最強メンバー
「――は! というか、結局ブランの本名は……?」
「ラルフだよ。ラルフ•ウィット。ウィット家なんてものはないけれど、魔術師としての力を国王から認めてもらえて、国のために働く代わりに公爵の地位をもらったんだ。でも外ではブラフの名前を使ってる。本名呼ばれるの嫌いだから」
あ、アリーシャにはもちろん呼んで欲しいなんて言われたので、ありがたくラルフと呼ぶことにした。
それにしても本来なら、そんな簡単にもらえるような爵位ではないと思うのだが、逆を言えばそれだけBLUE BLOODという存在はこの国に貢献しているのだろう。
いや、もしかしたら他国へ移るのを防ぐための措置かもしれない。
それだけの力が他国に行ってしまうというのは、この国にとってとても脅威のはずだ。
ゆえの飴と鞭のつもりなのだろう。
「ラルフね……? 変な感じが消えないけれど、今からはラルフって呼ぶことにするわ」
「うん。俺もアリーシャのことはお姉様じゃなくてアリーシャって呼ぶね」
なんだかからかいの雰囲気を感じて、ラルフを軽く睨みつけた。
「当たり前でしょう? ――は! というか私、そうとは知らずにラルフの婚約者を探してたの!?」
「その件は私がちゃんと手を回してあるから安心してちょうだい。例のお嬢さんがたには招待状、送ってないわよ」
義母の機転に安堵のため息をついた。
ラルフに会わせる気満々で呼んでしまったと思っていたのだが、そもそも手紙すら届けていなかったらしい。
よかったとほっとしているアリーシャに、義母はどこか呆れたような視線を送ってくる。
「そのお嬢さんたちね、どうやら人を探しているらしいのよ。一人は自分の母親にガツンと言ってくれた人にお礼を言いたいからって。なんでも子どもたちの話を聞いてくれるようになったんですって。で、もう一人も自分を恐れずに叱ってくれた人ともっと話がしたいって……。覚えある?」
「………………ナイデス」
身に覚えがありすぎる。
明らかに顔色を悪くしたアリーシャに気付きながらも、義母はため息一つで追求はしてこなかった。
「ちなみにダニエルだけれど、今は一旦捕まってるわ。ただ情報を与えただけだから、すぐに釈放されるとは思うけれど……」
「お灸にはなったでしょうから、もう接触してこないと思います」
「次アリーシャに近づいたら本当にねずみにするって脅しといたからね!」
たぶんそれがダニエルにとって一番怖いことだろう。
それならきっと、もう会うことはないだろうと安心した。
本当に義母は頼りになる。
魔法薬もそうだけれど、原初の大魔女と呼ばれるほどすごい人なのだ。
そんな人が自分の母親だなんて、なんて誇らしいのだと思った時、ふとあることを思い出した。
「――あの時の、ラルフだったのか!」
「あの時?」
急に名前を呼ばれてキョトンとするラルフに、伯爵家で見た義母浮気事件のことを説明する。
すると義母は疑われたというのに大爆笑だった。
「私がこんなガキンチョ相手にするわけないじゃない! 私がどれだけ押しに押してあなたのお父さんをゲットしたと思ってるのよ!」
さすがに二人の馴れ初めは知らないが、きっぱりと言い切った義母には頷くしかできなかった。
「なんだかいろいろな疑問が解けたなぁ……」
「ごめんなさいね。これもそれも全てあのガノンのせいだから」
まあそれはごもっともなのだが、名前が出たからついでと彼の今後を聞くことにした。
「ガノンはどうなるんですか?」
「なまじ力あるやつだから、下手に国外追放なんてしたら反旗を翻してきそうでしょう? だから無期懲役。魔術塔の地下に封印よ」
「……そうなんですね」
確かに義母の言うとおりだ。
あの手の男は手放すより、目に見えるところに置いて監視したほうがいいだろう。
「魔術師の扱いは難しいのよね。国も私たちに頼りっきりだから、海外に行くことすら難しいの。常に監視されてるようなものだし……。ま、ひとまずガノンのことは大丈夫だと思うわ」
まあもうラルフが狙われないというのなら、あとのことはアリーシャには関係ない。
どうか二度と関わりませんようにと祈っておいた。
「さっき確認したかぎり、ラルフにかけられた魔法は以前のやつと同じだったわね」
「ああ。これならすぐにでも解呪できるはずだ」
そういうことならひとまず安心していいのかな? とアリーシャは肩から力を抜いた。
「それにしても結婚式……。やっぱり結婚できない呪いでもかかってるのかしら……?」
「そんなのかかってないから安心していいよ。それに今度は絶対成功させるから大丈夫だよ」
「ええ。私の全ての力を使って、必ず成功させるわ。結界なん重にも張ってあげるから安心してちょうだい」
「俺も会場周辺に魔法張り巡らすことにするよ」
どうやら本気らしい。
あれやこれやと話すラルフと義母を怯えた目で見つめていると、そんなアリーシャの肩を父が優しく抱く。
「いろいろ困惑もしてるだろうし不安もあるだろうけれど……。きっと大丈夫だよ。我々がついてる」
「……そうね。とっても心強いわ」
最強の魔術師と最高の魔女、そして理解ある父親。
なんて最強の布陣だろうか。
心強すぎて思わず笑ってしまうような家族を、アリーシャは静かに眺めた。




