【第二話】冒険開始
目が覚めると高原の上に立っていた。
遮るものは何もなく、ただただ地平線が広がっている。空は青空、日光が照らすように少し暑い。
あの神の言っていた事は正しかったようだ。
この慣れない胸の重みに股間の寂しさ…マジで女になってやがる。
だが女の体とはいえ久々の健康体ってのは良いものだ。にしても女…女か……。
まぁ前の体よりは100倍マシ、文句を言っても仕方ねぇ。歳は大当たりなんだ、ポジティブに行こう。
それにこの世界には魔法があるとか言ってたからな、男に戻る方法もあるかもしれんし。
そういや元々着ていた着物とこの刀。
間違いない、刀は俺が生前使っていた物だ。
標準装備させてリスポーンさせてくれてんのか。気の利く神様だ。
ーー
ー
何の考えも無くひたすらまっすぐ歩いてみたが…いくら歩いても草草、草まみれ。
建造物はおろか人一人見つからない。
過酷すぎてそんなに繁栄してないんだろうか。
「ぷぎゃっ」
右足に変な感触が走った。
ぐにゃぐにゃでゼリーを踏んだような感触。
それに変な鳴き声。
目をやると、黒い目玉二つ浮かべた青色の液体が俺を恨めしそうに睨んでいた。
「うぉ!!」
思わず一歩下がった。
流石にビビった、まさかあんな生物がいるとは。
みろ、踏まれてた部分が綺麗に戻っていく…。
あれ?このフォルム…まさか…。
こいつ”スライム”か!?
間違いない、やってたゲームのやつにそっくりだ。凄え…マジで異世界か。
「ぷぎぃ…」
ん?なんだ?スライムが更に強く睨みだした。
「ぷぎゃあ!」
「!!」
顔面目掛けて思いっきり飛んできやがった!
ギリギリ避けれたが…やべぇな、当たれば鼻折れるくらいの威力はあったぞ。
スライムってのは最弱のモンスターじゃねぇのかよ、それとも俺が弱過ぎるって事か?
だが…これはいい。
頂きが遠いほど、その分楽しい時間が増えるってものだ。あっちでは早く着きすぎたからな。
「ぷぎぎっ…」
おっ!避けられて今度は更に溜めてるな?
まだ溜める…もっと…もっと溜めて…。
今!
「ぷぎゃ…ぎゃ…」
あぁ…楽しいな、体が命令以上に動くってのは。
懐かしい感覚だ。
それにしてもいい切れ味だ、錆も無し。
神はちゃんと手入れしてくれてたんだな。
で、スライムは真っ二つに斬ったが、このまま再生することも無く絶命か。
…お、煙となって消えた。この世界で死ねば煙になり死体は残らないのか。化け物限定か?それとも人間も同じ?
にしてもこれから、こんなのがわんさか沸いてくるのか。前の時代と違ってこれらを殺したとて、罰せられる訳が無い。寧ろ称えられるのが当たり前の世界なんだろう。
…素晴らしい。これこそ俺の求めていた世界だ!
ーー
ー
それから暫くスライム、ゴブリン、名前の分からん四足獣達、etcに随分と楽しませて貰った。
が変だ。どうも体が重くなってきた。
おかしい、俺はまだ一撃も貰っていない、体力的な疲れはあれど、なんだ?この言い表しようも無い感覚は。
「!」
真後ろに突然現れた気配…今まで全く気付かなかった
「…フンッ」
気を使ってか数歩離れてくれた。
ありがたく正面を向かせてもらうと、そこにはゴリラを数倍デカくしたような灰色の化け物が立っていた。今まで会ってきた雑魚モンスターとはまるで違う気配、強さはドラクエで言うと20レベでやっとくらいか?少なくとも今の俺が敵う相手じゃ無い。
ステゴロならな。
「こいよ…ぶった斬ってやる。」
俺にはこれがある。
昔からの絶対的な相棒、これさえあれば俺は生きていける。この刀に斬れぬものなんてない、そう信じて斬って来た。鉱物ならまだしも相手は命ある生命、ならば斬れなかった例外無し!
斬ってやる、必ず。
そうだそうして油断し、鼻歌混じりに近づいて来い。俺の間合いまであと三歩…二歩……一歩!
刀を引き抜こうと決意した瞬間、化け物は目を見開き後ろへ大きく飛んだ。
殺気を直前で感じて逃げたのか…凄いな。
ん?今度は何をする気だ?
地面を思いっきり殴った、凄え力だ。
で…そこから出た破片を両手で持って…。
あ。思ったよりもクールな奴だった。
そりゃ近付かず倒せるのがベストだよな。
マズイな、このデカさは避けられねぇ…。
ま、試しに斬ってはみるが…。
神よ…俺死ぬの早過ぎない?
走馬灯が見えかけた瞬間、突如俺の頭上にあった岩は無くなった。代わりに小さな六面体となって雨のように降って来た。
理解が追いつかない、どう言うことだ?
目の前が晴れたと思いきや今度は化け物がガクガクと震えている。
側には腰に剣を刺した女騎士が立っていた。
「ダイス」
そう言った瞬間、化け物が岩と同じように大量の細かな六面体となり地面に転がった。
血は出ていない…だがそれぞれの六面体には肉片の断片が写っている。紛れもなく化け物だった物だ。
「大丈夫?怪我はない?」
女騎士が俺の目の前に寄って来た。
動き易そうなシルバーの鎧、腰には小太刀ほどの大きさの剣、デザインは西洋っぽい。
背中まで伸びる真紫の髪に端正な顔立ち。
背丈は170くらい、歳は20代半ってところか?
容姿は思ったより日本人っぽいかも。
いや…そんな事を考えるのは後だ。
俺は今、コイツに命を助けられた。
他の何よりも礼が先だ。
「ありがとう、おかげで助かった」
「うんうん、気にしないで。
でも驚いたよ、まさかこんなに若い女の子だったなんて、うちの妹と変わんないんじゃないかな。」
あぁ、見た目は15だもんな。中身は相当のジジイだってのに。
「隊長!!」
数匹の馬が駆ける音と共に、この娘の仲間が大慌てでやって来た。
ん?馬が一匹余ってる…まさか娘が乗っていた馬か!?じゃあここまで走ってきたのか?
どんな脚力と体力してやがるんだ。
「エリス、早かったね」
白馬から降り、エリスと呼ばれる娘の部下が叱咤するように問い詰める。
「いい加減にして下さい隊長、単独行動する際は何度も事前にと……!」
だが俺と目が合った瞬間、口を閉ざした。
目線は俺の腰にあった。
「隊長、何者ですか?」
長物を持ってる事でエリスの警戒度はマックス。
瞬時に自身の腰にかかってる剣に手をかけた。
いい心がけだ、まぁちと遅いがな。
「ちょっと待って、この子だよ。
この子を助ける為に先に行ったの。」
「…仲間も連れず女がこんな場所に1人、不可解です。それに見た事もない髪の色に奇抜な服装、信用出来ません。」
エリスは嫌悪の込もった視線で、更に強く睨んできた。フフフッ、こんな情熱的な視線を向けられたのは一体いつ以来だろうか。
「大丈夫だよ、確かに怪しいけど悪い子じゃない。私には何となく分かるんだ。」
「…はぁ。」
エリスは深くため息をつくと、義務的な感じで自己紹介してくれた。
「…失礼しました。
私はエリス•フィーレット、エルグリット国の兵士です。」
エルグリット国、当然聞いた事も無いがやっぱ国家があるくらいには発展してんだな。
まぁ文明レベルは中世ぐらいだろうけど。
「俺は…」
名乗ろうとして思った、果たしてどっちしようかと。楽しかったのは比べるまでも無く戦国時代、なら典膳と名乗るか…。いや生前も地獄だったとは言え、紛れもなく俺。名前だけでもいい思いをさせてやるか?
「典膳と蓮也、どっちがいいと思う?」
「は?」
エリスに何言ってんだコイツって顔で見られた。
そりゃそうだよな。
「典膳!略して典ちゃん!そっちの方が可愛いよ!」
だがこの娘は俺の望む返答をくれた。
ちゃんは余計だけど。
まぁ正直どっちでもいいから適当に選んで欲しかっただけなんだが。
「よし、名前は神子上典膳だ。よろし…!!」
握手しようとした瞬間、体中に電流が走った方のような痛みが…。化け物と戦った後、ずっと体が重かった…それが原因としか思えねえ。くそ…せっかく命を払った矢先に…突然…。ダメだ…体が動かん。意思が…なくなる。
「典ちゃん?どうしたの典ちゃん!!」
娘の慌てる声を最後に俺は意識を失った。
ーー人物紹介ーーーーーーーーーーーーーー
エリス•フィーレット(20)
20という若さでエルグリット国の副兵士長という座に就いた凄い人。
真面目で規律を重んじる性格で、アクセリア教と言う宗教の信者。幼い頃、隊長に救われた経験から隊長を心酔しており、忠誠心以上の感情を抱いている。当然部下にはバレているが隊長は気付いていない。
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