ご挨拶を
「わぁ……! ここが会場なんですね……!」
「すごいね」
真っ白な教会には、色鮮やかなステンドグラスがよく目立つ。
聖母マリアを表したそのステンドグラスに照らされて、十字架が美しく光り輝く。
細長い室内には長椅子が左右にわかれて置いてあり、中央には真っ赤な絨毯が部屋の最奥まで続いている。
最奥には階段が五段ほどあり、その上に十字架と小さなステージのようなものがある。
あそこで永遠の誓いをするのかと眺めていると、そんなアリーシャの腰をブランが優しく抱き寄せた。
「気に入った? アリーシャが好きそうなところを探したつもりなんだけど……」
「とても! 素敵な場所すぎて、きっと一生思い出に残ると思います」
「ならよかった。……まだ少し見てられるから座ってゆっくりしようか」
アリーシャは頷くと、ブランにエスコートされるがまま一番前の長椅子に腰を下ろした。
こんな素敵なところで結婚式をすることができるなんて、本当に夢のようだ。
荘厳なステンドグラスから目が離せずにいる。
「結婚式の準備はどう? 順調に進んでると聞いたけれどなにか不安なところとかある?」
「大丈夫です! 一応一度やったことと言いますか……。うん。ものすごく順調に進んでますよ」
「そう? ならいいけど」
まさか二度も結婚式の準備をすることになるとは思わなかった。
とはいえ一度目はアリーシャの意見なんて聞いてももらえず、ドレスですら勝手に決められていたのでここまであれこれやることはなかったが……。
準備が順調なのはもちろん、ブランのサポートあってのことだ。
アリーシャの望みを聞き、アリーシャの願いを最大限叶えるため行動してくれるブランには感謝しかない。
この会場を見つけてくれたのもブランであり、そこはアリーシャの夢見た景色そのままであった。
「実はドレスのベールに刺繍をさせてもらってるんです! 今は真っ白な花をたくさん縫っていて……。手が使えるって最高だなって思います!」
「そうなんだ。それは完成がとっても楽しみだなぁ」
ドレスはもうほとんど出来上がっていて、あとはヴェールの刺繍を完成させるだけだ。
義母からの提案でやりはじめたことだが、まさか自分のドレスを自分で作れるとは思わず、日々感謝しながら一針一針を大切に縫っている。
それもこれも全て義母が用意してくれた薬のおかげだ。
「魔法薬ってすごいんですね。あっという間に治った時は感動しました!」
「無事治って本当によかったね。……魔法は便利だよね。だからみんな欲しがるんだ」
なんだろうか?
なぜかブランの声が少しだけ寂しそうに聞こえた気がした。
とはいえ表情などに変化はなく、きっと気のせいだとアリーシャは続ける。
「そうですね。でもだからこそ、あんまり頼らないようにしようって思いました。今回はいろいろあって頼ってしまいましたが、自然の摂理に抗うっていうのはよくないなと思いました」
うんうんと、頷きつつなんだかかっこいいことを言えてる気がすると、アリーシャは少しだけ高揚した。
「便利ゆえに依存性が高いと思うんです。でもそれってあの薬を作ってくれている魔術師さんが疲れちゃうんじゃないかなって。なので極力魔法薬には頼らずに生きていきたいところです」
正直便利だし、すぐに治るというのはありがたかった。
痛みが少ないというのも最高のポイントだ。
だが同時に恐ろしくと思った。
これに慣れてしまったら、魔法薬を手放せなくなってしまう。
魔法薬自体大変貴重であり、なかなか手に入らない代物だ。
それを手放せなくなってしまうなんて……。
考えるだけで恐ろしい。
ならやはり最初からないものとして生活するほうがいいだろう。
依存は怖い。
そう自分で納得して頷くアリーシャの隣で、ブランはまるで安堵するようにため息をついた。
「――そうだね。……好きだよ、アリーシャ」
「な、っ! なんですか急に!?」
今の話の流れでどうしてそんな発言になるのだと、アリーシャは狼狽た。
夫婦になるとはいえ、まださすがに恥ずかしいと真っ赤になった両頬を手で隠す。
「いや、改めてそう思ったから伝えたんだ」
「……ありがとうございます。とっても嬉しいですし……私もです」
ああ、恥ずかしいとブランのほうを見れないアリーシャは、逃げるようにまたしてもステンドグラスを眺めた。
「――結婚式、とっても楽しみです。あ、そういえばご両親へのご挨拶は?」
「あ――。そうだったね。両親は子どものころに交通事故で亡くなってて……その後は親代わりの人に育ててもらってたんだけど……その人ももう……。だから気にしないで大丈夫だよ」
「……そうだったんですね」
他人事ではないなと、アリーシャは視線を下げた。
実母を病で亡くしているからか、もしも今父がいなかったらと想像することがある。
それだけで泣きそうになるほど悲しみが胸を支配するので、彼の苦しさは測り知れない。
「私も小さいころに実母を亡くして……」
「――そうだったんだね」
「……もしよければ、一緒にお墓参りに行きませんか? 私のお母さんに紹介したいですし……。紹介してほしいな……って」
お互いの両親に挨拶はすべきだろう。
たとえそれが亡くなっていたとしても。
それが誠意というものだと思うので提案をすれば、ブランは嬉しそうに頷いてくれた。
「そうしよう。アリーシャのお母さんに挨拶できる日を楽しみにしてるよ」
「……私もです」
両親に挨拶をすれば、あとは本当に式をあげるだけだ。
アリーシャは優しく見守ってくれる聖母マリアを表したステンドグラスを眺めながら、自分の結婚式に想いを馳せた。




