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【第一話】異世界転生

「この男には呆れるな…。」


白髪に武将ヒゲを生やした老人が書類を乱雑に机に投げ置いた。

ここは天上、神と自称する謎の生命体達が円状に机を囲み、1人の男に判決を下していた


他の神も同調し不満を漏らす。


「全くだ、我々の存在を散々否定し馬鹿にしておきながら最後の最後に神頼みとは笑わせてくれる。」


「己の快楽の為、イタズラに命を摘んできた者に救済などあろう筈もなかろうが。」


長々と続く神々の愚痴を制止する様に、1人の神が手を挙げる。


「決を取る必要すら無いように思えるが、規律は規律、我々はこの男とは違うのだ。」


「では今一度神々に問う、有罪か無罪か。」


迷う事なく神々は一斉に手を挙げる、ただ1人を除いて。

それは白髪ロングの美しい女神だった。

神々は顔を見合わせ、いつもの事かの様に呆れた表情を浮かべている。


「フッ。決まったな」


罪を問うた神が女神を見て鼻で笑う。

そして木製の小槌を手に取り「コンコン」と二度強く打ちつけた。


「ギルティ。被告、時宮剣優を無限地獄に処する。」

ーー

とある病室、体を無数の管に繋がれた若い男がベットに横たわっていた。

無造作に伸ばされた髪、顔からは全く正気を感じられない。


男の名は宮下蓮也みやしたれんや


「じゃあ蓮也くん、ここに薬置いとくわね。

時間守ってちゃんと飲むのよ。」


「…。」


看護婦の言葉に反応もせず、ただぼーっと天上を見つめる蓮也。

それを見て同情する様に、諦める様に目を逸らし看護婦は部屋から出ていった。

「ピッ…ピッ…ピッ」

時刻は深夜。静寂の中、自身に張り巡らされた、聞き慣れた機械音だけがこだまする。

それを尻目に蓮也は、すぐ側の机に置かれた薬に目を移す。


(…これを飲み続ける事に果たして意味はあるのだろうか…。寝返りを打つだけで体が軋み、トイレに行く事が日に一番の運動の毎日…。)


(一体何年になる…?こんなクソみたいな生活を続けて…。)


蓮也は自身の痩せ細った両手を見て思う。


(自分の体だ、何となく分かる。このままいくら治療や手術を繰り返そうとも、決して改善する事は無いと…。)


(俺の体は…産まれた時から死んでいる。)


両手を強く握り、軋む音が聞こえるほど歯を噛み締める。そして深いため息の後、全てを悟ったかの様に全身の力を抜いた。


「よし、死ぬか。」


意図せず自然と漏れ出た声。

蓮也は躊躇なく、机に置かれた果物ナイフを手に取る。そして首に刃を向けた瞬間。

「ガラッ」っと病室のドアが開かれた。


「…あ?」


自決を邪魔され、睨む様にドアを見る。

だが怒りは一瞬で治る。

赤を基調とした花の模様が描かれた着物。

腰まで届く長く美しい白髪に、瞳は空の様に青く美しい。すれ違えば誰もが振り返るほどの美貌をした二十代程度に見える女が蓮也の前へ立った。


「初めまして、宮下蓮也さん。

今夜は月が綺麗ですね。」


妖艶の声色で話しかけてくる謎の女。

前世の記憶は無くとも、百戦錬磨の魂が見抜いていた。人の姿をしているが、コイツは人では無い別のナニカだと。


「…何者だ?お前」


問いに対し、女は軽く微笑む。


「一から説明するのは面倒ですね…はい、どうぞ。」


そして蓮也に向かって左手を伸ばすと一部の空間が歪み、そこから生前、蓮也が使用していた小太刀が現れた。蓮也は咄嗟の反射で刀を掴むと、頭に電流が走る様に記憶が蘇る。

前世の事、そして目の前にいる女が誰なのか、何故自分がこんな目に遭っているのかも全て情報として流れ込んで来た。


「……。」


あまりの衝撃に何も言えずにいる蓮也を尻目に、女は淡々と話し始める。


「神様達も酷い事をするものですよね。

私だったら耐えられそうにありません。」


「…で?神であるお前が何の様だ?同情でもしに来たか?」


自分をこんな目に陥れたのは神、そして目の前にいるこの女も神。

1人だけ異議を唱えていたらしいが所詮は同類、蓮也は自分を嘲笑いに来たのかと憤っていた。


「ある提案をしに来ました。」


「提案?」


「はい、私の管理する星に転生しませんか?

もちろん肉体を綺麗に治した状態で」


「!!」


「それは…俗に言う異世界転生というやつか?」


「えぇ、今流行りの異世界転生です。

どうですか?悪く無い話だと思いますが」


「…。」


蓮也からしたら断る理由など一切ない。

神により自分がこの先どんな地獄を見るのか分かってしまった。

直ぐにでも首を縦に振りたい所だが、一つだけ疑問があった。


「何故俺にそこまでする?神々への反発、お前にペナルティが発生しないとはとても思えないが。」


女神は一呼吸置き、話し始めた。


「…勿体無い。単純にそう思ったんです。

私はこれでも武を司る神。武を歩む者にとって貴方がどれほどの存在か理解しているつもりです。」


「数十年、数百年、あるいはもう一生産まれないかも知れない程の武の才を貴方は持っています。」


「確かに貴方は多くの罪を冒しました。

ですがもう良いじゃないですか、貴方は十分に罪を償った。私はそう思います。私がそう思えばそれで良いんです。」


「それに貴方なら…」


「…。」


圧倒的な戦歴から相手の真偽を見抜ける様になっていた蓮也は、神が嘘偽りない真実を話していると理解していた。


「フッ、随分勝手な理論だな」


「それが神ってものでしょう?」


「ハハハッ!気に入ったぜ」


蓮也がそう返すと女神は優しく微笑む。

そして両手を蓮也に向けると、床に魔法陣の様な紋様が現れ、病室全体を青白く照らした。


「肉体は生前のまま、年齢は10代に設定しておきますね。」


蓮也の体が徐々に光の粒子に変わり消えてゆく中、蓮也は最後に問う。


「最後にアンタの名前を聞かせてくれないか?」


「エリナレーゼ」


「そうか…エリナレーゼ。今まで神を蔑み見下してきた俺だが、初めて感謝する。ありがとう。」


粒子となって消えゆく刹那、蓮也は聞いた。


「私の世界では貴方の”夢”も努力次第では叶える事が出来る場所です。精一杯楽しんで下さい。」


「貴方なら、私の”夢”をも叶えてくれると信じています。また会いましょう」


その言葉を最後に蓮也の体は完全に消え去った。

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