ついに
バーバラは泣きながら帰っていった。
それはもうすごい泣きかただったので、よほど怖かったのだろう。
自業自得ではあれど、さすがに申し訳なかったので慰めつつ謝っておいた。
すると少し気が緩んだのか、ぽつりと話してくれたことがある。
「――本当にお人よしね。……私こんな性格だからアリーシャと友だちになれて嬉しかったのは本当よ。……でもあなたはたくさんの人に愛されてた。両親からも、婚約者からも……。だから悔しかったのよ」
自分も愛されたかったと自白したバーバラ。
その言葉になるほどなと納得してしまった。
バーバラはその美しさゆえ、たくさんの男性から求婚されているが彼女が求めているのは、きっとそういう愛ではないのだろう。
アリーシャが両親のそばにいて安心するような、包み込むような優しい愛が欲しかったのだ。
とはいえ、バーバラがやったことを肯定することはできない。
彼女がやったことは結果としてアリーシャを傷つけたのだから。
なので生暖かい目で送り出そうとしたら、なぜか砂を投げつけられた。
「ひどいと思わない?」
「まあまあ、話はそれくらいにして。……ほら、はじまるよ」
父に愚痴を聞いてもらっていたら嗜められてしまった。
確かにもうはじまるなと黙ると、やがて静かに扉が開かれる。
「…………」
人のいない教会とはこんなに静かなのかと、アリーシャはベールの下から厳かな雰囲気を感じとった。
拍手はただ一つ、義母が上げてくれるものだけだ。
前回途中で邪魔されたあの会場を、謝罪の意味を込めて魔術師たちが超特急で直してくれたらしく、今回とそこを使うことになった。
せっかくラルフが見つけてくれた、アリーシャお気に入りの場所。
叶うならやはり、ここで結婚式を挙げたかったのだ。
そんなわけでアリーシャは父とともにカーペットを歩き、会場の奥にある階段の前まで向かう。
するとどうしたことか。
真っ白なスーツがあまりにも似合いすぎる男が、アリーシャに向かって手を差し出してきた。
「……ブラン。君のことは息子のように思ってるよ」
「――はい。その愛情に心からの感謝を」
「……今度こそ、娘を頼むね」
「もちろんです。ともに生きていきます」
ラルフは父に頭を下げると、アリーシャとともに階段を上る。
神父の前までやってくると、二人はお互いを見つめ合う。
こうして向き合うのは二度目だというのに、何度でも感動してしまった。
「――汝、ブラン•ウィットはアリーシャ・マグラウェンを妻とし、妻を想い妻のみに添うことを誓いますか?」
「誓います」
二度目だけれど、ラルフが言い淀むことはない。
キッパリと言い切ってくれた彼に、アリーシャは静かに口端をあげた。
「汝、アリーシャ・マグラウェンはブラン・ウィットを夫とし、夫を想い、夫のみに添うことを誓いますか?」
答えはもう決まっている。
「誓います」
ラルフとともに生きると決めたのだから。
「それでは、指輪の交換を」
神父に言われ、お互いの左手薬指に指輪をはめる。
以前見た七色に光るその宝石を不思議そうに見つめていると、それに気づいたラルフが説明してくれた。
「魔法がかかってるんだ。……お互いの危険を感じとって、いざとなれば瞬時に行けるようになってる」
「へぇ……ん!? それってとてつもなくすごいことなんじゃ……」
「俺と原初の力作だから、ちゃんと効果あるよ」
そういうことじゃないんだけれど……とアリーシャは指輪に優しく触れた。
魔道具は魔法薬よりも高く希少性が高い。
それを結婚指輪にしてしまうなんて、やはり歴代最高の魔術師は伊達ではないようだ。
はぁ、と指輪を見つめるアリーシャの手をとると、ラルフはその手に優しく唇を落とした。
「俺はね、この力のせいでずっといいように利用され続けてきた。……だから嫌いだったんだ。人間というものが」
アリーシャははっとしてラルフの顔を伺った。
つらいことを話しているはずのラルフの表情は明るく、そのことにほっと息をつく。
「だからね、アリーシャと初めて会った時の俺はすごく失礼な態度だったと思うんだ」
そうだっただろうか?
初めて出会った時からラルフのことが可愛くて、アリーシャはかまい倒していた気がする。
「それなのにアリーシャは俺にずっと話しかけてくれて……。魔力を失って恐怖心を抱いていた俺のそばにずっといてくれて……心強かった」
魔術師にとって魔力は生命の源だという。
それに生まれた時から持っていたものの大部分を失うというのは、やはり天才魔術師といえど恐ろしかったのだ。
「その頃から君は特別だ。氷のように冷たい俺の血を、熱くしてくれるのはいつだって君の優しさだけ。――俺の全て。俺の命、……俺の愛」
ラルフはアリーシャの手を離すと、今度はその大きくて温かな手で両頬に優しく触れた。
目元を赤く染め、少しだけ照れくさそうに微笑む。
「――愛してるよ」
あ、と気づいたアリーシャが目をつぶる。
ラルフが動く気配を感じ、ついにキスするのだと高揚したその時だ。
耳元で吐息を感じた。
「――ねえさま」
小さくつぶやかれたその言葉にぱちりと目を開ければ、目の前にはイタズラを終えた子どものような表情をするラルフ。
アリーシャはその顔を見て、やられたことに気がついた。
「――っ、それは! 反則っ!」
「あははっ!」
こうしてアリーシャは三度目にしてようやく、結婚式を挙げることができたのだった――。
完
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