に砂を滑り、窪地へ身体を落とした。


 そして無線を開く。


「――今です」


     ◆


「全員前進!!」


 イリヤが叫ぶ。


 ゼロ班が一斉に走り出す。


 ミアが端末を見ながら叫んだ。


『ノアの通った場所!!

 そこだけ地雷反応薄い!!』


「つまり!?」


『“人間一人が通れる幅”だけ空いてる!!』


 ジャドが笑った。


「ははっ!!

 マジで道作りやがった!!」


 バルドが防盾を構える。


「全員、俺の後ろを通れ!!」


 バルドが最初に地雷原へ足を踏み入れた。


 誰も止めなかった。


 彼が先頭に立つ時、ゼロ班は必ず生き残ってきたからだ。



 敵兵が射撃を再開。


 だがMG三基を失ったことで、火線が乱れている。


 その数秒。


 たった数秒が、ゼロ班には十分だった。


 グレンが片手で狙撃する。


 パンッ!!


 敵狙撃兵の頭部が弾ける。


「右上、落とした!」


 サーシャが叫ぶ。


「レオン! 敵増援!」


『南西から百追加!!

 急げ!!』


 イリヤがミアの腕を掴む。


「転ぶな!!

 地雷踏んだら終わりよ!!」


「わ、分かってる!!」


 その後ろを、ノアが一人で抑えていた。


     ◆


 敵兵五十以上。


 怒号を上げながら突っ込んでくる。


 ノアは静かに立ち上がった。


「……時間稼ぎです」


 ジャドの怒鳴り声。


『ノア!!

 死ぬなよ!!』


「はい」


 一拍。


「楽勝です、こんなの」


「全然説得力ねぇ!!」


 敵兵が飛び込む。


 ノアは斜面を利用した。


 突撃してきた兵士の腕を掴む。


 重心をずらす。


 そのまま背後へ投げ飛ばす。


 二人まとめて転倒。


 落ちたライフルを拾う。


 三点バースト。


 パン、パン、パン。


 三人沈黙。


(左足重心。)


(照準が甘い。)


(撃つ前に肩が動く。)


 敵の癖が、全部見える。


 だから。


 ノアにとって戦場は、“読める”。


 敵兵が恐怖した。


「なんなんだコイツ!?」


「止まれよ!!

 なんで止まらないんだ!!」


「《Blank》だ!!

 距離取れ!!」


 その時。


 バルドの声が響く。


『ノア!!

 合流完了だ!!』


 ノアが後ろを見る。


 全員、生存。


 それだけで十分だった。


「了解」


 ノアは最後の敵兵を撃ち抜き、砂丘を蹴る。


     ◆


 全員合流。


 砂丘裏の窪地へ滑り込む。


 サーシャがノアの肩を掴んだ。


「……本当に走りながらMG三基落とすなんて……」


 一拍。


「人間じゃないわよ」


 ノアは少しだけ笑った。


「人間ですよ」


 ジャドを見る。


「ジャドよりは」


「なんで俺基準なんだよ!!」


 イリヤが吹き出す。


 レオンとミアも笑っていた。


「ノア生きてる……」


「それだけで崩壊しないの、ほんと意味分かんない……」


 バルドが最後尾から叫ぶ。


『まだ終わってねぇ!!

 移動するぞ!!』


 全員の空気が締まる。


『包囲を抜けただけだ!!

 ここからが本番だ!!』


 ノアはふと夜空を見上げた。


 照明弾の残光。


 その遥か向こう。


 遠い山脈側で、一瞬だけ閃光が走る。


 長距離狙撃。


 あの距離で撃てる人間は限られている。


(……アシュレイ。)


 ノアは小さく目を細めた。


「……あいつも戦ってる」


 そして前を見る。


「――行きましょう。

 まだ終わりじゃない」


 ゼロ班八人は、再び砂丘を駆け出した。


 敵千二百名の包囲を突破しながら、なお一人も欠けず。


 その夜。


 “ゼロ班”という名前は、敵軍内部でこう記録される。


 ――遭遇時、交戦非推奨。


 ――《Blank》接触時、部隊壊滅率極大。


 そして。


 兵士たちは震えながら、こう噂し始めていた。


 「奴らは人間じゃない」と。


――次回更新:今日17:30公開予定


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけたら、ブックマーク・評価・感想で応援していただけると嬉しいです。


『ゼロバレット』続編、第42話「戦況反転 ― ガリレア走廊の死闘」――


をお楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ