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 橋を渡ると緩やかな登り坂になる。歩道を歩いていると、椿本が後ろから追いかけてきた。

 「義彦、ちょっとつきあえよ」

 椿本は不機嫌な顔でそう言うと、私の肩を叩いた。挨拶代わりにしてはかなり強い叩き方だった。そのまま早足で先を歩いていく。

 私は無言でついていくが、行先は見当がついた。近くにある神社だろう。

 椿本は案の定、石の鳥居をくぐって参道を進んでいく。杉の大樹に囲まれ鬱蒼とした鎮守の森は、一年中深い緑色を呈している。

 まっすぐな参道の先に神社の社殿があり、その隣に古い舞台がある。神楽殿というらしいが、昔はここで舞や能などを披露したのだろう。

 椿本は舞台の前で立ち止まり、振り返った。そして向き合う格好になった私の肩を突いてきた。

 「てめえはなんなんだよ!…佳奈のなんなんだよ!いい気になるんじゃねえぞ!」

 いきなり怒声を張り上げると、憤りと羨望と嫉妬の入り混じった眼で、私を睨みつけてきた。

 佳奈と一緒に歩いている様子を、どこかから見ていたのだろう。そしてこういうことになるだろうと予想はしていた。面倒くさいことになったと、心底うんざりした。

 お互い目をそらさずに、しばらく時間が流れる。

 「つまらねえことはやめときな」

 私は、因縁をつけるのはやめろ、と言ったつもりだったが、椿本はそう取らず、佳奈へのつきまといや無言電話のことを責められたと思ったようだ。椿本の顔がさらに険悪になり、怒りで真っ赤になった。

 「てめえになにがわかる!…てめえは何様のつもりなんだよ!」

 私のひと言に興奮した椿本は、ちくしょうと叫びながら殴りかかってきた。私はその右手を払いのけ、左の頬に張り手をくらわせた。椿本は吹っ飛んで地面に横倒しになった。

 少しの間呻いていたが、すぐに顔を上げ私を睨みつけた。その眼には涙があふれている。鼻血も出ているが気づいていないようだ。

 「いつかてめえに同じ思いをさせてやる…絶対てめえに悔しい思いをさせてやる」

 しばらくの間無言で睨みあったが、私は無為な争いが面倒になって、参道の方へ歩いていく。

 「待て!」

 振り向くと、上体を起こした椿本が憎悪に満ちた眼で睨んでいた。罵りの言葉を吐きながら。


 

 …匕首どすを構えた椿本は、あの時と同じ眼をしている。20数年前と変わらぬ眼だ。

 「てめえは死ねや…てめえは昔から目障りなんだよ。…腕っぷしが強くて、頭が切れて、ガキどもから信頼されてて、女にももてる。…なんにもしゃべらねえ、だんまり野郎のくせに誰からも一目置かれやがって」

 椿本は私から目を離さずに訥々と語る。私は目を合わせたまま、周囲に設置されているさまざまな物を観察していた。

 「てめえがいつも邪魔だった。いつだっててめえは俺より上にいたからな。…てめえさえいなきゃ俺がいい顔になれたはずだ。若いヤツらだって女だって、俺の自由になったはずだ。てめえさえいなきゃな」

 椿本の思い込みはただの被害妄想のようなものだ、大して実力のない人間は自分の落ち度を棚に上げ、評価しない周りが悪い、自分より目立つ他人さえいなけりゃと思い込む。

 「立花、死ねや!」

 椿本は匕首どすを上段に構えて突っ込んできた。

 

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