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婚約破棄したので愛なんていらない!と義理の弟を可愛がっていたらなぜか私が愛されたんですが!?  作者: あまNatu


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悪いことは続かない

 二度結婚に失敗した令嬢。

 そんな不名誉極まりないあだ名がアリーシャについてしまった。

 しかし当の本人であるアリーシャは、なに一つ悲観的になっていない。

 なぜなら今回は不可抗力による失敗であり、次回が決まっているのだ。

 だからと今まで被っていた帽子は脱ぎ捨てて、アリーシャはありのままの姿で街を歩いていた。


「すっごい視線を感じる……」


「本当に……」


 ついてきてくれているナナリーが若干引きつった顔をしている。

 数多の令嬢たちの視線を釘付けにしているアリーシャは、気にしないよう努めつつ、たまたま近くにあった花屋を見つけた。


「――これ、ラルフの部屋に飾ろうかしら?」


 結局結婚式もきちんとできなかったので、ラルフとアリーシャは未だ婚約者という間柄である。

 なのでアリーシャはまだ伯爵家にいるし、ラルフは義母の子どもの小さなラルフとして同じく伯爵家で暮らしていた。

 とはいえもちろん結婚式の準備は進んでいる。

 今回は質素に家族だけでやるつもりなので、予定では一週間後だ。


「こちらは奥様のお部屋によいのではないですか?」


「あらいいわね。じゃあこれをお父様の部屋に……」


 なんて花をたくさん買っていた時だ。


「あーら。二度結婚に失敗した令嬢、アリーシャじゃない」


「……またあなたなの? バーバラ……」


 もういいと飽き飽きしつつため息をつけば、それを聞いたバーバラの顔が歪む。


「ちょっと! あなたみたいな落ち目の令嬢に声かけてくれる優しい人、私くらいならものでしょう!?」


 真に優しいものは人の婚約者を奪ったりしない、なんてことは残念ながら言えなかった。


「だいたいあの結婚式だって行ってあげたのよ!? ――まあ? とっても最悪な式だったけれど」


「え、本当にきてたの?」


 ダニエルが来ていたのはあの事件で知っていたが、まさかバーバラまで本当にきていたなんて知らなかった。

 義母が招待状を送ったからといって、わざわざくる必要なかったのに……。

 意外と律儀なことを知った。

 

「行ったわよ! ……そうしたら変なことに巻き込まれて怪我もするし……最悪よ!」


「え、怪我したの!? 大丈夫!?」


「――……あなたのそういうお人よしなところが嫌いなのよ」


 怪我をした人がいたら普通は心配するものだろう。

 それを嫌いと言われてもどうすることもできないと唇を尖らせていると、アリーシャとは対照的にバーバラは頰を赤らめた。


「あの事件のあと、あのBLUE BLOODから魔法薬が届けられたのよ! それを飲んだら一瞬で治ったわ。やっぱり最高の魔術師は最高の男だったってわけね」


「いや、意味がわからないんだけれど……」


 そこはイコールにならないだろうと首を傾げるアリーシャを、バーバラは力強く指差した。


「だからまた、あんたの男を奪ってやるわ!」


「――…………」


「BLUE BLOODも美人のほうがいいに決まってるじゃない! 私が誘惑すればダニエル同様簡単に落ちるわ!」


 バーバラは美しい髪をかきあげると、勝ち誇った顔で言い放つ。


「あんたは私に二度も男を奪われるってわけ! 残念だったわね!」


 おーほほっ、と大きな笑い声を響かせて、バーバラはその場をあとにした。

 残されたアリーシャとナナリーは、ただ呆然と立ち尽くす。

 あまりにもバーバラが嵐すぎて。


「す、凄まじかったわね……」


「――って! 言わせてばかりでよかったんですか!? それにあの女、ブラン様まで……!」


「あー……」


「あーじゃないですよ! もっと危機感を持ってください!」


 確かに一度婚約者を奪われた身としては、慌てふためかなくてはならないのだろう。

 けれどどうしてもナナリーのように慌てる気にはならないのだ。

 その理由は簡単。


「――でもあのブランよ?」


「――………………そうでした。ブラン様はあの無能男とは違うんでした」


 ナナリーもわかっていたのだろう。

 だが過去のことがあり慌ててしまったようだ。

 アリーシャの言葉に納得したように頷くと、改めて花を買いに店の中に入って行った。


「……それにしても、なんでバーバラはこんなとこするのかしら……?」


 いちおう友だちとして仲良くしていた時期はあったのだ。

 お互い変わり者ではあったから、ある意味波長があったともいえる。

 だがアリーシャの結婚が決まった途端、バーバラから距離をとられ始めたのだ。

 そしてあの寝取り事件となったわけだが……。


「なんだったんだろう?」


 アリーシャは小首を傾げた。






「ただいま!」


「おかえり、アリーシャ」


 ラルフの部屋へと向かえば、彼は大人の姿で出迎えてくれた。

 ちなみに使用人たちはこのラルフを見ても子どもの姿に見えているらしい。

 そこらへんも原初の大魔女と呼ばれた義母によるものらしく、鼻高々に語られた。

 だがもちろんアリーシャには元の姿に見えているわけで、ラルフの元までいくとその腰に抱きつく。


「お花買ってきたの! お部屋に飾っていい?」


「もちろん。とっても嬉しいよ」


 許可を得たので、るんるん気分で壁際にある花瓶の元まで向かう。


「そういえばね、今日バーバラに会ったの」


「――そうなんだ」


「そう。元々バーバラってBLUE BLOODのこと狙ってたんだけど、今日会った時にまたあんたの婚約者奪ってやるー! みたいなこと言われたの」


「ふーん……。馬鹿な女」


「なにか言った?」


「なにも」


 アリーシャは買ってきた白と青色の花を花瓶に飾りつつ、ふと横目に映ったものに片眉を上げた。


「…………ラルフ? なにこれ……?」


「ああ、それ? モルモットだよ」


「……モルモット?」


 聞き覚えのない動物だ。

 大きなネズミのようでどこか可愛らしいなと、カゴの中にいるモルモットを眺める。

 するとアリーシャを気に入りでもしたのか、グルル……っと鳴きながら近づいてきた。


「魔法で使うんだ。――実験台になってもらおうかと思ってね」


 まるでラルフの言葉に反応するかのように、モルモットがギュイ! っと鳴く。

 それがなんだか人間のようで、アリーシャはじっと見つめる。


「そうなんだ。……でもなんでこの部屋に?」


「――自分から来たんだよ」


「…………ふーん」


 その間にもモルモットはまるで、アリーシャになにかを伝えるようにギュイギュイと鳴き続ける。

 真っ黒な毛がふるふると震えていて、なんだかとてもかわいそうで……。


「…………ラルフ?」


「うん? どうかした?」


 なんだろうか、この違和感は。

 アリーシャの直感が告げている。

 この違和感を放置してはいけないと。

 だから閉じそうになる口を、無理やりにでも開けた。


「………………もしかしてなんだけれど……バーバラって、この家に来たり……した…………?」


 モルモットが興奮のあまり走り出し、カゴの中で暴れ回る。

 それをラルフは静かに睨みつけると、アリーシャのほうを見てこくりと頷いた。


「うん、きたよ」


「……なにか言ってた?」


「アリーシャよりも自分のほうが美人で俺にふさわしいって」


「ほーん…………」


 モルモットがギューギュー鳴きだす。

 その声のうるささに、覚えがある気がした。


「……それで、どうしたの?」


「え? バーバラのこと?」


「うん。――ちゃんと、帰したのよね……?」


 頼むからそうだと言ってくれと願ったアリーシャの思いは、ラルフの綺麗な笑顔で綺麗さっぱり消え去った。


「ううん。うざったいからモルモットにした。あとで実験台にしようかと思って」


「今すぐ元に戻しなさい――ッ!」


 アリーシャの叫び声に駆けつけた義母によって、バーバラは無事人間に戻れたのだった……。

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