プロローグ 〜最強の男〜
時は江戸時代後期、この時代には最強と呼ばれる男が居た。男の名は時宮剣優。
戦闘において男の右に出る者は居ない、まさに天下無敵を体現したかの様な男だった。
だが時代は江戸後期、戦乱はとっくに終わりを告げ、また1人、また1人と刀を置き、武から離れていく。
しかし剣優は生まれついての戦闘狂、時代に似合わぬその思想は剣優を孤独にしていた。
退屈で、退屈で退屈で気が狂いそうになる日々、そんな男の人生にもようやく終わりが迫っていた。
無敵の男に訪れた初めての敗北。
それは病だった。
己の死期を理解した剣優は若かりし頃、修行に明け暮れた馴染み深い山頂にて骨をうずめる事を決めた。
「……。」
乱雑に後ろにまとめられた長髪。
無造作に生やしたヒゲ、着物は土や埃で薄汚れている。そんな自分の見た目とは真逆の、美しく無数に輝く星空を見て男は悔やんでいた。
(これでようやく俺も終わりか……。
何ともつまらぬ人生だった。)
男は唯一腰に携えている小太刀に目をやった。
(だがまぁ…ようやく“これ”から解放されると思えば…まだマシと言えるか…。)
物心ついた頃から共に人生を歩んで来た唯一の武器を、男は何の躊躇いもなく崖に投げ捨てた。
そして今一度、空を見て思う。
(宮本武蔵…伊藤一刀斎…塚原卜伝…小野忠明……。お前達の様な強者の居る時代に産まれる事が出来たのなら、俺の人生も少しは充実したものになったのだろうか……。)
(だとしても…この退屈な時代ですら成し遂げなれぬのなら、いつの時代でも俺の“夢”は叶わなかっただろうな…)
「ゴホッ…ゴホッ……」
右手で口元を拭うとベットリと血が付いていた。
ようやく終わりがやってきたのだ。
剣優は両手を広げ重力に任せて大の字に倒れた。気を許せば途切れてしまう意識の中で、剣優は最後に、そして生涯初めて神に願った
(あぁ…もし神や仏が居るのなら……どうか今度は……夢を追う事が出来る…そんな…世…界…に……)
そんな思いを最後に、最も強く、そして最も孤独な男、時宮剣優の人生は終わりを告げた




