【第三話】逆戻り
周りがやけに騒がしい…それになんだ…?
体が焼けるように熱い…まるで本当に燃えてるように…。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
典膳は力の限り叫んでいた。
それもそうだろう、妄想でも無く実際に典膳の体は火に包まれ燃え上がっていたからだ。
「ど…どうなってるんですか隊長…。
いきなり倒れたと思ったらこの子から炎が…。」
当然、分かる訳が無い。
だが経験から今考えている猶予は無い、それだけは分かっていた。
「私にも分からない!でもそれを考えるのは後!今直ぐありったけの水を汲んできて!!」
「は、はい!」
エリス達は急いで馬に跨り、水を汲みに近くの川へと向かっていった。
その間、未だ発火し悶え苦しむ典膳を見て考えていた。
(どうして突然発火した…?誰かの’ギフト’?
それとも魔道具?…いやそんな感じじゃない。ともかくこのままじゃこの子は死ぬ!今は命を繋げる事を最優先に!)
手袋を外し、愛馬に備え付けていたバックから十字架のネックレスを取り出す。
首に下げた後、左手を典膳に向け目を瞑りながら右手でネックレスを握った。
「魔道具解放…リプレイ!!」
そう言うと十字架から赤い光が漏れ出し、光は右手へ伝わり胸部を通って左手へ、そして最後は典膳のの元へと向かった。
全身の光が典膳を淡く包んだ頃、体が一瞬で再生し、全く燃えていない状態へと戻った。
だがそれも束の間、数秒で再び炎が上がってしまった。
(ダメか…!)
「お待たせしました!」
背後から汗をかいたエリス達が両手一杯に木製のバケツを抱えて戻ってきた。
「よし!かけて!!」
「はい!!」
一斉にバケツの水をかけると、叫び声は多少弱まったが、炎はその逆、寧ろ強く燃え盛っている。
(やっぱりこれはただの炎じゃ無い…。
魔法やギフト、魔道具とも違う…一体この子の体で何が起こってるの?)
「がっぐぁぁぁぁ!!」
典膳の悲痛な叫びを聞いて部下達は顔を曇らせる。何もしてあげられない無力さを憂いていた。
「ぐ…ぁ…ぁ…。」
(マズい!!!!)
「リプレイ!!」
典膳の声が途切れかけた刹那、隊長は大慌てでリプレイを唱えた。
間一髪命は繋がったが、あと一歩でも遅ければ典膳は死んでいただろう。
救えたのはいい…だがこれからどうする。
(これじゃあイタチごっこだ…根本を調べない限り解決できない。)
「エリス!私のバックから’サーチ’を取って来て!」
「はい!」
エリスはバックから瓶底の様な分厚いレンズをしたメガネを取り出し、隊長に掛けた。
「魔道具解放!サーチ!!」
そう高らかに叫ぶと典膳の情報が一気に頭の中に流れ込んで来る。
だがあくまでも、この世界に来てからの記憶のみだ。
「!!」
「何か分かりましたか?」
「この炎の正体は…魔物を倒した時に得られる’経験値’だ」
「経験値…?何を言ってるですか!
経験値とは得た者に恩恵を授ける神からの恵み物!神聖な魔力の結晶体なんですよ!
それが何故燃え上がると言うんです!」
「ましてや神からの贈り物が人を害するなんて考えられません!」
エリスは思わず指摘する。
だがその認識は間違っておらず世間から見ればめちゃくちゃを言ってるのは自分である。
(…エリスの言う通り経験値が炎となり人に害を与えるなんて、常識じゃあり得ない。けどこの魔道具は真実のみを映し出す。情報に誤りは無い。)
(それ以前に経験値は自身の魔力と混ざり合い一瞬で吸収される筈…何故そうならない?)
さらに魔力をサーチに込めると、驚きの事実が頭の中に入ってくる。
(!!この子…魔力が”一切ない!!”
出会った時からやけに魔力が少ないと思っていたけれど…まさか一切持ってなかったなんて!けどなるほど…おかげで原因が分かった)
「この子には魔力が無い」
「!?」
「そんな生物…存在するはずが……。」
「信じ難いけどこれも紛れもない事実だよ」
「知っての通り経験値は、自身の魔力と混ざり合い増幅する事で、魔力の質が上がる恩恵ある物質。
だけどこの子の魔力は完全に0。
つまり経験値を受け止められるだけの”器”が無い」
「経験値は裸でこの世に長く留まっていられる物質じゃ無い、だから典ちゃんの中で何とか行き場を作ろうとした結果が、この子自身の命を奪う事。」
「!!」
「宿主の命が途絶えれば魔力は無に還る。
だから一刻も早くこの子を殺し、消えようと魔力ももがいているんだ。
どうして殺しの手段に発火を選んだのかまでは分からないけど。」
「でしたら…どうしようも……。」
エリスの絶望した様子を見て考える。
(…正直、どうすることも出来ない。
肉体を焼ける前の状態まで巻き戻す事はリプレイで出来る。ただ経験値そのものを取り除ける訳じゃ無い、戻したところでまだ炎に焼かれる事になる。寧ろ…苦しみ与え続ける事に……)
「…ごめん。」
目を瞑りリプレイから手を離そうとした直後、典膳は力強く右足を掴んだ。
「!?」
「何故…やめ…る…。
続け…ろ…。これからなんだ…やっと…この世界で俺は……。」
「それに…もう少し…もう少しで何か…掴め…そう…なんだ……。」
「…。」
今にも途切れそうな、か細い典膳の声を聞いて覚悟を決めた。
「エリス、持ってるポーション全部、それと一週間分くらいの食料置いて先に戻ってて」
「隊長!?」
「想像を絶する苦痛を受けながらもこの子の言葉には生を感じる。それを無視するなんて私には出来ない」
「たとえ無意味でもポーションが尽きるまでは付き合ってみるよ、手伝ってくれてありがとう。」
途切れかける意識の中、その言葉を聞いた典膳はニヤッと笑い足から手を離した。
「……。」
「分かりました、従います。無事帰って来られるのをお待ちしてます」
エリスとその部下達は深く敬礼し、食糧やポーションなどが入った荷物を下ろして、その場を後にした。
「さて典ちゃん、根性見せなよ!そして生き残ってみせて!!」
ドカッと地面に腰を下ろし典膳を見てニヤっと笑った。
ーー
ー
あれから何日経っただろうか。
私の魔力が尽きる度、ポーションを飲み体を戻す。時間感覚も無くなるほどの単純作業、ずっとその繰り返しだった。
だけど初めはあんなに激しく燃え上がっていた炎は次第に次第に収まり続け、いつの間にか消えていた。今は典ちゃんの可愛い寝息が聞こえるだけ。
私は汲んできた水でタオルを濡らし、典ちゃんの体を繰り返し拭いて目覚めを待っていた。
この調子じゃ朝には目覚めると思う。
すごい…凄すぎる。
あの絶望的な状況から本当に生き残るなんて。正直思っても見なかった。
「典ちゃん…本当によく頑張った。この勝負、典ちゃんの勝ちだよ。だから今はゆっくり休んで」
ここに来てからの記憶だけだけど分かる。
典ちゃんはこの世界の住民では無い。
珍しい髪の色にに、独特な気配…彼女は一体何者?
それにどうしてこの”刀”を?
…まっ、今は妄想だけ楽しんで典ちゃんから色々聞きますか。楽しみだなぁ、早く起きないかなぁ。




