【第4話】エルグリット国
焚き火の音がする…それに食欲をそそるいい匂い……。
「はっ!!」
飛び起きるとあんなに燃えていた俺の体はすっかり元通りになっていた。いや、寧ろ…。
辺りを見渡すとうっすら明るい、体感的に明け方4時くらいか。
「やぁ、おはよう」
正面には焚き火、その横に置かれた丸太に腰を下ろした娘が魚の串焼きを美味そうに頬張っていた。
「…また救われたな」
「固いのはあとあと、とりあえず食べな?
お腹空いてるでしょ?」
そう言うと丁度焼き上がった魚の串焼きを手渡して来た。
「おぉ、すまんな」
そういえばこっちの世界に来てから何にも食べて無かったな。
魚に齧り付くと病み上がりからか、涙が出そうなほど美味かった。
「フフっ、まだいっぱいあるから好きなだけ食べてね。」
焚き火の側には串焼きにされた魚が地面に刺さり大量に並んでた。
そう言う事なら遠慮なく頂こう。
数匹食べて腹も膨れてきた頃、気を利かせて水まで手渡してくれる親切さ。
ツラだけじゃ無く中身まで良いらしい。
「ふーー。生き返ったぁ。
改めて礼を言われてくれ、助けてくれてありがとう。」
「私は殆ど何もしてあげられてない。
今生きてるのは典ちゃんが頑張ったからだよ。
とにかく無事で本当に良かった。」
典ちゃん呼びは少し気になるが、この世界でいきなりこれ程の善人に出会えるとは運が良い。
2回も命を救われた大恩、いつか必ず返す。
「そう言えばまだ自己紹介してなかったよね。
私はロゼッタ•マセラティ。
一応エリグリット国、女王直属の兵士長なんだけど…こんなの言っても分からないよね。」
女王直属の兵士長…なるほどだから隊長って呼ばれてたのか。
にしても何故、俺が何も知らないと理解してる?
「その国は知らんが地位は大体分かる。
要するに国で1番強ぇって事だろ?」
「まぁそう言われればそうなるのかな?多分。」
只者じゃ無ぇとは思ってたがまさか国1番だったとはな。
まぁこんなレベルが世界に何人もいるとは思えねぇし、当然か。
「ねぇ、私から幾つか質問してもいい?」
「恩人の頼みだ、何でも聞いてくれ」
「ありがとう。じゃあ1番気になってることから…。」
「その“刀”ってどこで手に入れたの?」
意外だ、この刀に興味があったとは。
こんなもんこの世界じゃ幾らでも有るだろうに。
「あぁ、これは地球って星に居た時に…」
「地球!?」
言葉を遮るようにして、ロゼッタは声と共にのけ反った。
「そんなに驚くか?」
そう尋ねると今度は前のめりになり、顔を近づけて早口で話し始めた。
「そりゃ驚くよ!私達の世界にはね”アクセリア教”って宗教があって、その神話に出てくる神様の住んでる星が、まさに地球って名前なんだもん!」
「じゃあ典ちゃんは女神様だったの!?」
凄い誤解をされてるな。
簡単に整理すると、こっちでもあのおっさんのような宗派が色々あって、そのアクセ何とか言う宗教が、たまたまドンピシャで地球って名前を当てたって事か?それ以外はデタラメだし。
「そっちの神ってのは地球でどんな暮らしをしてるんだ?」
こっちの世界の宗教観、興味本位で聞いてみた。
「ええとね…確か好きな時間に起きて食べたいもの、やりたい事をして眠るだけという健康的かつ高貴な生活をしていると言われてるね」
…果たしてそれは高貴で健康的なのだろうか?まぁ多分、こっちじゃ死ぬのが当たり前って価値観だからそれが理想って事なんだろうな。俺の時代でもそれが庶民の夢とされてたし。てことは、この世界ではニートを崇めてるって事になるが…。
フフっ、それは少し面白いな。
「残念ながら俺は神じゃ無い。
それとは1番縁遠い生活をしてたからな。」
「ふーん…。」
興味深そうに聞いてるが、さっきからずっと視線が刀に固定されてる。
そんなにこの刀が気になるのか?
「触るか?」
「いいの!?」
刀を差し出すとロゼッタは目を輝かせ嬉しそうに受け取った。
コイツも相当に好きものだな。
「綺麗…ねぇ抜いてみてもいい?」
「あぁ。」
「ん…んん?あれ…?んんんんんっ!!!」
ロゼッタが顔を真っ赤にして刀を引き抜こうとするも、全く抜ける気配が無い。
…どういうことだ?
「はぁ…はぁ…う、嘘でしょ?
私が抜けないなんて…そんなこと……」
なんか知らんがすげぇ落ち込んでる。
しかし何で抜けねぇんだ?
ぶっ壊れたにしても、ロゼッタほどの筋力なら柄の方が持たない気がするが…。
「ちょっと貸してくれ」
一度刀を返して貰い俺も試してみる。
が、あっさりと抜けた。刀身や鞘を見てもおかしい所はない。偶然か?
「立てつけが悪かったんだろ、ほら」
今度は刀身を抜いたまま、ロゼッタに手渡した。その瞬間、刀が突如重量を持ったように急降下、そのまま「ドスン」と鈍い音を立て土煙を上げながら地面に落下した。
拾ってみるが刀はいつも通りの重さだ。
…理解出来ねぇ、一体何が起きてんだ?
「…やっぱり、私には装備出来ないんだ。」
ロゼッタは寂しそうな目で刀を見つめていた。
「どういう意味だ?説明してくれよ」
「?もしかして地球には“魔道具”が無いの??」
「魔道具?なんだそれ」
そう言うとロゼッタは驚いた表情をして軽く下を向き、顎に手を当てブツブツと何か言い始めた。
「そんな事が…?でも魔力を持っていなかったしあり得るのか…。いやしかし…」
「おい、何ブツブツ言ってんだよ」
ツッコむとハッとした様子で顔を上げ、魔道具について説明してくれた。
「あぁごめんね!ええと、簡単に説明するとだね、魔道具は“特殊な能力”が宿った武器の事。私が魔物を倒したのも、典膳を治したのも魔道具の力だよ。」
そんな便利な物があるとは、この世界は何でもありだな。だが俺の刀と一体何の関係があるんだ?
「私は一応、魔道具の使用を得意とする一族の末裔でね、今まで使えなかった魔道具は無かったんだけど…。」
「…ん?ちょっと待てよ、なら俺の刀が魔道具って事にならねーか?」
「うん、その刀は確実に魔道具だよ。
凄い魔力をビンビン感じるし。」
この刀が魔道具って…まじか。
刃こぼれしない上に、やけに切れ味が良いと思ってはいたが、そう言う事だったのか?しかし、ただの刀が何故…。
神が気を利かせて細工でもしたって事か?
「ピリリリリリッ」
んな事を考えてたら聞き馴染みのある電子音がロゼッタのバックから聞こえて来た。この音…思い出せん、だが何処かで……。
「あっ、ちょっとごめんね」
「!!!」
ロゼッタが取り出した音の鳴る物体、それはまさしく”ガラケー”だった!
「もしもし、どうしたのレーヌ。」
完璧に使いこなしてやがる…。
まじかよ、この世界にもガラケー…と言うより通信機器があったのか。馬使ってるくらいだし文明は中世レベルだと思ってたんだが…
「…えっ!!
うん…うん…。分かったすぐ戻るね」
ロゼッタは何やら慌てた様子で電話をバックへしまい身支度を始めた。
「ごめん典ちゃん!直ぐ戻らなくちゃいけなくなった!だから話は行きながらでも良い??」
「話はって、俺も行くのか?」
「当然でしょ!さぁ早く乗って!」
当たり前の様に俺も国へ行く事になってた。まぁ行く当てもなし、丁度人里を目指してたし丁度良いか。
「この距離なら20分もあれば着けると思う、飛ばすからしっかり捕まってて!」
ロゼッタの背にしがみ付くと手綱を弾き、とんでもないスピードで馬が走り出した。
地球にいる馬の倍は早いんじゃねーか?
そしてその道中、この世界の事を簡単に聞いた。
地形は地球とあまり変わら無いらしい。
強いて言うなら大陸があまり分裂せず塊になってるって事くらいか?
んで、この世界に生息する生物は主に3種類
人間と魔物、そして魔人。
魔人は魔物から突然変異して生まれた人型の”魔物”らしく、数は少ないが人間と変わらない知能に加え高い”魔力”とやらを有してるらしい。
そして魔力は低いが社会性と文明発展力が強かった人間は、遥か昔に4つの巨大な国を作った。東西南北にそれぞれの国があって、東から順に「メシュラ国家」「ヒエルド国家」「エルグリット国家」「サハルビ国家」。
当然四カ国は魔族に狙われ常に戦争が絶えなかったそう。
団結力が無かったからこそ、魔力が低いにも関わらず今まで何とか対抗出来ていた人間族だったが、500年前。魔族を束ねる王、魔王と呼ばれる存在が現れる。
魔王の存在により、魔族に統率が取られ絶対絶滅の危機に陥った。だが魔王は攻め込まないどころか、魔族にある制限を課した。それは四ヶ国に対する’直接的な攻撃禁止’。つまり国の中にいる人間を襲っちゃダメってルール。一見優しい様にも見えるが、裏を返せば外に出た人間は例外なく襲って良いって
事らしい。因みに制限の理由は謎。
国の中に居れば襲われることはない。
だが当然国の中だけじゃ生きていけないから
四つの国家は資金を出し合い、危険を承知で外に出て食料や物資の調達、護衛や魔族の討伐など様々な依頼を出せる冒険者ギルド‘Liberty‘を設立。
そのリバティには各国に一人代表が居るらしく、エルグリット国の代表は何とロゼッタらしい。こりゃすごい。
「見えてきた、あれがエルグリット国家だよ。」
そうこう話を聞いてるうちにエルグリット国へと着いていた。高さ20メートルはあるであろう外壁、これが円状に国全体を囲む様に繋がってるらしい
まるでどっかで見た漫画みたいだ。
その圧巻の光景に目を奪われてるとロゼッタが、門の側に備え付けられたベルを2回鳴らした。
すると外壁上部にある見張り台から、二人の鎧を着た兵士が顔を出し、ロゼッタを確認すると大慌てで門を開けた。
「お疲れ様です隊長。」
門が開くと前に会った女、エリス…だっけか?とその部下が敬礼しながら出迎えてきた。
「出迎えありがとう。遅くなっちゃってごめんね」
「いえ。ご無事で何よりです。」
エリスはチラッと俺を見たかと思ったら直ぐ目線をロゼッタに戻した。やっぱり俺には微塵も興味なさそうだ。
むしろ嫌われてる?
「妹君に言伝を頼み、急なお呼び立てをしてしまい申し訳ありません」
「仕方ないよ、王女様からの呼び出しなんだから。要件はまだ聞いてないけどレーヌの様子じゃ相当急ぎの用らしいね」
「はい…それが厄介な事になったらしく……」
「分かった、先に行ってて。私も直ぐに行くから。」
「はっ!」
エリス達は早足で国の中央にそびえ建つ城に向かった。やっぱこう言うの見ると本当に異世界に来たんだと改めて実感させられる。
「ごめんね典ちゃん、置いてぼりにして。
はい、これ」
ロゼッタに手渡されたのは剣士の絵が彫られた一枚の金色の硬貨。
「この世界の金か?」
「うん、エルグリット硬貨は価値が高いから
それだけで一ヶ月は生活出来ちゃうよ」
スゲェ、一万くらいかと思ってたがその10倍は価値がありそうだ。
「本当にくれんのか?」
「もちろん、色々面白い話を聞かせてもらったしそのお礼だと思って」
「…何から何まですまないな。」
金の世話にまでなるとは…本当ロゼッタには頭が上がらねぇな。
「ただしお金をあげるのはこれっきり。
それ以上は自分で稼ぐこと!」
そうしたいのは山々だが…方法が思いつかん。皿でも洗いとかは性に合わんしな。
「例えばどうやって?」
そう尋ねると、ロゼッタは待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「冒険者になれば良いんだよ!
危ない職業だけどそれ故に楽しくて、1番自由な職業でもあるからね!」
「つまり勧誘って訳か」
「へへへ、当たり。典膳ほどの貴重な人材見逃しては置けないからね。」
ロゼッタはリバティの代表の一人らしいからな、実質部下になるってことか。
案外抜け目ないな。
冒険者ギルドは気になってたし丁度良いが、一つ懸念がある。
「面白そうだが、やっぱり魔力とか言うのが無いと厳しいんじゃねーのか?」
魔物、そしてロゼッタ達人間からも感じる言葉に言い表し様の無い威圧感。
それがコイツらの強さの源だってのは分かってた。それが無いと、この世界ではやっていけないという事も。
「心配しなくて良いよ、典膳にはちゃーんと魔力が宿ってるから」
「え?まじ?」
全く気付かなかった…いや兆候はあった。
目が覚めた時からやたら体調が良かったのはこのせいだったのか。
にしてもどうして突然俺に魔力が?
刀も勝手に魔道具になってるし。
「まぁとは言ってもゴブリン程度の魔力量だけどね」
「…。」
ゴブリンって道中何度も斬ったあの緑色の奴だろ?もしかして俺って才能無い?
「ふふふっ。じゃあ私は行くね!
典膳の武運を祈ってるよ!」
そう走り去ろうとした直後、振り返り俺を見た。
「そうだ言い忘れてた。
多分明日ギルドに行ったら私の妹が居ると思うから仲良くしてあげてね!
私に似て凄く可愛いからすぐ分かると思う!
じゃあまたねー!」
「おう、色々ありがとな!幾たび受けた恩、必ず返すぜ!」
「うん!期待して待ってるね!!」
ロゼッタは子供の様に大きく手を振りながら走って行った。
あ、そういや何でガラケー持ってたのか聞くの忘れたな。街見た感じやっぱり文明レベルは中世そのものだし。
今度会った時に聞いてみよう。
それにしても冒険者…か。フフっ、本格的に面白くなってきやがった。宿でもう一眠りしてから朝イチで行ってみるか!
ーー
ー
典膳と別れた後、ロゼッタは王女の元へ向かいながら考えていた。
(典ちゃん…か。面白い子だったなー。
フフッ、ゴブリン程度の魔力って言った時の顔…相当ショックだったのかな?)
(でも安心して、確かに魔力量はそうだけど
“魔力濃度”は人間とも魔族とも違う異質な物を感じた。あの魔力はまるで…。)
(確信したよ、典ちゃんなら私の夢を叶えてくれるって。期待してるね。)
そんな思いを胸にロゼッタは城の門を開けた
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ロゼッタ•マセラティ(25)
腰まで届く紫色の髪に赤い瞳をした美女。
エルグリット国、屈指の実力者。
自由奔放の性格から突発的な行動を取り困らせる事もしばしば。
だが誰に対しても分け隔てなく優しく部下、国民共に信頼は厚い。
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