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婚約破棄したので愛なんていらない!と義理の弟を可愛がっていたらなぜか私が愛されたんですが!?  作者: あまNatu


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敵わない

「……つまり、ブランはラルフで、ラルフはブランで…………?」


「順を追って説明するわ」


 アリーシャはドレスのまま、伯爵家にあるラルフの部屋にいた。

 小さなラルフには大きすぎると思っていたベッドには、今ブランが座っている。

 魔力現象による苦しみは落ち着いたらしいが、絶対安静にしなくてはならないらしい。

 本当は寝ていてほしいのだが、話を聞きたい気持ちももちろんある。

 というわけでブランには折衷案でベッドに座ってもらったまま、話をすることとなった。


「ことの始まりは魔術師に二人の天才が現れたこと。一人はガノン。攻撃系の魔術に長けた男で、性格もそれに似合った横暴さ。そしてもう一人が全ての魔術の天才、通称BLUE BLOOD」


 義母はわかりやすくことの成り行きを説明してくれる。


「この二人のどちらかが魔術師たちを束ねる長になることになったの。……それでガノンはBLUE BLOODに敵わないと思い、卑怯な手を使って彼の命を奪おうとしたの」


「卑怯な……って?」


「……魔術師の子どもを脅して、その子どもの怪我を治そうとしたBLUE BLOODに魔道具を投げつけさせたのよ」


「――」


 それはつまり、子どもを使ったということか。

 アリーシャは己の顔に力が入ったのがわかった。

 子どもを脅して、怪我を治してくれているBLUE BLOODに魔道具とやらを投げさせる。

 一体その子どもはどれほど恐ろしく、どれほどつらかっただろうか?

 あの男、アリーシャたちの結婚式を邪魔しただけではなく、そんなことまでしていたなんてと怒りが沸々と湧き上がってきた。


「BLUE BLOODはそれに気づいてすぐに防御の体制に入ったけれど少し遅くて……。魔道具の力を不完全な形ながら浴びてしまったの。――それで、魔力の大半を失ってしまった」


 魔力は魔術師たちにとっては生命とも言えると、義母が言っていた。

 つまりその時のBLUE BLOODは瀕死の状態だったと言えるだろう。


「ガノンが長になんてなったら、魔術師は滅びるわ。あの男は非魔術師たちを馬鹿にしているから、必ず戦争を起こす。……だからBLUE BLOODを死なせるわけにはいかなかったのよ」


 義母は鼻の頭に皺を寄せると、心底悔しそうに言い放った。


「だから仕方なく……! 本当に仕方なく私が匿ったのよ。せっかく! 一目惚れして押しに押した男と結婚できると浮かれてたのに、急にコブ付きよ!? 信じられる?」


「……な、なるほど。じゃあお母様とラルフは」


「無関係よ! 私はついに好きな人と結ばれるんだってウキウキしてたのに……」


 義母が魔術師だと知った時、少しだけ疑ってしまったのだ。

 本当に父を好きで結婚したのかと。

 都合がいいからたまたまそばにいた父を利用したのではないか、と。

 しかしこの様子を見るにどうやらその心配は杞憂だった。

 なぜなら義母は今にでも膝から崩れ落ち、床を叩きだしそうなほど悔しそうだからだ。


「……じゃあ、お父様はそのこと」


「知ってたよ。ラルフが彼女の息子でないことも、彼女が原初の大魔女と呼ばれる天才魔女であることも」


 父はそう言いながら嬉しそうに笑った。


「優しい彼女を好きになった。だから受け入れたんだよ。人を救いたいと願う彼女を、愛おしいと思ったから」


「――あなた……」


 ラブラブである。

 もしや父に魔法をかけて……なんて疑いもしたアリーシャの思考はまるっと無駄だったらしい。

 まあそれならそれでいいかと、両手をとりあい見つめる両親に拍手を送った。

 幸せならいい。


「それで伯爵家に身を寄せてたのね?」


「うん。……魔道具の呪いを解くために時間が必要だったから」


「それならそうと言ってくれればよかったのに……」


「やつらの耳がどこにあるかわからなかったから」


 それはそうだ。

 子どもを使うなんて卑怯なことをするやつらが、そんな生ぬるいわけがない。

 どんな手を使ってでもBLUE BLOODを殺そうとしてくるのなら、その真実を知る人は少なければ少ないほどいいはずだ。


「……なるほどねぇ」

 

 アリーシャとて今の話を聞いてまるっと納得できるかと言われれば少し難しい。

 なぜなら彼はどんな理由があれ、嘘をついていたことに変わりはないのだから。

 むう、と眉間に皺を寄せるアリーシャに、ブランは叱られるのがわかっている子犬のような表情を見せた。


「……ごめんね? 怒ってるよね……? 黙ってたこと…………」


「……怒ってるというか……」


 怒りはあるかと言われれば答えは否だ。

 それはブランの境遇を知った今、自分でも同じことをすると納得できたからである。

 命の安全は人にとって最優先すべきことだ。

 なら一体なににアリーシャはこんな顔をしているかというと……。


「ラルフがブランってことは私……一緒に寝たりしてたってことでしょう? それってつまり……」


 あんな姿やこんな姿をブランに見られていたということだ。

 なんとも無防備な姿を愛する人に見せていた。

 それも無意識にだ。

 そんな恥ずかしいことはないと、アリーシャは顔を両手で覆い隠した。

 

「恥ずかしすぎる!」


 ああ、やっぱり無理だと顔を伏せたアリーシャの周りで、両親やブランが安堵のため息をつく。


「アリーシャ……。あなたは本当にいい子ね? 嘘つかれてた! って怒ってもいいのに……」


「その嘘は納得できたし、私を傷つける嘘じゃないから……」


「はー、私の娘は最高ね」


「本当に。……ありがとう、アリーシャ。そして……嘘をついててごめんね?」


 本当に申し訳なさそうにするブランに、アリーシャはふと妙案を思いついた。

 どうせこうやっていつまで経っても申し訳なさそうにされるくらいなら、代償を支払ってもらおう。

 そのほうがお互い気分もいいだろうと手を叩いた。


「ならそのお詫びに一つお願いがあるんだけれど」


「もちろん。なんでも聞くよ」


 神妙な面持ちのブランからは、たとえどんな無理難題を言われたとしても叶えようとしている意志が感じられた。

 ならばと、アリーシャは己の頰をぽりぽりとかく。


「こんどは家族だけでいいから、結婚式……ちゃんとしたい、かも…………」


 この心残りだけは今のうちに解消しないと、すっきりと前に進むことができなさそうなのだ。

 だからこそお願いっと両手を合わせて懇願すれば、ブランはポカンと口を開いた。


「……そんなのでいいの? というか、それは流石にするつもりだったというか……」


「本当に!? やった! もう次こそは誰にも邪魔されないようにひっそりとやりましょう!」


 改めて結婚式ができる。

 そのことにやる気を燃やすアリーシャに、ブランは力の抜けた笑みを浮かべた。


「――本当に……アリーシャには敵わないや」

 

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